第19話 ライアンが・・・
「ありがとうございます。レイチェルさん。本当にいつも助けてもらって……」
「気にするな。私もお前のお陰で楽しませてもらったからな。……ふむ。で、もしかして隣に居るのが例の子か?」
そう言ってレイチェルがミカを見る。
「! レイチェルさん!」
「おお、これは失礼した。私も野次馬根性丸出しで申し訳ない。ではまたな」
あまりの展開に、他の三人は唖然としていた。
が、マリンの手がかりがあった事が分かり、すぐさま専属従者館へ行く事になった。
「ねぇ海斗。さっきの人ってもしかして?」
「うんそうだよ。雫を貸してくれたんだ」
「『貸し』て? じゃあやっぱり返さないといけないのね」
「大丈夫だって。見ただろ? いい人だから、返すのは何時でもいいってさ」
ミカはお礼を言いそびれた事をひどく残念がった。
また会えるからと言ってなだめながら、海斗達は専属従者館へと入った。ライアンとサスケも興味津々である。
店に入り、早速マリンの事を尋ねる。
「はい、在籍しております。現在はフリーですのでご契約可能ですが、いかがいたしましょう?」
やったー!とライアン達が手を上げて喜ぶ。
とたんに店中の人達から注目を浴び、恥ずかしそうに椅子に座りなおす。
「あの、面接とかは可能でしょうか」
「可能でございます。ただ、今日は出勤しておりませんので明日でもよろしいでしょうか?」
「そうですか。明日は用事があって来れないかもしれませんので、また日をあらためます」
何か言おうとしたミカを海斗が手で制し、そのまま店を出た。
「どうして?」
「だって面接したら契約するとかしないとかの話しになるじゃん。誤魔化すのが大変そうだから」
「確かに。でもどうするの? どこに住んでるか分からないよ」
「それはもう、この2週間で嫌というほどやったじゃないか。張り込みだよ。明日は出勤するらしいから、朝早くから待っていようよ」
そして翌朝ようやく、感動の再会を果たした。
ゴルドリック公爵の下で辛い経験をしたであろうマリンは、しかし見たところ何の悲壮感もなく、ミカとの再会を喜びあっていた。
マリンはそのまま出勤となるので、夜にまた会う約束をして別れた。
「いやあ、元気そうでよかったな」
「ホントホント。これでオレらの旅も無事、目的を果たせたな!」
海斗とサスケが感慨に浸り、ミカも静かにほほ笑みを浮かべる中でライアンだけが拳を握りしめていた。
「おーい。どうしたんだライアン」
「なんか怒ってないか?」
みると、顔は真っ赤に膨れ上がり、握りしめた拳はぷるぷると震えている。
「……お、おい。一体どうしたんだよ」
三人が心配そうにライアンを取り囲む。
「……た」
「ん?」
「……れた」
「はい?」
「っ惚れたあああああぁぁぁ!!」
突然空に向かって吠え出した。
「どわっ。いきなりなんだよ」
「マリンちゃん。俺はあの子のスマイルに天使の祝福を感じたぜ! なあ! あとどれくらい借金あるんだっけ? 俺らでカネを貯めてささっと返してしまおうぜ!! な? な?」
「ちょっと落ち着けって。ここじゃあれだから、とりあえず宿に戻らねぇか? 話はそれからだ」
なんとライアンがホの字になってしまった。
マリンはミカと同じく日本人っぽい顔立ちではあったが、雰囲気は全く異なっていた。ミカがキリっとしたお姉さんタイプなら、マリンは少しぼーっとした天然ボケキャラだった。だまされて借金を負わされたと聞けば、10人が10人とも『ああそうだろうな』と納得するに違いない。おそらくライアンの父性本能(?)らしきものがくすぐられたのだろう。
宿に戻ってなんとかライアンの興奮が収まるまで待ち、その日は夜にマリンと会うためギルドで依頼を受けたりせず、それぞれ買い物などして過ごした。
しかし夜の食事では再度ライアンがてんぱってしまい、突然マリンに告白したり、あまりに迫力がありすぎてマリンが若干引いたり、それなりに高級店だったため騒がしすぎて追い出されそうになったり、まあ色々とあったものの無事に彼女の住んでいる場所も確認が出来て、また以前のようにいつでも会えるようになったとミカも喜んでいた。
「これからどうするかねー」
翌朝、海斗達は朝食を取りながら今後の事を相談した。
なんでもマリンの借金は、店長が肩代わりしているらしい。公爵が借金ごと店に売りつけたのだ。だから返済が終わるまではこの店から移動することが出来ないとのこと。
ちなみに海斗がカネ持ちじゃないって事は、先日のレイチェルから雫を借りた話しをした事で3人に伝わった。カネ持ちどころか、海斗も借金持ちだったのだ。
だから、カネで解決はできない。
「はぁぁ。でも海斗がカネ持ちじゃないなんてショックだなー」
「ホントそうだよな」
「だいたい借金背負ってるのに贅沢するって、どんな神経してんだよ」
「いやいや、今はそんな事よりこれからの話しだよ」
マリンの家も確認できた事だし、また以前のようにミカは彼女のためにおカネを貯める日々に戻るのだろう。おそらくそれにライアンも加わるのだろうが。
だが、ランソールまで戻ってしまうと、次に会えるのはいつの日になるんだ、て事だ。
「やっぱ俺達もこの町で暮らすのが良いんじゃね?」
「ライアン、お前本当に本気だな?」
「たりめーよ。俺は一途な男なのさ」
「気持ちワリィ……」
ミカもここで暮らすと言うので海斗も残る事にした。
となると、サスケだけが微妙な感じになってしまったが、親友を置いて帰る訳には行かない、と同調してくれた。
海斗達はシェアハウスという形で家を借りた。1日で、1人あたり銀貨1枚程度だ。風呂も付いていたが水の調達やら沸かす魔道具なんてもちろん付いてないので、一週間に一度くらい、頑張って作ろうかという程度しか無理だろう。
翌日から、またギルドで依頼を受ける日々に戻った。
国が変わってもモンスターの種類は大きく変わらなかったので、特に問題なく順調に依頼をこなす事ができていた。
ドロップのほうも順調に溜まり、ようやく『ウインドバリア』と『衝撃波』が造れるだけの素材が確保できた。
いよいよ、念願のスキル合成である。
当然、『ウインドバリア』をベースに合成した方が良いと思われる。2つのスキルを選択し、合成と念じる。
すると、新たな特殊スキルが誕生した。『空間障壁』というスキルらしい。
とりあえず、なくなってしまったスキル『ウインドバリア』と『衝撃波』を再度作成して付与してから、モンスター相手に試してみる。
すると、モンスターの目の前にうっすらと空気の壁のようなものが出現した。前進していたモンスターは壁にぶつかると、強引に突破しようと何度も体当たりを試みていたが、壁はびくともせず、やがてあきらめたモンスターが回り込んで向かってくる。
ナッシュが使っていた『アイスウォール』のようなものだろうか。
有効なスキルではあるのだろうが、もっと強力なものを期待していただけに正直微妙だ。試しにモンスターを囲むように空間障壁を複数枚掛けてみると、なかでジタバタしている。
まあ何かの際に役立つかもしれない。
◆
ゴルドリック城下町に滞在してしばらく経ったころ、町に異変が起きた。
モンスターの大侵略である。
それは青天の霹靂であり、海斗達にとっても、町の人々にとっても逃げることすら敵わず『何故?』という疑問を頭に浮かべたまま茫然とするしか無かった。
本来は騎士団が定期的に遠方まで偵察を行い、兆候を掴んだ時点でギルドの強力も得て未然に侵略を防ぐのである。よほど騎士団の目が届かない辺境の町や村でない限り、遭遇するものではなかった。
だが現実として起こってしまった。
モンスターに次々と襲われて命を落としていく人々をみて、ようやく緊急事態だと分かったのか、今度は途端に全員がパニックになって城へと逃げ惑う状況に陥った。
当然、一気に城へ入れるはずもなく長い渋滞が発生していた。それだけなら未だ良いが、あちこちで押し合いとなり人々が重なるように倒れたり、倒れた人が踏みつけられまくったり、カオスな状況となっていた。
海斗達はそんな惨劇をみて相談した結果、城に行くよりも町の外でどこか身を隠せる場所に隠れる方がマシではないのかという事になった。
しかしその前にやる事がある。
マリンだ。
だが専属従者館で居場所を聞ける状況でもなく、唯一の手がかりであるマリンの家に行ってみるしかなかった。
「いない……」
「やっぱり城に避難したんじゃねぇか?」
「危険だな」
「とにかく探すんだっ」
ライアンが必死の形相で走っていく。
そこへ、モンスターが発した光線のような魔法がさく裂した。ライアンの近くにいた数人がまともに攻撃を浴びて吹き飛ばされる。
上を見ると、ドラゴンに似たモンスターが空を飛んでいた。
===============
Name:ウェル・ワイバーン
Caption:モンスター
基本スキル:
- 熱線
- ウインドブレイク
===============
羽を大きく揺らすと、ライアンを敵と認識したのか急降下して爪で掴み掛かろうとしてくる。あまりのスピードにライアンは反応できていない。
海斗はとっさにウインドバリアを掛ける。それとほぼ同時にワイバーンの爪がライアンに襲い掛かったが、風のバリアが上手く攻撃をいなしてくれた。
「ライアンッ! 大丈夫か?」
海斗たち3人が駆けつける。
「ああ、すまない」
「やばい敵のようだぜ」
作戦会議をする間もなく、モンスターから第二弾の攻撃が発せられる。おそらく最初に見た光線のようなものだ。海斗は新しく取得したスキル『空間障壁』を自分たちの目の前に出現させた。
「行けるっ!」
海斗は光線が無事に障壁に遮られるのを見て、稲妻の剣のを振りかざした。剣より稲妻が発生し、ワイバーンに直撃する。それが少なくないダメージを与えたようで、モンスターからの光線のような攻撃が止まった。
「ライトニングフラッシュ!」
ミカも負けじと魔法で援護射撃をしてくれている。ワイバーンは大きく羽ばたいて海斗達の魔法攻撃から身をかわすと、すさまじい爆風を伴った攻撃を仕掛けてきた。思わず四人とも吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「ってぇ!」
そこへ再度光線が降り注がれるが、今度も海斗の空間障壁でブロックする。
「ミカ、オレが防いでおくから、じゃんじゃん攻撃魔法を叩き込んでくれ!」
「わかってるわ」
流石に背伸びしまくって上位ランクの依頼をこなしているミカである。突然現れた強敵にも心を乱される事なく立ち向かっている。その他の約二名はあたふたしているだけだが。
「ライアンとサスケは、他にモンスターが近づいてきたら知らせてくれ!」
「お、おう。わかった」
ミカによる魔法の連続攻撃を浴びても、なかなかワイバーンは沈まなかった。それなりに攻撃は通っていそうな雰囲気なので、あとは時間との戦いだ。
海斗が長期戦を覚悟していたところ、突然隕石のようなものが真横から飛び込んできてワイバーンに直撃した。まさに一瞬の出来事であった。一体何が起こったのか。
「海斗、無事か?」
聞き覚えのある声に視線を向けると、やはりレイチェルだった。
「レイチェルさん!」
「よく耐えたな。比較的強力なモンスターは大かた始末した。あと残っているのは雑魚ばかりのはずだが、念のため油断するなよ。私は城の方を見て来る」
辺りを見回すと、町の住人たちが何名か倒れている。
ほとんどが既に絶命していたが、まだ生きている人間も居た。海斗はそんな人々に回復魔法を掛けつつもマリンの事を気に掛ける。
家に居ないという事は、やはり人々の流れにそって城に向かったとしか考えられない。海斗達もレイチェルの後を追って城へと向かった。
そこは地獄絵図だった。
おそらく城へ入ろうとして人が溢れ返っている状態の所にモンスターが襲来したのだろう。密集している人々に向かって範囲魔法なんぞぶっ放された日には、たまったものではない。何十人、何百人という人間が命を落としたのではないか。
海斗は思わず目を背け、その場にしゃがみ込んでしまう。
生きている人を見つけて回復魔法を掛けるなんて心の余裕は微塵もなかった。ただただ現実逃避をするだけだ。
これは映画だ。だから全て造りものなんだと。
そう言い聞かせる事でしか、正気を保っていられなかった。
たが目を背けても人々のうめき声は聞こえてくる。だから海斗は耳も塞ぎ、大声でわめき叫ぶしかなかった。
その海斗の耳にミカの声が浸透してくる。
攻撃魔法を詠唱する声だ。
ライアンとサスケが叫びながら何かと戦う声も聞こえて来た。
何故だ?
三人とも、何をしているのだ?
こんな幻覚相手に戦っても意味がないのだ。それが分からないのか?
どれほどの間、叫んでいたのだろうか。
どれほどの間、うずくまっていたのだろうか。
やがて気がつくと、ミカの声もライアン達が戦う物音も聞こえなくなっていた。そして、人々のうめき声も。
「気がついたか?」
場所も変わっていた。
うつ伏せになっていたはずなのだが、今は仰向けになっている。天井も見える。
「ここは?」
「ギルドの休憩室よ」
「オレは一体――」
「しゃべらなくていいわ。しばらく横になってなさい」
ミカの横からライアンとサスケも覗き込んでくる。
皆、心配そうな眼差しだ。
――ああそうか。オレは気を失ってしまったんだな。
ようやく今の状態を理解できた。
「無理しなくていいから。私たちは外で待ってるわね」
そう言って部屋を出ようとするミカの腕を、海斗はギュッと掴んだ。
それを見て、ライアンとサスケは片手を上げて出て行く。
「いいわ。落ち着くまでここに居てあげる」




