第21話 白い奴
ダムダまでの護衛は、思ったほど大変ではなかった。
もともとブランカの国は、その体質からか国外への情報隠ぺいに積極的なため、出現するモンスターの情報も詳しく分からなかったのだ。それが、良い方にあてが外れたと言うべきだろう。予測していたよりも全然弱いものばかりだった。
「これなら焦って強化することもなかったな」
「だよな。やっぱ隠ぺいにしときゃよかったぜ」
「まぁ、安全第一で良いんじゃない?」
ダムダにあるギルドで依頼完了の手続きを終えた後、食事をとりながら予定について相談し合う。
「もう夜も近いけど、私はこのまま帰途につきたいわ」
「俺も。どうも、このブランカっていう国は気が休まらないんだよな」
「賛成だ。この町の連中にしたって目つきが異様だしな」
ライアンとサスケが小声でヤバい事を口走る。他人に聞かれたら絶対に悪い印象を与えてしまうだろう。だが、海斗も同意見だった。ゴルドリックに入った時も特殊な雰囲気に驚いたものだが、ここの異様さはケタ違いだ。危ない宗教に染められているというのもまんざら大げさではないようだ。
そもそも、この町に入って一番驚いた事は、『罪人』が非常に多い事である。今まで街中で『罪人』なんて見たことはなかった。『罪人』が居ればすぐに衛兵が捕まえてくれるからである。
だがこの町では普通に歩いている。ミカによると、ブランカの信者であれば罪人でも罰せられる事はないらしい。あくまでブランカの国の中に限った話しなのだが。
そんなありえない国には一秒たりとも居たくない訳で、満場一致――マリンはイマイチ気にしてない雰囲気だったが――でそのまま引き返す事になり、海斗達は日が落ちかけて薄暗くなった街道を北に向けて移動していた。
町から出て三十分ほど経ったとき、突然ミカが馬車を停めた。
モンスター襲来かと思ったが、そうでは無かった。
馬車の前には白装束に身をくるんだ人間が一人、立ちはだかっている。目の部分しか見えないので男か女かもわからない。
「急いでいるところ申し訳ないが、少々聞きたいことがあってね」
声からすると、その人間は男性だった。
年齢までは分からない。
「貴様らの任務は何だ?」
「は?」
突然現れて、突然変な事を聞かれても答えようがない。
それに、男の様子はどう見ても友好的ではない。
「貴様らがレイチェルと通じていることは分かっている」
「……」
それは事実だったんだが、だから何?という事だ。
「よかろう。答えたくなるようにしてやる」
言うが早いか突然男が駆け寄り、サスケに蹴りを入れる。
「ぐぇぇ……」
とてつもないスピードの攻撃に誰もなすすべなく、サスケがその場所にうずくまる。
「何をする!」
海斗が怒鳴りながらサスケに手当てを掛ける。その横でマリンも同じく手当を掛けてくれている。
「ファイアボルト!」
ミカも瞬時に攻撃に移り、それにライアンが続く。
しかし、白装束の男は軽々と攻撃を回避すると逆に何らかの魔法を放った。
目の前が一瞬光ったかと思うと、そこからすさまじい爆風が吹き出し五人とも吹き飛ばされてしまう。海斗はとっさにマリンに対してウインドバリアを掛ける事しか出来なかった。
一撃で死ぬ事はなかったが、かなり強力な攻撃だ。
「抵抗は無駄だ。俺が本気になれば貴様らなどあっと言う間だぞ」
その言葉に偽りはなさそうだった。
だが本当に何も知らないのだ。
それを必死で伝えながらも、海斗は男を鑑定した。
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Name:ラルク
Caption:
- 職業:聖職者
- 所属:ブランカ
基本スキル:
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名前しか分からないが、何故聖職者が人を襲うのか。
それに、こんな事をしでかして犯罪者にならないのだろうか。
「簡単には口を割らないか。ではもう少し痛めつけてみるとしよう」
再度、男が襲い掛かってくる。次の標的は海斗だった。
すかさずウインドバリアで身を守るが、男の持つ短剣はバリアをも切り裂き、海斗にダメージを与える。
「話すなら早い方が良いぞ。全身切り刻まれてからだと手遅れだからな」
まるで傷つけるのを楽しむかのように男が少しずつ海斗の体を刻んでいく。
「いい加減にしやがれっ!」
ライアンが剣を振り下ろすと、その剣と共に手首から先が空を舞った。
「ぎゃあああぁぁ!」
男の短剣がライアンの腕を切断したのだ。
「さあどうする? まだ口を割らないか?」
実力の差がありすぎる。こんな相手に一体どうすれば良い?
さすがのミカも青ざめて動けないままだ。
「では最後の忠告だ。言わないと本当に死ぬぞ」
男はゆっくりと構えをとると、まさに今から攻撃をしかけるぞとプレッシャーを掛けてくる。海斗のウインドバリアは見事に破られてしまっているので、あとは空間障壁に懸けるしかない。もし、これでも防げなければ終わりだ。
海斗の額に大粒の汗が噴き出る。
やがて男の体が構えから攻撃に移り、海斗に襲い掛かってくる。
生きた心地がしない。
おそらくわざとであろう。
男は先ほどよりゆっくりと剣を振り下ろしてくる。まるで海斗が降参するのを待ち受けるかのように。しかし、こちらは既に降参した後である。もうこれ以上ネタは無いのだ。
剣先が空間障壁に接触する直前、それは止まった。
「ふむ。どうやら本当に関係がないようだな」
少し考える素振りを見せていたが、男は構えを解いた。
そして、ルマリアの国には入るなと警告してきた。
「ここに留まるか、ルマリアを経由せずに故郷に帰るんだな。もし足を踏み入れれば、敵対したと見なす。それとも、ゴルドリックに忠誠を誓うか?」
海斗は慌てて顔を横にぶんぶんと振った。
ほぼ条件反射だった。
まあここで首を縦に振ったところで忠誠の証を見せろと言われて困るだけだろう。
覆面の男は言うだけ言うと、そのまま立ち去った。
男の姿が見えなくなるのを待って、すぐさま海斗はライアンの切断された腕をとり、『治療』スキルを発動させる。今回の依頼を受けるにあたり新たに試した合成で手に入れたものだ。特殊スキルのほうに入ったため『手当て』よりも強力に違いない。
ライアンの腕を治療している海斗に対しては、マリンが『手当て』を掛けてくれている。海斗もそれなりに体のあちこちを切り刻まれ、ダメージを受けていたのだ。
「くっ。一体何なんだよあいつ?」
「わからない。レイチェルさんと関わりがあるようだったが。でも何で引き上げてくれたのかな?」
白か黒か分からないなら殺してしまえ、という雰囲気だったのだ。
「きっと、あれ以上やったら犯罪者になったからじゃない?」
「どういうこと?」
「私たちがルマリア側の人間なら、戦争相手だから殺しても罪にならないからね。でも本気で殺そうとした瞬間、きっと警告が出たのよ。それで私たちが関係のない一般人だとわかったんでしょうね」
なんて迷惑な確認方法なのだ。
っていうか、それならライアンの手を切る時にも警告が出て欲しかったのだが。この世界の警告基準がさっぱり分からない。
「え? 海斗。なんで治ってるの?」
「うわっほんとだ」
スキル『治療』により切断されたライアンの手が繋がった。
「治療ってスキルを掛けただけなんだけど?」
「そんなの聞いたことないわよ。こんな大けが、普通なら高級な治療薬を使わないと治らないのに……」
海斗はゲームとかで良くある『ヒール』のように、回復スキルは全て万能なものだと思っていたが、そうではないらしい。ダメージの大きさによっては回復しないものもあるのか。
それが特殊スキルでは治った。かなり優秀なスキルなのであろう。
「どうだライアン。動かせるか?」
「……うーん、残念ながら無理だな。痛みは引いたが感覚は戻らない」
繋がるには繋がったが、神経までは無理だったのか。
それはそれで仕方がない。後で高級な治療薬とやらを手に入れれば良さそうだし。
「えらい目にあったけど、なんとか生き延びれた。やはり戦争中の国にいるのは危険だったか」
「みたいだな。早くランソールに帰ろうぜ」
「だがどうやって帰るか、だ」
既に依頼達成の手続きは済ませてあるので特にゴルドリックのギルドに寄る必要はない。しかしランソールが存在するコンラート王国に行くにはルマリアを経由するルートしか知らないのだ。
「位置的には真東に進めばコンラート王国よ」
「だな。だが果たして道に迷わず進めるか」
「それに、どんなモンスターが出るかも分からないし」
海斗はこの世界の地理が全くわからないので何とも言えなかったが、ミカが見せてくれた地図をみると、確かにブランカとコンラートは接地していた。東に進めばコンラート王国に辿り着くのは間違いないだろう。だがライアン達が言うように、道に迷わないかという問題がある。それに一番の問題は南北に走るガザム山脈だ。これを超えるのは容易ではない。
「とりあえず一旦ダムダの町に戻るしかないわね。気が進まないけど」
海斗達はしぶしぶダムダに戻った。
もうすっかり日も暮れてしまったので、何はともあれ宿を探す必要がある。
「お! 腕がうごく」
「おおお。よかったなライアン」
「サンキューだぜ海斗」
治療スキルは時間が掛かるものの、大けがでも治るようだ。
ミカが横で「ありえない」とか呟いているので、あまり人に話してよいスキルではなさそうだ。
何件かショップを回ってそれなりにまともな対応をしてくれた店員に宿泊施設の事を聞いてみる。
「町の一角に丘の様に少し高くなっている場所があっただろ? カネ持ちが住んでるんだ。あの周りに行けば良いんじゃないか。だが当然、身の危険はあるがな」
カネ持ちであれば、それを狙う輩が居る。
そう言うことらしい。
「ほんっと気が進まないけど、仕方ないわね!」
と言ってちらっと海斗を見る。
「う……」
海斗の我がままが無ければもっと安い所に泊まるのに、という目をしている。しかしマリンを救うためのカネ集めからは解放されたため、ミカもあまり強くは言わないようだ。
◆
「すごおい。こんなフカフカなお布団で寝るのはじめて」
マリンが無邪気にベッドで戯れる。
一人あたり銀貨22枚という超高級宿で部屋をとったら、元の世界に匹敵するくらいのベッドが出迎えてくれた。
「安心してくれ、マリンちゃん。俺が頑張って稼ぐから、毎日でもこんなベッドで眠れるようになるぜぃ!」
「ねーねーミカりん。ちっちゃい頃みたいに、また一緒に寝ようね」
「……ら、ライアンが空気だな。さすがにちょっと可哀想になってきた」
「いや、むしろめげずにアタックし続けてる事に拍手を送りたい」
皆それぞれ風呂に入ったり宿の売店で買い物したりと、くつろいだ時間を過ごしたあと眠りに付いた。
翌朝海斗は皆より早く起きると、机の上に魔石やらアイテムやらを並べ、腕を組んで考え込んでいた。
「何してんの?海斗」
「ん?ああ。ちょっとね」
サスケが起きてきて、不思議そうに海斗を見ている。
海斗は昨日の事件を経験し、やはり何か切り札的なスキルが欲しいと感じていた。例え魔力消費が激しくてもいい。色々なアイテムを合成して当たりを見つけるのも良いが、それよりも経験上はスキル合成のほうが良さそうだ。
先日手に入れた『治癒』スキルも『手当て』スキル×2で造ったものだ。だから安いスキルでも良いので手あたり次第付けて行き、合成するのが良いと思われる。
だがそこでネックになるのがスキルの隠ぺいだ。意味もなくスキルを次々と付けていけば、さすがに変な人に思われてしまう。しかし隠ぺいするアイテムは一個あたり、金貨1枚近く必要だ。捨てスキルのために消費するには痛い金額である。
やはり地道にアイテムを合成していくしかないのか。
「魔術師にでもなるの?」
海斗の前に並べられた各種低級攻撃魔法の魔石を見て、サスケが不思議そうに聞いてくる。これを売ってカネに変えて更に強いスキルを購入するか、合成で賭けに出るか。
以前、ファイアボルトの魔石×2を合成したところ、青ポーションになってしまってショックを受けた経験があるから、それ以降、怖くて魔石の合成をあまりやってなかった。
「ファイアボルトの魔石ってショップに売ればいくらくらいかな?」
「確か銀貨150枚くらいじゃなかったっけ。ミカのほうが詳しいと思うけど」
「やっぱそれくらいだよなぁ」
単純計算で金貨3枚分の賭けだ。ショップで買った魔石なら、更に高い。合成スキルってすごいけど、何気にギャンブル要素が高いのだ。
だが強力なスキルを手に入れるための必要経費だ。
ライアンと共にギルドに行くというサスケに手を振り、海斗はしばらく合成にいそしんだ。
そして、『空間障壁』スキルが2個になったため、一方を使って合成した時の事である。
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特殊スキル
- 空間回帰
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確認したところ、アクティブスキルだった。早速海斗は試すために町の外に出た。モンスター相手に発動させてみるのだ。ダムダの町周辺はそれほど強力なモンスターが出てこないので、一人でも問題ない。




