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第22話 悩むグレン


 新スキル試し打ちのためしばらく散策すると、ビジ=スネイクというモンスターが現れた。こいつは稲妻の剣で一撃なので、失敗スキルだったとしても全く問題ない。心に余裕をもって『空間回帰』と念じる。すると、照準が自分にセットされた。


 ウインドバリアなど、補助系の魔法やスキルについては初期の照準が自分に向いている事が経験上分かっていた。だから、このスキルも自分か味方に対して掛けるものらしい。

 

 という事で自分に照準を合わせたままスキルを発動する。

 すると突然目の前がまばゆい光に包まれ、何も見えなくなった。


「え?」


 声を上げると同時に、地面がフッと無くなり、体が自由落下を開始する。


「どわあぁぁぁぁぁぁぁ!! ……ぁぁぁぁあ。 あれ?」


 いや、体は落ちて無かった。

 いつの間にかまばゆい光もなくなり、気が付くとダムダの町の入り口で1人ぽつんと佇んでいた。


「何だこれ?」


 目の前にいたビジ=スネイクは、居なくなっている。

 もしやモンスターを一瞬で葬り去るスキルなのであろうか。それは非常に有効だが、きっと自分より強いモンスターはダメとかの制約があるんだろうな思った。


 いや、違う。

 海斗はモンスターを探すために少し移動したはずだ。

 それが今は入り口に居る。


 試しに再度、五分くらい町から離れてみる。そして『空間回帰』を発動すると先ほどと同じように光に包まれたあと、町の入り口に戻った。

 

 間違いない。一瞬で町に戻るスキルだ。


 血が騒ぐ。

 単に有効なスキルを手に入れた、という話しではない。『空間』という名前が少し気になっていたのだが、これはもしや時空魔法ではないだろうか。そして、この現実離れした移動は異世界召喚のスキルと同系列のものである可能性がある。


 元の世界に戻るわずかな光が見えて来た。

 まだほんの入り口だ。それほど簡単には行かないだろう。あまり期待を膨らますのは良くない。そう理性が訴えかけるが鼓動が収まらないのである。

 

 だがふと疑問が浮かんでくる。スキル発動時に場所の指定は無かった。

 これはどういう事だろう。まさかスキルを入手した町へのみ移動できるなんて悲しい効力なのか。それと、自分だけ可能なのか、またはパーティメンバごと移動できるのか。それも試さなければならない。


 海斗は他の四人を探すため、すぐに町に入った。


「よぉ海斗、どこ行ってたんだ。探してたんだぜ」


 パーティで移動できるかどうか試してみようと思いライアン達を見つけて声を掛けたところ、何やら報告事項がある感じだったので先に聞いてみた。


「……と、言うとおり残念だがこの方法で帰るのはカネが足りないようだ」


 ライアン達がギルドに行っていたのは、高ランクのギルドメンバに依頼してコンラート王国へ連れて行ってもらう為だったようだ。


 しかしルマリアでの内乱勃発により、依頼するには最低でもBランクのメンバが2人以上必要らしく、移動にも一カ月は必要だろうとの事だった。Bランクを一人雇うのに一日あたり金貨3枚としても、白金貨2枚近くのカネが必要になる。


「まぁダメもとで確認しただけだからな。運よくコンラートに行く用事がある奴がいて破格の値段で引き受けてくれるとかじゃなければ無理だな」


 例え破格としても金貨が数十枚必要になるのは間違いなさそうだ。

 全員で出し合えば何とか都合が付かなくもないが。


「って事で、塞ぎこんでても仕方がないのでどんどん依頼(クエスト)を受けてカネを貯めながら自力でも帰れるくらい強くなろうぜ!」


 ライアンが開き直ったように明るく親指を立てながら笑う。

 その流れに乗って海斗の新スキルを説明した。


「うおおおおぉぉ! すげぇぞ。すぐ試そうぜ! ほらっ早く」


 まるで欲しがっていた玩具を買ってもらった子供のように喜びながらライアン達が走って町の外に出た。よく考えると別に町の外に出る必要もなかったかもしれない。

 

 5人でパーティを組んだ状態でスキルを発動させる。相変わらず最初の照準は自分のみだったが、スライドさせるとパーティメンバ全員の照準に変わった。移動も問題なく出来たので、これで昨日のような緊急時には逃げ出す事が可能だ。モンスターが目前にいても発動した事は確認済みのため、襲われている最中でも大丈夫と思われる。


 かなり強力なスキルを入手できたため、海斗達は次々と依頼(クエスト)をこなし、入手できた材料やおカネで更なる強化を図った。


 そしてついにライアンとサスケがDランクに昇格したのだ。


「いやぁ、長かったぜぇ~」

「これでミカ達にもお荷物なんて言わせないぜ!」

「最初から言ってないわよ、そんなこと」

「はっはっは。マリンちゃんは安心してて良いからな。俺がちゃんと守ってやるから」

「うーん、私も頑張ってDランクになるよぉ」

「無理しなくて良いって。ホントに。俺に任せておくんだ!」


 ライアン達もかなりスキルを充実させたし、マリンの回復魔法も『手当て』から『範囲回復』に昇格した。他にも、パーティメンバの攻撃力や魔力、防御力などを上げる補助魔法も付けたので、もはやマリンもDランクに上がっても恥ずかしくない状況だ。


          ◆


 エイベンのショップで一人、ぽつんと机の上に置かれた手紙を前にグレンは腕組みしながら唸っていた。

 

 手紙の送り主はずいぶん昔によく一緒にパーティを組んでいたメンバーの一人だ。グレンが冒険者を引退した今でもこうやって時々情報をくれたりしている。


 いつもは他愛のない情報なのだが、今回のものはさすがのグレンも静観できなかった。

 何故なら、可愛い一人娘が旦那を追って一人で戦時中のルマリアへ向かったという内容だったのだから。


 その情報だけならグレンも動かなかっただろう。

 いくら可愛いといっても、もう既にいい歳をした大人だ。こんな事でいちいち駆けつけていたら親馬鹿にも程がある。だが、この戦争には狂信国ブランカが関わっている。グレンにとっては因縁の国である。たとえ親馬鹿と言われようともアンジーを助けなければならない。


 グレンは直ぐに準備に入った。

 店を閉め、しばらく休業する旨の看板を置いたうえで旅の支度をする。

 

 そして、まずエイベンのギルドに向かう。

 出来れば一緒に連れて行きたい男が居るのだ。


「すまないが、『海斗』という奴が今どこに居るか確認してくれないか? 所属は多分エイベンから変わってないはずだ」


 ギルドカウンターで受付スタッフに依頼する。


「ええっと。失礼ですがあなたは?」

「俺の娘が以前よく一緒にパーティを組んでいた人間なんだ。ちょっとばかし急用でな」

「……あのう。誠に申し訳ございませんが家族のかたでないとお教え出来ない事になっているのですが」

「なに? いつの間にそんな決まりが出来たんだ。……なら仕方がないな。申し訳ないがマスターのアスピエルに伝えてくれないか。グレンからの頼みなんだと」


 突然ギルドマスターの名前が出て少し面食らっていたようだが、すぐにカウンターの奥の扉へ入っていった。

 

 しばらくすると扉が開き、アスピエルの顔が見える。

 彼も驚いているようだ。


「久しぶりじゃないか、グレン。一体どうしたんだ?急に」

「すまん。あまり迷惑は掛けたくはなかったんだが、ちょっとトラブルに巻き込まれてしまってな。海斗は娘の親友だから居場所を聞くくらい、彼も許してくれるはずだ」

「聞いてどうするんだ?」

「パーティを組む」

「なんだって? お前とか? ……訳ありだな。分かった。おい、調べてやってくれ」


 アスピエルがスタッフに指示を出してくれた。


「海斗さんは現在、ダムダの町に居ますね。そこで依頼(クエスト)を色々と受けているようですから」

「ダムダの町? どこだったっけかな」

「ブランカ領内です」

「なに~!!!」


 なんだってそんな場所に行ってるのか。

 それなりに能力のありそうな奴だったから、ある程度は行動範囲は広いと思ってはいたが、まさかブランカに行ってるとは。最悪だ。いや、そうではないか。どうせ今からアンジーを連れてブランカに行く事になる可能性が高いのだ。探す手間が省けるかもしれない。


「更にどこかに移動しそうかな?」

「どうでしょう。既に1カ月以上滞在していますからね。あ、その前はゴルドリックに滞在していたようですが、ダムダまでの依頼を受けてそのまま戻ってないようです。ちょうど戦争が始まった時期ですから、もしかして戻れなくなったのかもしれませんね」


 なら、まだしばらく滞在してそうだ。


「ちなみに娘のアンジーは、まだユーグリの町か?」

「お待ちください。……ええっと。はい、ユーグリの町ですね」


 グレンが受け取った手紙によると、既にユーグリの町を発ったらしい。次に訪問するとすれば水辺の町だが、そこまでは未だ到達していないようだ。まぁギルドに寄らなければ記録も無いから分からないのだが、普通は町に着いたらギルドに寄るだろう。

 もしかすると急げば追い付けるかもしれない。


「すまない。助かったよ」

「何が起きたか知らないが、出来る事なら協力するさ」

「ありがとよ」


 グレンはエイベンの町を後にすると、ゴルドリックの町目指して馬車を走らせた。アンジーなら水辺の町経由で進むだろうから、直接向かえば追い付ける可能性が高い。


 まずはガザム山脈を越えなければいけない。が、冒険者をしていた頃はAランクまで上り詰めたのだ。一人で超える事に大した危険はない。ブランク明けには丁度良いウォーミングアップだった。


 ゴルドリックの町についたグレンはすぐにギルドに行き、アンジーの所在を確かめた。


「ちょうど三日前にこちらにお着きになられてますね。今はブランカ城周辺での依頼(クエスト)を受けるためにパーティメンバ待ちをしておられます」


 どうやら間に合ったようだ。待っていれば会えるだろう。

 グレンは胸をなでおろした。


 そして一時間後、娘が姿を現した。


「父さん!」


 もちろん尋常ではないくらい驚いている。

 が、驚きの表情は一瞬だけで、その後はすぐにバツの悪そうなものに変わった。


 なぜグレンが来たか察したのだ。


「ごめんなさい。黙ってて」

「いいさ。お前はもう大人なんだ。親がとやかく言う事じゃない」

「じゃあどうして?」


 夫であるナッシュがブランカ城内の潜入捜査に駆り出されたのだ。ブランカと言えば悪名高い狂信国である。そんな危険なところへ妻を連れて行くわけには行かないとアンジーは置いていかれたのだ。


 だがアンジーは納得できず、後を追ってここまで来たという事だ。頑固で無鉄砲なところは母親そっくりだ。


「危険すぎるからな。いくらナッシュが居るといっても潜入捜査だろう? お前が行ったところで堂々とは会えないだろう」

「分かってるわ。私も陰でサポートするだけだから。でも本当にどうしてなの? 私の事を一人前と認めてくれたくせに」

「そこまでは認めてないさ。それにブランカは危険な国なんだ。お前にとっては、特にな」

「私にとって? どういうこと?」

「それは追々話すが、どうせお前の事だ。俺が反対した所で引き返したりはしないんだろう?」

「もちろんよ」

「なら俺も一緒に行く」


 グレンは昔、冒険者をしていた事はアンジーに話してある。が、Aランクだったとは伝えていない。だから一緒に行くと言ってもあまり歓迎する表情はしなかったが、ガザム山脈を越えてここまで一人でくるだけの力量があるのだと伝えて強引に納得させた。


「あと、今受けようとしている依頼(クエスト)だがな、キャンセルしてくれ。まだパーティメンバが揃ってないんだったら問題無いだろ?」

「それはそうだけど……どうして?」

「俺はギルドメンバではないから、依頼(クエスト)だと一緒のパーティになれないからな。それに、海斗もパーティメンバに入れたいんだ」

「海斗?!」

「ああそうだ。何故か分からないんだが、ブランカ領に居るらしい。俺も聞いて驚いたよ」


          ◆


 グレンはアンジーを連れてダムダの町へと入った。

 ブランカの国へ来るのは15年振りだが、以前よりも状況は悪化していた。

 

 町は罪人で溢れているし、罪人以外の住人も皆ブランカ教に洗脳されたかのように異様な目つきをしていた。


「気を付けろよ、アンジー」

「わかってるわ」


 彼女も情報はちゃんと仕入れていたようだ。

 それこそ町の中で突然襲われるなんて事も無いとは言い切れない。


「でも海斗がこんな所まで来ていたなんて……」

「ああ。未だに信じられないさ。例の時空魔法の手がかりがこの辺りにあったんだろうな」


 こんな場所に来る理由は、それくらいしか思いつかなかった。

 二人は、まずはギルドに入って情報を仕入れる。こんな町であっても、ギルドの中は比較的正常だった。それが唯一の救いである。


 宿泊施設に目星をつけて、海斗達を待つ。

 残念ながら既に依頼(クエスト)を受けた後だったから、帰るまで待つしかない。


「ところで何故ナッシュはこんな任務に駆り出されたんだ? 奴はギルドメンバであってコンラートの騎士ではないだろう?」

「詳しい事は私にも分からないわ。でもルマリアの内乱でコンラートにも援軍の要請があったので、その関係じゃないかしら? 彼の家族はコンラートの騎士なのだし」

「確かにありえるな。だがルマリアへの援軍でなくて、何故潜入捜査なんだか」

「冒険者というのが逆に都合が良いのかもね。軍に所属する騎士が行けば目立って仕方がないわ」

「それもそうか……」


 Cランクへの昇格を餌に依頼があったのだと言う。それなら多少の危険を冒してでも受ける人間は多いだろう。


 そこへ依頼(クエスト)を終えた海斗が戻ってきた。

 パーティメンバを引き連れて。


「アンジー!!! それにグレンさんも」


 彼の驚きようも当然ながら半端なかった。

 なにせコンラートに居るはずのアンジーが、ナッシュと一緒ならともかく父親と共にブランカに来ているのだから。


 だがグレンにとって誤算だったのは、海斗が固定パーティ持ちだった事だ。

 一緒にいた頃の状況から見て臨時パーティばかりでやっているものだと思い込んでいたのだから。これはもしかして助太刀をお願いするのは難しいのかもしれない。


「私たち、外したほうが良い?」


 一通りお互いの紹介を終えたところで気まずい雰囲気を察したのか、ミカという海斗のパーティメンバが空気を読んでくれた。


「彼らとはもう、長いのか?」

「だね、オレがエイベンを出てから1~2カ月後くらいに組んだからね。まぁ色々と依頼(クエスト)をこなしている内に自然とそうなっちゃっただけなんだけど」


 その口ぶりからも彼らとの絆は細くはない。


「いや、実はな。たまには親子で旅行なんかどうかなと思って各地を回ってたんだが、まさかお前に出会うとはな……」

「オレも驚いたよ。ってかナッシュは?」

「彼は仕事でしばらく帰って来ないんだ。だからさ」

「なるほど」


 我ながら苦しい言い訳だ。

 だいたい旅行でブランカなんかに来るやつは居ない。


「まさかとは思うけど、グレンさんってオレを助けに来てくれた?」

「助けに? どう言うことだ。何か困ってるのか?」

「なんだ違ったのか。まぁそりゃそうだよな。オレが帰れなくなったなんて知るわきゃないか」


 聞くところによると、戦争に巻き込まれてルマリア領に入れなくなったらしい。東周りのルートは危険すぎるため、どうしようか困っていたとのことだ。


「なるほどな。やはりそうか」

「やはり?」

「い、いや。こっちの話しだ。そうだな。俺なら東周りのルートで帰れるから連れて行ってやれん事もないが……」

「ホント? それってメチャ助かる!」

「だが今からちょっとした仕事があってな。……そうだな、あと1カ月……いや、2カ月くらい後なら大丈夫だと思う」



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