第23話 仕事を終えて
旅行に来たって説明したのに仕事とか、不自然すぎる。
グレンはもう苦笑いするしかなかった。
だがそんなグレンをみて、海斗は手伝うと言ってきた。
「おっちゃんにはメッチャ世話になったからな。少しでも恩返ししないと」
「いや、ホントに良いんだ。ちょっと危険だしな」
「危険? んじゃ尚更じゃないか。アンジーも一緒なんだろ? たった二人でこんな国で仕事するなんて」
思ったよりも海斗のやつが乗り気になってくれた。
色々聞いたところ、グレンが家に居候させてあげた事は死ぬほど嬉しかったらしい。話には聞いていたが、本当に一文無しの宿なしだったらしいのだ。それに空間収納も涙が出るくらい役に立っているとのことだ。まぁこんなに長距離の旅をするのなら当然か。
「だがパーティメンバはどうするんだ?」
「聞いてみるよ。一緒に来るっていうかもしれないし。みんな帰れなくて困ってたんだ」
◆
その日海斗は早速ミカ達に相談を持ち掛けた。
ここで待っててもらっても良いし、一緒に手伝いをしてくれてもよいと。結果、ミカ達も帰れるのであれば何でも手伝うということになり、翌朝、グレンとアンジーも含めた7人パーティでブランカ城へと向かっていた。
ただグレンから聞いた内容は結構深刻だ。
まさかナッシュがそんな事になっていたなんて。
海斗達は商人であるグレンを護衛するギルドパーティとして一緒に行動する事になった。これならよくあるパターンだそうだ。グレンは本当は一人で行きたかったのだが、エイベンの商人がたった一人でブランカを旅するのは不自然すぎて目を付けられやすいとの事だっだ。
だが一番驚いたのは、グレンが元冒険者であり、見る限り海斗達よりは段違いに強い事だった。一人でガザム山脈を超えて来たと聞いたが、それも納得だった。
「ぐ、グレンさん。オレらも修行のため戦いたいんで……」
「そうよ。年寄りは大人しく馬車に乗ってなさい」
「お、おう。そいつはすまねぇな」
何だか知らないが一振りでばったばったとモンスターを倒してしまうため、海斗達には全く回ってこなかったのだ。どれだけ強いんだよって感じだな。海斗達の役割がカモフラージュというのも、まんざら嘘では無いらしい。
「ふぇ……。ここがブランカ城か」
おどろおどろしている城をみてライアン達もあっけにとられている。
「聞いていた以上だな。ここに入るのは勇気がいるぜぇ」
「まぁとにかく、先に町に入りましょう」
気持ち悪い城を横目にみながら馬車を走らせ、城下町に入った。
入る際に衛兵から色々と質問を受けたが、グレンが上手く応対していた。
城下町は、ダムダの町と良く似た雰囲気だった。
つまり目つきの異様な人たちと罪人たちで溢れ返っている。
一応ギルドがあるのが救いだ。
ギルド内だけは、まだマシな連中が多い。それに他の国から来ている人間も多いし。
「とりあえず長期戦になるから、住処を確保しないとな」
「冒険者が多く住むエリアがあるらしいから、そこが良さそうね」
あまりにも異色な町であるため、ギルドが国と交渉して冒険者達の生活するエリアを確保してくれているらしい。確かにブランカ教に染まった町で一般人が生活するのは苦しすぎる。
「ところでナッシュはどうやって見つけるんだ?」
「見つける必要はないわ」
手ごろな施設を契約し、早速作戦会議をしているとアンジーは黒い石のような物を取り出して見せてくれた。鑑定してみると『魔道具』と出た。
「念話石よ」
「すごーい。見るのは初めてだわ」
ミカが興味深々で身を乗り出して覗き込む。
比較的近い距離であれば、文字通り話しが出来るものらしい。
「魔力石を消費するから、あまり緊急時以外は使えないけどね。これもナッシュのツテで手に入れたのよ」
騎士団に所属している家族を通じて色々と便利なものが調達できると以前聞いた事がある。その中の一つなんだろう。
さしずめ無線機のようなものだろうか。
それに魔力石というのは電池のようなものだろう。電池は高価なものらしい。
「まぁ魔力石なら俺が少し持っている」
グレンが遠慮なく使えとアンジーに手渡した。
「ありがとね。さっき発信したんだけど、彼からはまだ応答がないの」
一旦ナッシュからの連絡待ちとなったため、それぞれ部屋で休息をとる事となった。
そして翌日ナッシュからの返事が来た。
「彼、怒ってたわ」
と笑いながらアンジーは言った。
そりゃそうだろう。危険だからと置いて来たのに、まさか一人で乗り込んでくるとは。
ただ親のグレンや海斗達も一緒だと説明してなんとか落ち着いたらしい。
「で、12時頃にブランカの城から出る冒険者風のパーティを襲うらしいの」
「襲うって、何で?」
「帝国の人間らしいのよ。帝国がブランカを使ってルマリアの内乱を誘発している疑いがあるの。ううん、ほぼ間違いないと言ってたわ」
「何だって? それが本当ならえらい事だぜ」
「そうなのよ。だからルマリアも必死になって証拠を集めているわ。集まれば、それを各国に突き付けて四ヵ国連合で帝国を攻めるのよ」
海斗には話の内容がさっぱり分からなかった。
どうも、アダマン帝国というのがこの大陸で一番強大な国らしく、その他15ヵ国のトップに君臨している。だが近年、各国が徐々に力を付けて来たため、それを恐れた帝国が内乱を誘発させて国力の低下を謀っているのだとか。
実際、ルマリア国ではゴルドリックとの戦争が起きている。
「でも自分達だけでやるから、フォローするなら遠くからやれって言うのよ」
「まぁそうだよな。俺達がしゃしゃり出て計画が狂ったら大問題だからな」
海斗達はナッシュの言うとおり、離れたところから様子を伺う事にした。
指示された場所で隠れて待っていると、帝国の人間らしきパーティが通りかかる。そこへナッシュ達の襲撃が行われる。
「あれだけ人数が居れば大丈夫かね」
「みたいね。すごく本格的だよね」
「そりゃあ大陸全体の運命が掛かってるんだからな」
ナッシュが参加している襲撃隊は数十人の人間がいた。これだけの人間をお忍びで潜伏させるのは大変な事だろう。もちろん他にも情報入手するメンバやブランカ側で内通するメンバなどが居るはずだ。
ルマリアとコンラートだけではなく、他の国からも要員を集めて結成しているのではないかと思われる。
が、襲撃隊が帝国パーティを取り囲んだ瞬間に爆風が発生した。その威力はすさまじく、海斗はまるで映画でも見ているかのようなその惨劇に体が硬直した。
横でグレンが「まずい!」と叫びながら駆け出した。
その後ろをアンジー達も追っていく。ミカだけが海斗のそばに残ってくれていた。
「……大丈夫だ。オレ達も助けにいこう」
「いいのよ、無理しないで」
「心配かけてばっかだな、オレ。本当に大丈夫だ。今こそ『治療』スキルの出番だしな」
本当は足が震えていたが、海斗は勇気を振り絞って立ち上がった。
海斗がこれほど恐れた理由は、爆風を放った人間が白装束の出で立ちだったからだ。前に手も足も出なくて殺されかけた相手。だが今は手練れのグレンが居る。恐れる事は無いはずだ。それにナッシュを助けなければならない。
驚くべきは、敵である。
なんと爆風により味方であるはずの帝国パーティをも巻き添えにしていた。いや、むしろ爆風を至近距離で受けた分、ダメージは大きい。ざっと鑑定しただけで既に近くの数人は死亡していた。
年寄りのクセにグレンの駆け寄るスピードはすさまじく、あっという間に白装束の男と対峙していた。海斗が鑑定すると、やはり名前以外の情報は出てこなかった。以前、海斗達を襲った人間とは別人だ。
グレンが振り払った斧を受けて白装束の男が派手に吹き飛ぶ。すさまじいパワーなのであろう。しかし、男にダメージを受けた節はなかった。
「ほう、こんな奴が紛れ込んで居たとはな。お前は何者だ?」
「通りがかりの旅の商人だ」
「ふざけた態度を取ってくれる。いいだろう、その口、開けなくしてやる」
グレンが白装束の男を抑えていてくれる間に海斗達は怪我人の手当てを行う。だがしかし、先ほどの爆風で殆どが死亡していた。
「ナッシュ!!!!!」
アンジーがナッシュを見つけたらしく、慌てて駆け寄った。みると、満身創痍ではあるがかろうじて生きていた。海斗はすかさず『治療』スキルを掛ける。
そして、他にもギリギリ助かったメンバを探しして一通り『治療』を掛けた。
「アンジー、治癒魔法を掛けておいたから、しばらくすれば治るはずだ。急いで怪我人たちを安全なところへ」
「わ、わかったわ」
さすがのアンジーも慌てている。
運ぶのはライアン達に任せ、海斗はグレンの様子を確認する。
「くっ。これ程の人間がいるとは事前の情報になかったのにな。全く、上の奴らは本当に適当な仕事をしやがる」
そんな口ぶりからも、僅かにグレンが押しているようにも見える。
だが次の瞬間、覆面の男が何らかのスキルを発動したらしく、光の玉がグレンに襲いかかった。それを紙一重で躱すグレン。かなりのスピードだ。そして、光の玉はぐるっと軌道を変え、再度グレンに向かって突き進む。まるでホーミングミサイルのようだ。
「やるなっ。ならもう一つプレゼントしよう」
更に光の玉が追加される。二つの玉はお互いにぶつかることなくグレンを襲っている。
「海斗! 逃げるんだ。こいつは引き止めておく」
グレンが必死に叫ぶ。だが男はそれを許さなかった。
「だめだな。全員始末しろとの命令なのだから」
そう言うと、更に光の玉を造りだして今度は海斗に向かって飛ばしてくる。
「やめろーっ!!!!!」
グレンが叫びながら助けようと走ってくる。海斗は咄嗟に空間障壁を掛けた。そして猛烈なスピードで向かってきた光の玉は、障壁にぶち当たると地響きが起きるくらいの振動を伴いその場で爆破した。爆風だけでも吹き飛びそうな威力であったのだが、全て空間障壁が防いでくれた。『空間障壁』は、かなり強力なスキルのようだ。やはり時空魔法の一種なのかもしれない。
「なんだとっ!?」
覆面の男の声が僅かに裏返った気がする。それほど驚いたらしい。海斗はグレンに襲い掛かっている残り二つの玉も空間障壁で爆破させた。
グレンがその隙を見逃すはずがない。
一瞬で覆面の男との距離を詰めると、何やら聞いた事もない詠唱とともに持っている斧で薙ぎ払った。斧が虹色に光ったかと思うと覆面の男がブロックした二本の短剣をものともせず、まるで紙で出来た工作物を叩き切るかのように男の体を真っ二つに切断する。
覆面の男が無念の叫びと共に息絶えた。
海斗はそれを見て、地べたにへたり込む。必死だったから何とか動けたが、今思えば良くスキルを発動できたと思う。本当に無我夢中だった。
結局、海斗達のパーティを除くと生き残ったメンバーは僅か4名だった。20人以上がやられた事になる。
「情報が漏れていたようだな」
「そのようです。とにかく直ぐに騎士団へ連絡しなければ」
ナッシュはこんな状況になっても仕事を全うしようとしている。
「そんな体で行くのか? 俺たちが代わりに行ってやるよ」
「いえ大丈夫です。回復魔法をもらったおかげで何とか動けそうなので。それに、面が割れるのは俺達だけで良い。アンジー達はまた隠れてくれ」
やはり『治療』スキルは優秀みたいで、ほどなくして四人とも歩けるくらいまで回復した。そして、そのまま海斗達と別れて別々に町へと戻った。
「海斗、よく防いでくれた。完全にお前に助けられたよ」
「いやいや。たまたま防げただけだから」
「あれはブランカの戦士が使う『雷光』ってスキルだ。すさまじい威力だから、俺でも魔力が付与された盾がないと防げない代物だ。まさかあんな強敵がいるとは思わず、装備してなかったぜ」
グレンが言うにはブランカの戦士は大体ギルドのAランクくらいの実力があるらしい。そして彼も実は過去にはAランクの冒険者をやっていたと教えてくれた。何故か一番驚いていたのは娘であるアンジーなのだが。
そのグレンでさえも防具頼みになると言う光の玉を防ぐ『空間障壁』はやはり、とてつもない威力があるようだ。難点は防ぐ範囲が狭い事と発動時間が短い事だな。できればレイチェルが使っていた聖壁のようにパーティメンバ全員を守るくらい大きくて長時間発動するものが欲しい。
とにかく住処に戻って一息つくと、アンジーが改まった。
「ちゃんとお礼言えなかったけど、ホントにありがとうね。海斗が居てくれて助かった」
感謝してくれて嬉しいのだが、それよりも照れの方が大きかった。
大した事してないよ、みたいな素振りを見せながら無理やり話題を変えた。
「そういえば、アンジーもDランクになったんだね」
「ふふ。お互いさまよ。父さんも驚いていたわ。こんなにたくましくなっちゃて。ねぇ、例の時空魔法だっけ? まだ見つからないの? また以前みたいに一緒にパーティ組みたいね……って、ごめんね。もう海斗はちゃんとした固定パーティ持ちだったね」
ミカ達に気を使っているようだ。
だがアンジーもこんな事がなければユーグリの町でナッシュと共に仲良く過ごしていたはずだ。今回の事も解決すれば、またユーグリに戻って今までどおり生活するだろう。特に海斗は必要無いはずだ。
それに海斗も既にアンジーへの想いは整理できていた。
だから今はもう、変な気を使うこともなく唯の友人として接する事が出来ている。
「ナッシュもこれでCランクかぁ」
「どうかしら。任務は失敗したのだし」
「彼の失敗では無いじゃん。それにブランカの戦士を倒したことだし」
「父さんがね(笑)」
「ははは。まあそれは公式記録には残らない事だから」
二人でこうやって笑いあったのは久しぶりだった。あの日、ナッシュがアンジーにプロポーズした時の事が懐かしい思い出となって海斗の記憶の中の1ページを飾っている。
そして翌日、ナッシュの帰還命令が出た。
何名かの諜報員は残ったままらしいが、面が割れてしまった人間は仕事ができないどころか命の危険がある。当然だろう。
だがここで、一つ問題がある。果たして無事に帰れるのかと言う事だ。海斗が襲われた時のように町を出たとたんに例の覆面をした人間が襲ってくる可能性がある。今回は一人だったしグレンも居たから何とかなったが、敵からしてみれば一人で失敗したのなら二人、三人と着実に仕留める事のできる人数を差し向けてくるはずだ。
グレンも頭を悩ませているようだ。
これはもう、海斗の時空魔法を使うしかなさそうだ。
色々と特殊なスキルを知られてしまう事は避けたかったのだが、他に方法がなさそうだ。
そう考えて何気なしに自分を鑑定してスキルを再確認したところ、なんとスキル名称が変わっている事に気が付いた。
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特殊スキル
- 空間回帰(ブランカ城下町)
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これはいわゆるセーブポイントが変わったというやつだろうか。
町に入った時点で変わったのか、一泊した時に変わったのかは分からない。とにかく今使ってもこの町に戻るだけだ。残念ながらスキルでダムダの町まで移動しようという試みは不発に終わった。
「悩んでいても仕方がないな。ここは細心の注意を払いながら移動するとしよう。念のためルマリアを経由しない東側ルートで行くぞ」
よくよく考えれば、パーティさえ組んでおけば最悪は飛べるのだ。また此処に戻ってしまうとはいえ、白装束の敵から逃げれる事は間違いない。
海斗達は馬車を借りてブランカの城を出発した。




