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第2話 旅立ち


 「海斗、今からエイベンの町に行くんだが一緒に来るかい?」


 翌朝、ロベルトからお誘いが掛かった。


 「ん? 町に行ってどうするの?」

 「美味しいものを食べたいんなら、町に行ったほうが良いかと思ってな」

 

 それを聞いて海斗はバツが悪そうな顔をした。

 村の人たちがせっかく客人として食事を提供してくれているにも関わらず、さんざん不味いだの冷たいだの文句を言ってしまったからだ。それがロベルトにも伝わっていたらしい。

 「ははは。気にしなくて良いさ。やっぱり海斗は良いところの坊ちゃんなんだろうよ。普通の村人たちが食べるような食事が口に合うわけないさ。おっと、これから乗ってもらう馬車も、貴族が乗るような豪勢なものじゃないから、けっこう体はキツイかもね。まぁ、我慢してもらうしかないんだけど」


 ロベルトは本当にあっさりした人だ。

 そういえば、と思い、海斗は鑑定をしてみた。


===============

Name:ロベルト

Caption:

 - 職業:剣士

 - 所属:ギルド・エイベン

 - ギルドランクD

基本スキル:

 - ファイヤアロー

 - 範囲回復

===============


 「ほぇ……。すげぇスキル」

 初めて見る鑑定内容に、思わず声を上げてしまう。


 「ん? ……ああ、鑑定したのか。ってか、こんな内容で驚くなんて、やっぱ記憶喪失っていうのは本当だったんだね。僕のステータスは別に珍しくも何ともないんだけど」

 「え、そうなの?」

 「うん。普通だよ。それよりも海斗の方が変だ。本当に貴族の子供だったら色々と強力なスキルが付いててもおかしくないし、何よりも称号が無いのが気になる」


 跡取りのゴタゴタに巻き込まれて、スキルや称号をはく奪されたんじゃないか、などとロベルトが変な妄想をしているが、それは絶対にないと言っておきたい。


 「ロベルトのほうこそ、職業が剣士なのに魔法ちっくなスキルがあるのは変だよ」

 「……これも普通なんだけどねぇ。まあ回復魔法は出回っている数が少ないから珍しいといえば珍しいんだが、回復魔法と言っても下級の範囲回復だしな」


 剣士で魔法使えるのは普通らしい。

 良く分からない世界観だ。


 そんなこんなで馬車に揺られてエイベンという町に向かう途中、ケツがかなり痛くなってきた頃に馬車が停車した。モンスターが出現したとのこと。


 馬車の前方には三体のモンスターが居る。

 形は人間と大きく変わらないが、顔が犬のようだ。とりあえず鑑定してみる。


===============

Name:コボルト

Caption:モンスター

基本スキル:

 - 腕力強化

===============


 コボルトだった。そして『腕力強化』というスキルを持っている。


 「海斗は馬車の中に居てくれていいよ。まぁスライムで随分と経験を積んだようだし、大丈夫そうなら混ざってくれてもいいけど」

 「スキルが……」

 「うん、そうだね。普段この辺りにはコボルトは出てこないんだが、多分運よくスキルを手に入れて強くなった奴らが人間を襲うために遠出をしたんじゃないかな」


 そんな会話をしている間にモンスター達は目前まで迫っていた。

 戦ってみたい気もするが、大丈夫なんだろうか。そういえばロベルトには回復魔法があった。いざとなったら何とかしてもらえそうな気がする。

 

 そう考え、海斗は馬車から降りて前線(という程のものではないけど)へと進んだ。


 「ほぇ?」

 が、あっという間にロベルトが二体を葬り去る。


 「ま、まぁ一応Dランクなので。ちゃんと海斗のために一匹残しておいたんだよ」

 そういってのコボルトの振られた剣を軽く片手で受け止めている。見ていてあげるから、戦ってみろというサインだ。

 

 海斗は覚悟を決めて、鉄パイプのような剣をコボルトの後ろから叩き付ける。それにより、モンスターのターゲットがロベルトから海斗に移ったようだ。コボルトは、振り下ろしていた剣を引くと今度は海斗めがけて攻撃を仕掛けてきた。


 それを何とか距離を取る事によって躱す。後に続く攻撃も、全て後ろに飛びのくことによって躱していく。


 「逃げてるだけじゃ倒せないぞぉ」


 ロベルトがニヤニヤしながら注意してくる。そこで海斗は気が付いた。これは自分の訓練なのだと。馬車で普通に通り抜ければ良かったところを、何故わざわざ止まって応戦したのか。良く考えれば変だった。


 「ぐぁっ!」

 訓練と分かって勇気を出して攻め入った所をコボルトに上手くいなされ、逆に切りつけられてしまった。鈍い痛みが腹部を襲う。

 

 また慌てて距離をとり、あらためて自分の腹を確認してみた。

 が、特に何もなっていなかった。

 海斗が使っている鉄パイプのような剣ならともかく、コボルトの持っている剣はちゃんとした切れ味がありそうだ。にもかかわらず、着ている服一枚破けた様子はない。


 痛みも確かにあったのだが、ほんの数秒の間だけであった。

 『腕力強化』というスキルをもつモンスターの攻撃であるにもかかわらず、何ともなかった。その事実は海斗の心を大いに落ち着かせる事となった。

 

 再度コボルトの正面に陣取り、相手の動きを良く見て攻撃を叩き込む。さすがにスライムのように一、二回で倒せるという事はなかったが、何とか仕留める事に成功した。

 

 パチパチパチ……。

 

 ロベルトが手を叩いてお疲れさん、と言った。

 

「一度攻撃を受けたみたいだけど、回復はいらないよね?」

「う、うん。たぶん」

「今の攻撃だったら、きっと30分くらいで回復するんじゃないかな」


 痛みを感じるのは一瞬だが、体力という意味ではちゃんと一撃分は減っているらしい。


「自然回復?」

「そうだよ。もし自分でわかるくらい体力が減ったのなら言ってくれ。いつでも回復してあげるから」

「わかった」


 本当の意味での初陣を飾った海斗は、その後もエンカウントするモンスター達を倒しながら街へと向かった。

 

「結構、ドロップが溜まったな。ロベルト、この緑の粉は何に使うんだ?」


 モンスターを倒すと、ときどきドロップが出る。スライムから出るドロップは、スライムゼリーという食用の物だが、試しに食べてみても全然おいしくなかった。そして、店にも売れないらしい。さすがスライム。最弱モンスターだ。

 

 海斗が今持っている緑の粉は、鑑定するのを忘れたのだが植物のようなモンスターを倒した時に出たやつだ。


「ああ、それはグリーンポーションの材料になるから、銀貨3枚くらいで売れるよ。初陣を祝して海斗にあげるから町に着いたら適当に売っぱらっておくといい」

「え、それは悪いよ。ってかオレは殆ど役に立ってないし」

「良いんだよ。どうせ海斗はころふき村に留まるつもりは無いんだろう?だったら、ある程度自分で稼げるようにならないとな。そのための軍資金にしてくれ」


 そう言われてみて、海斗は初めて自分の思慮のなさに気が付いた。

 確かにあんなメシのまずい村で生きて行く自信はない。が、かといって町に出たところで衣食住を確保するにはカネが要るのだ。


 海斗はその事実に今更ながらに唖然とした。


「ちなみに、コボルトからドロップした剣はいくらくらいになるの?」

「うーん、どうだったかな。確か銅貨30枚くらいだったかな」

「安っ。んじゃ売らずに取っておこうかな」

「取っておいてどうするの?」

「ロベルトからもらった剣の代わりに使うんだ」


 この、どう見ても鉄パイプみたいな切れ味の悪そうな剣よりも、かなり良さそうだ。少なくとも切れ味は。


「いや、それは海斗にあげた剣より全然弱いから(笑)」

「え、そうなの?」

「だよ。だって攻撃受けても大した事なかったろ?」

「がーん……」


 めちゃめちゃショックだった。あれは自分が強かったからではなく、単に相手の武器が弱かっただけなのだ。


「こ、こんなに強そうな形をしているのに……。刃のところなんか、触っただけで指が切れてしまいそうなのに……」

「はっはっは。コボルトは低レベルモンスターだからね。そんな強い武器をドロップしたりしないよ。これも武器作成の材料に使うだけだよ」

「はあぁぁぁ……」


 海斗が意気消沈したところでようやくエイベンの町に着いた。ロベルトが馬繋場に馬車を停めて綱木に馬を繋いでいる間も、海斗は殆ど放心していた。ロベルトのお陰で大量にモンスターを倒して色々とドロップも入手できたのだが、結局あまりカネにならなかったという事実が非常に痛い。


 そのとき海斗はひらめいた。

 合成だ。

 

 合成の事をすっかり忘れていた。

 早速スキルを使ってみる。


 まずは、全くカネにならないスライムゼリーと、同じく銅貨5枚くらいにしかならない兎の歯だ。これを掛け合わせてみると……。

 

 何も起こらない。

 というか、兎の歯を選択した時点で、もともと選択していたスライムゼリーまでもが選択していない状態に戻ってしまった。これはおそらく合成出来ない組み合わせという事だろう。

 

「つ、使えねぇ……」


 それからもいくつかの組み合わせを試してみたが、一つも合成可能な組み合わせが出てこなかった。

 試しにコボルトからドロップした剣と緑の粉を選択してみた。すると、両方が赤く輝いている。合成可能という事だ。しかし、ここで合成してしまうと両方なくなってしまう。もしかすると、更に良いアイテムになるのかもしれないが、今現在ほぼ無一文状態の海斗にとっては高リスクの合成だ。やめておくのが無難だろう。


「何してるの?」


 ドロップ品を眺めながら真剣な眼差しで考え込む海斗を不審に思ってロベルトが声を掛けて来た。


「おわっ!? い、いや……。何でもないというか、その……」

「もしかして、海斗って何かスキルを持ってたりするの?」

「ほぇ?」


 図星を突かれて更に挙動不審になる海斗。しかしそんな海斗をみてロベルトは慌てて手を横に振った。

「いや、別に言いたくなければ良いんだよ、本当に。他人が持っているスキルを邪推するのはマナー違反だったね。ごめん。忘れてくれ」

「え、そうなの? でも鑑定で見えてしまうんでしょ」

「普通はスキルは隠しておくんだよ。アイテムを使ってね。ただギルドで依頼を受けるには、ある程度のスキルを見せておかないと信用がもらえないからね」

「って事はロベルトは他にもスキルを持ってるの?」

「ははっ。まぁその辺は聞かないでくれ」


 驚きの事実ではあったが、海斗は胸を張って自分のスキルを隠してて良いという事が聞けてある意味安心した。万一ばれてしまっても、隠している事を咎められることはなさそうだ。


 

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