表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/57

第18話 潜入

 色々と厳しい現実を突きつけられてはいるが、もちろん引き返すという選択肢はなくて、海斗達は水辺の町から2日かけてゴルドリック城下町に移動した。


 どことなく、無機質な雰囲気が漂う町であった。

 それは建物の色が原因なのかもしれない。今までの町では、色とりどりの個性的な建物が多く存在しており、それぞれが何かを主張していた。


 だが、ゴルドリック城下町は窮屈な感じがする。

 まるで、使っても良い色を何色か指定されて、その範囲で造りなさいと指示されたかのようである。


 また建物だけでなく、人々の表情にも閉塞感があった。

 表面上は何の問題もなく日常生活を送っているかのように見える。しかし、何処か心の奥底からは『外に飛び出したい』『もっと弾けてみたい』といった願望が見え隠れしているかのようだ。


「でも驚いたな。検問なんて」

「そうね。事前に話しは聞いていたけど、まさかここまで本格的なものだとは思わなかったわ」


 海斗達はよそ者だという理由で止められて色々と話しを聞かれたのだ。それは尋問に近いものだった。

 事前に示し合わせていたとおり『マリン』という幼馴染を探して旅をしていると正直に言った。ただし、ゴルドリック公爵に買われた可能性が高いという情報は隠したまま。


 ある程度は正直に話したほうがボロが出ないし、相手が公爵側の人間なのであれば、運が良ければ何らかの情報入手に繋がるかもしれない。


 到着直後から色々と戸惑う事が多い町ではあったが、ギルド内はそれほど他の町と異なる事もなく、また、実際に入店しては居ないが専属従者館も存在していた。


 とりあえず今日は休んで、明日から本格的に活動しようという事になり、手ごろな宿をとった。例によって、ミカがまたドミトリーで良いというので安い宿になったのだが。


          ◆


 レイチェルは久々に故郷であるルマリアに戻って来ていた。

 何年振りであろうか。


 まあ、呼ばれなければきっと何年も戻らなかった事だろう。特に故郷を嫌っているからとかではなく、単に用事が無いからという理由だけなのであるが。


「全く。本当に用がなければ何年も顔を見せないやつだな」


 レイチェルの前で、兄のデレクが溜息をつく。

 それに苦笑いで答える。


「兄上もご壮健で何よりだ」

「やめてくれ。そんな他人行儀な言い方は」

「はははっ。相変わらず冗談が通じないな。少しふざけただけだから気にするな」


 ルマリアで一緒に暮らしていたときは、よくこうやって兄をからかって遊んだものだ。レイチェルは少しばかり懐かしい気分に浸る。


 だがその後、しばらくお互いに他愛もない会話をしていたのだが、だんだんと兄の表情が深刻になっていく。これは、何か問題が起きたのだと悟った。


「ゴルドリックのやつが本格的に乗り出してきたんだ」


 ああそんな事か、とレイチェルは思った。

 何年も前から分かっていた事だ。今更、何を言ってるのかと。


「違うんだ、聞いてくれレイチェル。今までの様に水面下での画策ではない。本格的に大規模な武力を伴った侵略なんだ」

「まさか。いくら奴がバカでも、そこまで表立って動きはしないだろう」

「そう、表立ってはな。隣国のブランカが進軍して来たんだ」

「ほう?」

「奴はそれに助力している」


 ルマリアの南に位置する『ブランカ』は、確かに野蛮な国として有名だ。いつも何処かで内乱が起きており、兵士は毎日のような戦争に心を憔悴させている。住民は心休まる時もなく、農民は毎日の食事すらまともに摂れていない。


 果たして、そんな国が攻めてきた所で何の脅威があるのか。


「我が城の南に位置する『アデリネッタの町』だ。奴は、そこに巨大な戦力を集めつつある。もちろん、ブランカの兵士として」

「なんだって? なぜ、それを許しているのだ?」

「あの町は奴の管轄下だ。もちろんルマリア王国配下に違いはないが、どうしても手が届きにくい部分があるのは否定できない」


 アデリネッタの町は、それほど活発な町ではないが広さだけは十分だ。巨大な戦力を集める事は不可能ではない。もちろん莫大な費用が掛かるが、奴の資金力をもってすれば問題ないだろう。

 

 確かに兄上の表情が深刻になるのは当たり前である。


「また奴は、大将クラスの人間を数名、ゴルドリック城に匿っている。俺としては、こちらの方が問題ではないかと見ている」


 確かにいくら戦は数でやるものと言っても、ブランカのような貧祖な国が集めた兵士などいくら集めたところで脅威ではない。しかしそれを纏め上げ、上手くコントロールしながら自らも切り込んでくる優秀な人間がいれば、戦局は大きく変わる。


「まぁ、兄上も大変だな」


 すべて悟ったうえで、わざとらしく他人行儀なセリフを吐く。

 実際、ほぼ絶縁状態であるレイチェルにとっては成り行きを眺める事しか出来ないのだ。もしかすると、少しくらいの手伝いをお願いされるかも、程度だ。

 

 だが、全然少しではなかった。


「何を人ごとのように言っている。お前にはゴルドリック城への潜入調査をお願いしたいのだ」

「はぁ!? 何故私が?」

「俺はアデリネッタのほうを見る。だからゴルドリックの方はお前に任せたいのだ。いや、これは危険を伴うからな。お前しか出来る人間は居ない」

「だからそういう意味ではなく、騎士団には他にも腕の立つ人間が居るだろう?」

「レイチェル、これは国王陛下からのご命令なのだ」

「!」


 兄のデレクはうっすらと額に汗をにじませている。

 それもそのはずだ。

 10年前に絶縁されて以来、騎士団との関わり合いは一切なかった。ここへきて、今更なぜ命令が下るのか。

 

 理由は兄も分からないという。ただ命令されただけなのだと。

 レイチェルは乗り気がしなかったものの、兄の立場上まずいだろうと言う事で、この話を承諾した。


「兄上、貸し1つだからな」

「ああわかっている。すまない」


 兄は単に命令を伝えただけで何の責任もないので、むしろ気にするなとの身内としての気遣いからわざとお茶らけて言った。


 やると決めた以上、レイチェルの行動は素早かった。

 2日後の夜には既に移動を終え、朝一番でゴルドリックに面会を申し出た。

 

 事前にルマリアから訪問の連絡が届いていたらしく、特に待たされる事もなく面会が実現した。

 

「お初にお目にかかります、閣下」

「堅苦しい挨拶はよい。貴女(きじょ)はもう、王国の関係者ではないと聞いているのでな」


 そう言ってゴルドリックも態度をくずし、まるで身内が再会したかのようにテーブルへの着席を勧めて来る。


「で、任務は敵地での潜入捜査ってところか」


 身も蓋もない事を言ってくる。一応、隣国ブランカからの侵略に備え、各地へ騎士団メンバーを派遣して応戦態勢を整えるという大義名分があるのだが。


 レイチェルは苦笑いで答えるしかなかった。

 本来なら、この場で白々しい問答をせねばならない所だったが、むしろ手間が省けて良かったのかもしれない。


「まあ良かろう。部屋は準備させてあるので自由に使ってくれれば良い。外出その他、なんの制限も掛けておらんのでな」


 さすがに自信たっぷりである。

 これは兄上のほうも一筋縄ではいかない事だろう。懐に敵を入れたうえで『何も隠すものはない』と公言できるのは、この展開も既に想定済みだと言う事だ。


 ここまで対策されているのであれば、そう簡単にしっぽを出すはずはない。ブランカの人間は城の中ではなく町に住まわせているのかもしれない。


 もしそうなら、定期的に連絡をとりあうはずだ。

 ブランカの人間が城に行くのか、その逆か。どちらかは分からないが、まずは城周辺を監視してみる事にした。


 監視を初めてすぐに、一人怪しい人物を発見する。

 いかにも城の中の様子をうかがっている感じだ。しかし、腑に落ちない点も多い。


 ゴルドリックと通じている人間なら、もっとスムーズに城内に潜入できるはずだ。もう一つの疑問点は、称号が『ギルド・コンラート』で『ギルドランクD』となっているのだ。

 

 称号の詐称は不可能ではないが、バレた時のリスクが大きい。しかも、詐称するにしては中途半端すぎる。


 怪しい人物は仕事(?)を終えたのか、やがて町のほうへと戻って行く。

 どう考えても今回の侵略とは関係ない人間に思えたのだが、時期が時期だけに念のため、尾行する事にした。


 レイチェルの予想に反し、そこは見たこともないような貧祖な宿泊施設だった。

 だがカモフラージュには丁度良い。なるほど奴らはこうやって町中に潜伏しているのかもしれない。さすがにこんな場所はノーマークであった。

 

 今回はハズレかもしれないが、今後の捜査対象には全ての施設を視野に入れる必要があると認識を改ることにする。

 

 念のためもう少し監視していると、先ほどの人物が施設から出て来た。今度は数名のメンバを伴っている。


 その中の一人を見たとき、レイチェルは思わず声を上げそうになるくらい、驚いた。

 彼女に珍しい剣を売ってくれた海斗という男だったのだ。


 彼はコンラート国の人間だ。それが、なぜこんな場所で、しかもゴルドリック城を探っているのだろうか。レイチェルは彼らが近くにある飲食店へ入るのを見届けると、頭の中に『?』マークを沢山並べたまま城へと戻った。


          ◆


「で、俺らも交代で見張りに立てば良いんかな?」

「そうなの。こんなお願いするのは申し訳ないんだけど……」

「いいっていいって。俺ら、仲間だろ?」


 ミカが色々と調べたところ、城には通用口のようなものがあって関係者はそこから出入りしているらしい。だから、マリンがもし城から出て町に行くなら必ず通るだろうとの事だった。


 ただ滞在費も馬鹿にならないので、2組にわけてギルドの依頼(クエスト)を受けながら探すのが良いと海斗は提案した。


「んじゃ、俺とミカが組むぜ」

「おいおい何いってんだ。ミカは海斗と組むのがお似合いじゃねぇか。二人の仲を邪魔するんじゃねぇよ」


 サスケが立候補するが、ライアンによって即却下されてしまう。


「な、何いってんのよ。私たちは別に――」

「だははっ。冗談だってのにマジになりやがって。もしかして本当だった?」

「っ!」


 海斗も何をどう訂正して良いか分からず、その場の流れに任せていた。結局は海斗とミカが組む事になり、日替わりで依頼(クエスト)と監視を担当する事になった。


 海斗は目の前を通りすぎる若い女性について、片っ端から鑑定を掛けていった。これは意外と疲れる。ミカは特に鑑定しなくても分かるので、大丈夫のようだった。


 だが10日経ってもマリンは見つからなかった。


「うーん。もしかして町に出ないでずっと城の中にいるんじゃ?」

「多分それは無いと思うのよね。だって監禁されている訳じゃないから。たまには休みの日とかがあって外出したりするはずだわ」


 もしかして、この貴族がよほどひどい人間なら、一切外出も認めないとかありうるんじゃないか、と海斗は思ったが口には出さなかった。


「じゃあ他にも出入り口があるとか?」

「それも無いはずなんだよね」


 週一回の休みなら、外出しない週もあるかもね、という事で翌週まで待ったが、やはり現れなかった。


 このまま監視を続けるか、別の作戦をとるかそろそろ考えないといけないなと海斗が考えていると、兵士らしき人間に声を掛けられてしまった。


「失礼。少々聞きたい事があるので城まで来ていただきたい」


 かなり事務的な話し方ではあったのだが、その奥底には『拒否はできないんだぞ』といった無言のプレッシャーがあった。

 

 連れていかれた取り調べ室のような場所で、何をしていたのか詰問を受ける。

 ミカと顔を合わせて、とりあえず前から用意して置いた言い訳を話す。すなわち、マリンという幼馴染がこの町に居るらしいから探しに来たんだと。

 

 ただ、ずっと城の近くで見張っていた事もバレているので、城の中に居るかもという情報も掴んだので調べていたと言った。


 だが兵士らしき人間は嘘ではないかと疑っている。

 嘘をつくと、重罪だぞと脅してくるのだ。


 結局海斗達は疑いが晴れず、そのまま拘留されてしまった。

 更に翌日、戻って来ないミカ達を不審に思い探しに来たライアン達も拘留されて運び込まれて来た。


「どうするよ」

「とにかく疑いが晴れるまで頑張って話すしかないわね」

「でも何でこんなに厳重なんだろう」

「わからない。内乱のことと何か関係があるのかしら」


 海斗は拘留された事により真っ先に拷問を心配したのだが、明らかに体が傷つくような暴力を伴った尋問をすれば犯罪者になるとの事で、身体的には特に何もされたりしなかった。


 だが自由を奪われている事は辛い。

 拘束されてから、もう1週間になる。

 

 何より一番つらいのは、食事だ。

 村で食べていたようなものに逆戻りしてしまった感がある。

 これをしかめっ面しながら口に入れる海斗をみて、三人は笑っていた。


「ほらみろ。普段贅沢するからこんな目に遭うんだ」

「いや、贅沢は関係ないだろ」

「あるある。大ありだよ。何も働かなくてもメシが食えるなんて、ラッキーじゃねぇか。ミカもそう思うだろ?」

「……あ、あんたたち。こんな生活はさすがの私も嫌よ」

「おおおー。やっぱ海斗と一緒に居ると贅沢が移るんだー。ミカも前はこんな食事で良いとか言ってたじゃん」

「それとコレとは別よ!」


 拘留室にあるまじき明るい声が響き渡っていた。


          ◆


 海斗達が捕まってから2週間。ようやく疑いが晴れたとの事で釈放される事になった。最初に捕まえられた時と同じように、極めて事務的な感じで「反逆の疑いが晴れたため釈放する」とだけ告げれれて城を出された。謝罪の一言も無しである。


 ライアン達がぶつぶつと文句を言っていたが、まあこんな事もこの世界では良くある事らしい。だが、城の近くで人探しをしていただけでここまで長期間にわたり拘留されるのは珍しいとのことだ。

 

 町に向けて歩き出すと、海斗の目の前に長身の女性が現れた。


「レイチャルさん!」

「しばらく振りだな、海斗。城では大変だったな」

「知ってたんですか?」

「知ってるも何も、私が公爵に話しを付けてお前たちを開放してもらったのだ」

「えええ?」


 やはり内乱の関係で公爵側の兵士たちもぴりぴりしていたらしい。

 だから少しでも不審な人間がいれば捕まえて徹底的に調べるのだそうだ。


「じゃあ、オレらは運が悪かったって事かな?」

「そういう事になるな。今は時期が悪かったな。で、マリンという女のことなんだが――」


 レイチェルは、マリンの事も調べてくれたらしい。

 今は既に公爵の下には居ないとの事だ。


「そう落ち込んだ顔をするな。おそらく、この町の専属従者館にでも居るはずだぞ」


 なんでも公爵は、興味がなくなった部下や召使はすぐに専属従者に売るのだそうだ。人を物のように扱う公爵に対して何ともいえない嫌な感じがしたが、だが話を聞く限りは無事だったようで、半分はホッとする気持ちもあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ