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第16話 遠征


 その日はそれで宿に帰り、ひたすら合成を試す。

 成果は二つだが、ミカの防具も無事強化できたため、何とかなりそうだ。

 

===============

Name:レザージャケット

Caption:防具

基本スキル:

特殊スキル:

 - 強化5

 - ダメージ吸収5

===============


 レザーアーマーと同じく、それぞれ5まで強化が出来た。

 そしてコボルトソードにライトニングボルトのスキル魔石を合成することも出来た。


===============

Name:稲妻の剣

Caption:生成武器

基本スキル:

 - 稲妻

特殊スキル:

 - 体力回復

 - 強化15

 - 衝撃波

===============


 驚いたことに、剣の名前が変わった。

 こんなものを持っていても良いんだろうか。という不安に襲われつつ、翌日の出発を迎えた。


「はい、コレ」


 ミカに強化済みのレザージャケットを渡す。


「よぉ海斗。聞いたぜ。Cランク向けの依頼を受けるんだってな。俺らもちゃんと誘ってくれよな」


 ライアン達も何故か乗り気だ。


「いや、危険だから二人は遠慮してもらえると助かるんだが……」

「冷たいこと言うなって。同じパーティメンバじゃねぇか」

「そうそう。ってか、何だよその武器は! いつの間にかパワーアップしやがって」


 サスケが目ざとく稲妻の剣に目を付ける。

 これで完全に退路は断たれてしまった。何かあっても海斗が何とかしてくれると完全に思い込んでいるようだ。

 

 だが受付に行った二人はがっくりと肩を落として戻って来た。


「……拒否られた」

「ちくしょぉぉ。オレらじゃダメだってよぉ!」


 元はCランク向けの依頼なのだ。Dランクであっても要相談なのだから、Eランクなら尚更か。よほど難易度の高い依頼をこなしていないと許可が下りないようだ。

 

 言い換えればミカと海斗はもう、申請すればDランクに昇進出来るかもしれないと言うことか。


 まぁランクが上がった所で強くなる訳ではないし、焦って上げる必要は無いだろう。それよりも自分を鍛える方が重要だ。

 

 ライアン達に見送られ、ミカと海斗は討伐隊の一員として馬車に乗り込んだ。


 二人はエイベンの町から西方面の討伐が担当となった。ミカが希望を出したのだ。例の友達に会えるかもしれないとの事で。


「あれ? ミカの魔法増えてるね」

「えへへ。でも海斗の装備に圧倒されてお披露目のタイミング無かったよ……」


 アイスストームだ。確かナッシュが付けていたのと同じものだ。範囲魔法なのはありがたい。

 高かったんだから、と彼女は言った。


「ところで、このジャケットに一体何したの?」

「んー。それは秘密だな」

「えー何よー。気になるじゃない」


 おほんっ!

 

 と誰かの咳払いが聞こえた。

 見ると周りの冒険者たちは皆真面目な表情でじっと馬車に揺られている。


 海斗達はEランクにも関わらず、いちゃいちゃしている不真面目な冒険者という烙印を押されたに違いない。

 

 それからガザム山脈までの道のりは辛いものだった。

 主に精神的に。

 

 この世界ではギルドランクでの差別が大きかったのだ。それを忘れていた。

 とりあえず一度注意されてからは厳粛な態度で来てたので、更なる注意は無かったのだが。

 

 それに、夜は交代で眠りに付くため、昼間の馬車での移動時間は殆ど眠っていた。汚名返上のため、自ら進んで夜間の見張りを名乗り出たのだから。


 海斗達のグループは、総勢18名だった。

 グループのリーダであるチェストンというBランクの男性から簡単な説明とフォーメーションが言い渡される。


 グループは、チェストンを除くと全てCランク以下だった。Cランクのメンバ4名、Dランクのメンバ10名、そして海斗達Eランクが三名だ。

 

 もう一人のEランクの名前はアルヴァ。称号をみると僧侶となっている。回復役のようだ。


「群れが来たぞ! 数が少ないが、皆、気を抜かずやってくれ」


 チェストンの掛け声とともに、冒険者たちは進軍する。

 見たこともないモンスター達が次々と襲い掛かってくるが、全てC、Dランクのメンバー達が殲滅していく。


「海斗、私たちももう少し前に出ようよ」

「そうだな。このままじゃ役立たずと思われちまう」


 そう言って出来るだけ端の邪魔にならない場所に位置取りし、迎え撃つ。

 とたんに複数のモンスターが襲い掛かってくる。鑑定する間も無い。とにかく手あたり次第、稲妻の剣で切りつけて行った。それに加えてミカが後方から新魔法であるアイスストームを放つ。


 やはり、これだけ冒険者の数が揃うと心強い。

 最前線のほうでも、一人にモンスターの攻撃が集中しそうになったら別の冒険者がすぐさまカバーしている。即席のパーティメンバだと言うのに、連携に全く違和感がない。

 

 海斗達も周りのメンバを見ながら慎重かつ大胆に攻撃の手を進めていた。

 ほどなくして群れの殲滅が終わる。


「ご苦労。次の群れが来るまで各自、体を休めるように」


 チェストンの掛け声と共に一旦休憩となる。


「ちょっと魔力を使い過ぎたかしら」

「新しい魔法だからね、まだまだ消費魔力の感覚が掴めないんだよきっと」

「そうね。次はもう少し抑えてみるわ」


 実際、殲滅力は足りている。海斗も、まだ一度も衝撃波を使っていないのだ。それだけ前衛のメンバが優秀なのかもしれない。

 

 その後も第二陣、第三陣とモンスターが攻めて来たが、全て返り討ちにする。


 こうして一日目の討伐は無事終わりを告げた。

 討伐隊は来た時と同じ馬車に乗り込み、一旦エイベンの町まで引き上げる。

 

 ギルドにて予約された宿に宿泊するのだ。

 食事付きではないので、各自で摂らなければならないが、海斗はむしろホッとした。何となく、自分だけ用意された食事は嫌だと言って別のものを食べるのは非常に気まずいから。


「ミカ、またオレが奢るからさ、良いものを食べない?」

「アンタって本当に、どこのお坊ちゃんなのよ。白状しなさいっ。えいっ。えいっ」


 ミカがほっぺたをつねってくる。


「うひひひひ。ひや、ほんあんひゃあいっへは」


 エイベンには長く滞在していたものの、ずっとグレンの家に居候していたため高級料亭がどこにあるか、全く分からなかった。ミカもエイベンには詳しくないらしい。

 

「なんで出身のアンタが知らないのよ」

「言ったろ。オレはもっと遠くから来たんだって。そういえば友達がココに居るんじゃなかったっけ? その子が知ってたりしないかな」

「ん~今からだとマリンも迷惑だろうし、適当に良さそうな店に入りましょ」


 マリンというのが彼女の友達なのだろう。

 この時間から訪問しても迷惑だろうと言う事で、仕方なく勘で店を選ぶことにした。

 ……まぁハズレだったのだが。


 翌日も、その翌日も大きな問題はなく、順調に討伐は進み、いよいよ最終日を迎えた。予定どおり、担当エリアはほぼ、モンスターが壊滅状態となった。

 

 海斗としても、沢山の素材を手に入れる事が出来たため、ホクホク顔だ。後で色々と合成を試すのが楽しみである。ゲームのように経験値やレベル、自分のステータスといった物を数値で見る事が出来ないので何とも言えないが、確実に攻撃力や防御力といった基本的な能力が上がっている事が実感できている。


「最初はどうなる事やらと思ったけど、この依頼(クエスト)に参加して良かったよ」

「でしょ? これが終わったら二人でDランク申請しようね」

「そうだな。オレも何となく行けそうな気がしてきた」


 そんな会話を聞いて、リーダーのチェストンが賛同してくれた。


「オレからも推薦しといてやるよ。お前らは本当にDランクの実力ありだ。自信を持って良いぞ」


 ミカが嬉しそうにVサインを出す。

 海斗はそれにサムズアップで答える。出発時点の馬車の中は非常に息苦しいものだったが、今はもう、皆から認めてもらえているようで本当に居心地が良くなった。


 余りにも順調に討伐が進んだせいか、リーダーのチェストンにも気の緩みがあったのだろう。朝のうちに殆どのモンスター殲滅を終えたため、少しガザム山脈の中まで深入りする事になったのだ。

 

 それが悲劇を生んだ。

 運悪く高レベルモンスターの大群に遭遇してしまったのだ。


「撤退だーッ!! 皆、撤退するんだ!」


 チェストンの声が響き渡った時には、もう既に手遅れだった。

 後方からもシルバーゴーレムやアークエンジェルなどの高レベルモンスターが襲い掛かって来た。

 

 必然的に戦力を分断し、前方と後方の両方にCランク主要メンバを配置せざるを得ない状況になった。当然、Dランクメンバにもモロにモンスターの直撃が来る。


 海斗はここへ来て初めて『ウインドバリア』を作動させた。今回の依頼(クエスト)で初だ。それだけ今まで順調過ぎたのだ。いつ、ミカに強力な攻撃が舞い込むか分からない状況である。

 

 そして、念のためもう一人のEランクメンバであるアルヴァにも掛けて置いた。回復メンバは貴重だから。他のDランク以上のメンバについては自分で何とかしてもらうしか無い。


 高レベルモンスターの強さは想像以上であった。

 本当にCランクでないと、まともに太刀打ち出来ないようだ。次々とDランクメンバが瀕死の重傷を負って行く。チェストンがあちこち飛び回ってフォローをするものの、一人では全く足りない状況だ。

 

 一体誰から治療をすれば良いのか?

 そもそも自分の回復スキルがどれだけ有効なのか?

 

 考えているヒマは無い。

 とにかく目に着いた人たちに片っ端から『手当て』や『ウインドバリア』を仕掛けていった。


「あぶないっ!」


 ミカが叫び声と共に海斗に体当たりして来る。直後、シルバーゴーレムがもつ巨大な棍棒が空を切る。お返しとばかりにダブル衝撃波を数発叩き込むと、目の前でモンスターが沈み込んだ。

 

 一体葬り去る事に成功したようだ。ダブル衝撃波は強力とはいえ、これだけで倒せるわけがない。おそらく既にダメージを負っていたのだろう。


「ミカ! オレもバリアで守っているから大丈夫だ。気にせず攻撃しまくれっ!」


 そう叫んだ直後、別のゴーレムからの強烈な一撃が海斗の体に直撃する。

 気を失いそうなGと共に数メートル程度吹き飛ばされた。

 

 が、風で出来たバリアが大幅にダメージを吸収してくれたおかげで大きなダメージは負わなくて済んだ。レザーアーマーに付与された効果も大きいようだ。

 

 これなら何とか戦えそうな気がする。

 その考えは甘かった。

 

 アークエンジェルが放つ、赤黒い熱風はバリアをいとも簡単にすり抜けて海斗の体に厳しいダメージを刻み込んだ。


「ぐぅぅ!」


 体中がきしむように痛い。

 だがおそらく、これもレザーアーマーの効果でかなりダメージ吸収されているはずだ。

 その証拠に、Cランクの人たちであっても、かなり苦痛に顔を歪めている。


 次の瞬間、轟音と共に嵐のような爆風がモンスター達を襲った。

 十体近くの高レベルモンスターが一気に吹き飛ばされる。誰かの強力なスキルがさく裂したのだろう。


「海斗ッ! こいつを担いでミカと共に、もう少し後ろまで下がれっ!」


 チェストンが、そう叫んでぐったりしているアルヴァを渡して来る。生きてるのか死んでるのか確かめるヒマもない。とにかく言われた通り、何人かのメンバと共に、急いで撤退した。

 

 だが、その先にもモンスターが陣取っていた。それを前衛らしきメンバが必死で抑え込む。それを見て、ミカがアイスストームを発動する。チェストンはおそらく後方で別のメンバをサポートしているのだろう。さっきの強力な爆風のようなものは期待できない。

 

 海斗も、ミカの範囲魔法に合わせて剣に付与されたスキル『稲妻』を発動される。激しい稲妻がモンスター達を飲み込み、奴らの動きが一瞬止まる。


「いいぞ!海斗。ここは俺らに任せて、今のウチに行けっ。出口はもうすぐそこだ」


 彼らなりにEランクメンバを先に逃がすという男気があるのだろう。ぐだぐだしていると余計に負担になると思い、先に進む事を選択する。


 と言ってもそのまま逃げるだけであれば単なるお荷物なので、再度『稲妻』を発動させた後、連続で『ダブル衝撃波』を叩き込んだ。

 

 すると、モンスターが次々と沈んで行く。

 他のギルドメンバも目を見開いて驚いていた。


 これはもしかして、行けるのではないだろうか。ミカと頷き合うと、残りのモンスターに対して更なる攻撃を注ぎ込む。

 

 ほどなくして背後に陣取っていたモンスターの殲滅に成功した。


「残ったメンバのサポートに行こう!」


 誰かが叫び、ほぼ同時に皆の足取りは救援に向かっていた。

 リーダーを含む、残ったメンバを襲っていたモンスター達は、突然背後から攻撃を受けてさぞかし驚いた事だろう。奇しくも挟み撃ちをする形になった。


 確実に、戦局は海斗達に傾いている。

 チェストンが放つ超強力な爆風は一気にモンスターを殲滅し、その他のCランクメンバも次々と強力なスキルを放って着実に息の根を止めて言っている。

 

 最初こそ、数の暴力で大ダメージを負ってしまったギルドメンバ達だが、ここまで来ればもう大丈夫だ。


 チェストンがスキルを乗せた剣を振るうと、至近距離で矢が放たれたような音をたてて風の刃が飛び、最後のアークエンジェルを真っ二つに分断する。


 後に残されたのは、瀕死の重傷を負った数名のギルドメンバ達だった。動けるメンバが手分けして重症メンバを担ぎあげ、山を下りる。最低限の治癒術を施し、馬車に乗せてエイベンの町に向かった。


 皆、無言だった。

 奇跡的に死者が出なかったとは言え、とても10日間の討伐終了を祝う雰囲気ではなかった。何と言っても一番つらいのは重症を負ったメンバ自身と、リーダーのチェストンだろう。

 

 エイベンのギルドで重傷者を病院へ運び、怪我人の手当てと討伐完了の手続きを終えると、各自そのまま解散となった。きっと本来ならギルド直営の酒場で祝杯などを挙げるのが恒例なのだろうが。


「やっぱり海斗の言うとおり、少し慎重に行く事も考えた方が良いのかもね」

「当たり前だろ。ホントに。みんな安全意識が足りないんだよな、全く……」


 と、海斗がぶつぶつ言ってるとミカが背中から抱き着いてきた。


「ちょ、ちょっと。何だよ」

「私たち、無事でよかったね。やっぱ海斗が居てくれてよかった」


 ぎゅっと力強く回された腕を見て、海斗も、本当に無事でよかったと心の底から思った。

 

「なあ。約束してくれ。Dランクになっても無茶な事はしないって」

「……うん。わかった」


 その日もギルドが確保してくれた宿に泊まり、翌日、ギルドの馬車でランソールに戻るか、それともこのままエイベンで解散するか選択する事になった。

 

 ミカが、マリンに会いに行きたいというので二人とも残る方を選択した。

 これで完全に討伐依頼(クエスト)は完了となり、報酬金額である金貨3枚をそれぞれ受け取った。Eランクだから他のメンバよりも少ないとはいえ、10日間で金貨3枚と言う事は、1日あたり銀貨30枚だ。高いと見るか、安いと見るか。


 海斗にとっては色々と素材が手に入ったので文句はない。しいて言えばガザム山脈でのドロップ品があまり回収できなかった事が残念だ、ぐらいだろうか。とてもじゃないが、拾っている余裕が無かったのだ。



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