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第15話 少し背伸びしてみる


 翌日海斗は、護衛の依頼(クエスト)を受けた。

 報酬は良くなかったのだが、以前討伐で訪れた事のあるシリの山だ。ここの素材を採取する商人の護衛である。

 

 もしかしたら合成に使える素材が見つかるかもしれないと踏んで、受けたのだ。

 依頼人は『イザベルタ』という女性商人だった。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくです」


 自前の馬車を持っている商人のため、それなりの実力者なのだろう。採取系のスキルも複数保持しているため、自分自身で採取しているようだ。


 海斗達がボスモンスターを退治したので、シリの山は以前の平和な場所に戻っていた。今回の護衛はEランクである海斗一人だけなのだが、全く問題はない。

 

 入山すると、早速イザベルタが岩肌や茂みの中から色々と素材を取得し始める。


「鉱物採取のスキルって、そうやって使うんですね」

「あら。冒険者の方に興味を持ってもらえるなんて光栄だわ」


 海斗は、仕事の邪魔をしてはいけないと思いつつも、色々な素材について片っ端から聞いて言った。イザベルタも、会話だけなら特に邪魔にはならないらしく、苦笑いしながらも質問に答えてくれる。


「おもしろい人ね。こんなに色々と聞かれたのは初めてよ」

「……すいません」

「ふふ。いいのよ。それよりもあなた、変わった武器を持ってるのねぇ」


 やはり突っ込まれてしまった。

 そりゃそうだ。


「スキルも高価なものばかりだし、こんな護衛なんて割に合わないでしょ?」


 海斗があまりにも色々と質問するものだから、相手も容赦なくずばっと切り込んで来た。


「いやあ、実は素材集めや融合に興味があって。オレも何か作ってみたいなと」

「あらそうなの? まだお若いのに珍しいわ。引退した冒険者が鍛冶師のスキル一式を取ってショップを開いたりするケースは良く聞くんだけど」

「ま、まあ本職は冒険者なので、使える武器や防具などを造りたいなと」


 そんな事をされたら商売があがったりだと冗談交じりに笑われつつも、融合スキルや素材のあれこれについて色々と教えてくれた。


 だが話しを聞く限り、二足のワラジは難しそうだ。採取した素材を製錬したり、加工したり、なんだかんだで完成までに時間が掛かる。とても依頼(クエスト)をこなしながら生成する時間はなさそうだと思った。

 

 しかし、合成なら時間は掛からない。

 融合はカモフラージュのためだけに取っておき、実際には合成で生成していくのが良いと思われる。実際には合成と融合で生成できるものが全く異なるので、カモフラージュにはなっていないのだが。


「海斗さん、もし宜しければ橋の向う側に行ってみませんか? 本来向う側はDランクの方と一緒に行かなければなりませんが、海斗さんなら大丈夫でしょう? 良い素材がありますので」


 イザベルタが提案してくるが、ミカの件があったばかりなので海斗は断った。万一、護衛対象に被害が及んだらシャレにならないし。だから、今度一人で行ってみて大丈夫そうなら次回一緒に行きますと答えておいた。

 

 その後も時間一杯まで素材の採取を行い、護衛の依頼(クエスト)は無事終了となった。

 彼女の店も『フランベルド商会連合』に加盟しているとの事なので、何かの際には相談ができるかもしれない。


          ◆


 海斗は鍛冶師系のスキルについて情報を集めるため、再びショップを訪れた。


 最低でも必要となるスキルは3つ、『鉱物採取』『ポーション生成』『融合』だ。

 だが、3つで合計白金貨1枚ほどになる。


 思ったより全然高い。

 今のところは手持ちがないため、カネを貯めてから出直すしかない。


 ならば、先に素材集めの下見に行こう。

 シリの山に行って橋の向う側に渡るのだ。Dランクが必要と言うからには、それなりの強敵が出ると考えた方がよい。

 

 ギルドに寄って、移動のための馬車を借りる事にする。

 この状態で更なる出費は痛いが、時は金なりだ。歩いて行くとなると、半日以上つぶれてしまう。


 手続きを済ませ、いざ出発しようとしたところでミカに捕まった。


「アンタ、やっぱり朝遅いのねぇ」


 どうも海斗が来るのを待っていたらしい。


「習慣でね……」

「で、今日は依頼(クエスト)も受けずに何処へ行こうというの?」

「ちょっと素材集めに……」


 ミカがじと目で見てくる。

 素材なら先日揃ったのではないか、という所か。

 まだまだ雫の借金のために集めねばならないという事が隠し切れない。

 

 今日は強敵と対峙するからと言ったら、尚更手伝うと言われてしまった。


「前にも言ったんだけど、ホント、返さなくてもいいんだからな」

「分かってるわよ。あまり深く考えないで」


 シリの山に付くと、早速入山して先日通った道をなぞっていく。今日は他にも何組か、ギルドメンバーを伴って素材採取に来ている商人の姿があった。イザベルタは居なかったが。そして、問題の橋を渡ってみた。


「ここから先はDランク向けのモンスターらしい」

「海斗なら大丈夫だよ。この前私が死んだのはB~Cランク向けのモンスターだったからね」


 どれだけ無理をしたんだ、というツッコミを入れつつ進んでいくと、早速モンスターが現れた。空を飛んでいるハゲタカのような奴だ。


「空なら任せて」


 ミカが早速ボルト魔法で殲滅に入る。

 海斗も衝撃波があるので、ある程度は何とかなるが、攻撃は彼女に任せて距離を詰めて来たモンスターを処理する役目を買って出た。


 程なく殲滅に成功する。

 その後も蛇の魔物や岩の魔物など出てきたが、どれも苦戦する事無く退治できた。これならイザベルタに誘われて進んでいたとしても全く問題なかっただろう。


「で、今日はなんの素材を集めれば良いの?」

「うーん、今日は偵察だよ。昨日護衛の依頼を受けた商人に橋の向うまで行けるか聞かれたんだけど分からなくてね」


 素材集めではなく単なる偵察と聞かされて、てっきり怒られるかと思ったが、ミカは「そうなんだ」と言っただけで特に嫌な顔をしなかった。


「ねえ、もっと上まで登ってみない?」

「大丈夫なの?」

「シリの山はDランクで頂上まで行けるんだよ」


 そう誘われて、更に上へと昇って行く。確かにモンスターの種類はあまり変化がなかった。一時間ほど登山をすると、頂が見えてくる。ミカが丁度よい場所を探し、一緒に座ろうと促してきた。


「わぁ~キレイ……」

「ほんとだ……」


 これぞファンタジーの世界、といった所だ。

 元の世界でも山から見下ろす景色は素晴らしかったが、どこか人工的なものが広がっていた。むしろ夜景なら光の調和で美しかったのだが、昼間の景色は断然、この世界のほうが素晴らしいと海斗は思った。


 目下に広がる緑の自然。

 それが遥か遠くまで続いている。その先に、ぽつんと人工的な建物らしきものが見える。


「ほら、見て。あれがきっとランソールの町だよ」


 そう言ってミカが指を指す。


「とすると、あっちがコンラートかな」

「そうだね。すごーい。こんな景色初めてみる」


 ふと海斗の肩に重みが加わる。

 ミカが軽く寄りかかって来ているのだ。彼女は目の前に広がる景色をうっとりと眺めながら、鑑賞に浸っている。そんなミカを見て海斗は、生き返って良かったと心の底から思った。そして、その横顔に愛おしさを感じる。出会った時の第一印象は、のぺっとした特色の無い顔で、日本人と言われても違和感がないな、くらいの物だった。

 

 それほど長く行動を共にした訳ではないのに、海斗は自分でもこの想いに戸惑ってしまっていた。


 海斗の視線に気が付いたのか、ミカがこちらを振り向く。

 そして目が合った瞬間、海斗は思わず彼女にキスをしていた。


 それは5秒だったか10秒だったか分からない。


「ああっと! タンマ。い、今のなし!」

「はぁぁ!? 何よ、自分からしておいて」

「いやいやいや、何かあまりにも横顔が魅力的だったから……ってオレは何を言ってるんだ?」


 そして天の恵みか悪魔のいたずらか、ハゲタカの叫び声が響き渡る。

 モンスター襲来だ。

 

 海斗は内心、グッジョブ!と心の中でガッツポーズを取る。


「……台無しだわ」


 ハゲタカを殲滅したあと、ミカは盛大に溜息をついた。


          ◆


「海斗、次この依頼(クエスト)受けない?」


 翌日もミカに待ち伏せされて一緒に依頼を探していると、彼女がとんでもないものを示して来た。


「えーと、ガザム山脈からのモンスター大規模襲撃対応。Cランク以上……。なにぃ~~」

「ちょっと、良くみてよ。ここに『Dランク要相談』って書いてるじゃない」

「あのう、僕たちまだEランクなのですが……」

「大丈夫よ。この手の依頼(クエスト)って、要は少しでもモンスターの数を減らせば良いんだから。私たちだけでやるものでもないし」


 確かにミカの言うとおり、とにかく冒険者の数を募って殲滅できるだけ殲滅するのが目的だ。自分の身の丈にあったモンスターを倒せばよいのだ。

 

 だからと言って、強弱入り乱れたモンスターの中に身を置くわけで、そうすると、いつ強敵に狙われるか分からない。


「だーめ、だめだめ! この前死んだばかりじゃんか」

「だから尚更なのよ。本当は前回の依頼を成功させてDランクに上がる予定だったんだから。海斗だったら絶対大丈夫だって」


 ミカの決意は固く、一人でも行ってしまいそうだ。

 だが今度死なれてしまったら、もう手持ちの駒がない。さすがにもう一つ雫をくれとは口が裂けても言えない。


「ん~……。ちょっと装備を整える時間が欲しい。一日や二日遅らした所で問題ないだろ?」


 そうやって時間を稼ぐのが精一杯だった。


 はぁ~どうしてこうなった。

 ホントにこの世界の人間は死に対して鈍感なのだなと改めて思った。

 

 海斗はまず、ショップに行ってみた。

 もう少しカネが溜まるまでは今の武器のまま行くつもりであったが、状況が変わった。


 バスタードソード。

 鋼鉄剣の1ランク上の武器だ。これに衝撃波や回復が付けれるなら、購入しよう。

 だが、購入してから付けれない事が分かったらアウトなので、店頭に置いてある武器に向かって合成を試してみるのだ。最後の手順でキャンセルすれば問題ないだろう。


「すごい。これ買うんだ」

「どわぁっと!」


 合成のため集中していたところ、後ろから突然声を掛けられたため飛び上がって驚いてしまった。


「何よ。そんなに驚かなくても」

「なななんでミカが居るんだよ」

「準備するって言うから、何の準備するのかなぁって気になっちゃって」


 気になっちゃって、じゃねぇよ。

 とツッコミながらも、専属従者の館へ行かなくて良かったと胸をなでおろした。

 

 もしかしたら、一日とか二日とかだけでクラスCの人間を雇う事ができるかなと思って少し覗いてみようとも思っていたのだ。以前話しを聞いた限りだと、そこまで短期間のものはなかったのだが。

 それならギルドで雇えよ、という話しだ。だがギルドで雇ってギルドの依頼(クエスト)を受けるのは変すぎる。


「ま、まあ使えそうなら買おうかと思ってな。今検討中なんだ。ちょっと集中させてくれ」


 そう言ってあらためて合成スキルを発動した。

 まず、バスタードソードを選択し、赤く反転させる。そして、手持ちの魔石を選択しようとすると、突然目の前に自分のステータスウインドが開いた。


「おわっ」

「何よいきなり。どうかした?」


 ステータスウインドに記載されている『海斗』の文字が、赤く点滅している。これは一体どういう事だろう?


「ミカ、あのさ。鑑定した時に名前が赤く点滅してるのって何かあるの?」

「赤く点滅? ……!」


 ミカは何かに気が付いたらしく、急に海斗からバスタードソードを取り上げ、陳列台に戻した。そして、海斗の手を引き店の外に引っ張っていく。

 

「ど、どしたんだよ急に」

「しっ! だまって着いて来て」


 口に人差し指を当てて強引に引っ張られる。


「海斗、アンタもしかして剣を盗もうとした?」

「さっきのやつ? いや、そんな訳ないだろ」

「犯罪を行おうとしたときに、名前が赤く点滅するのよ。で、やっちゃったら『罪人』になって処罰されるわよ。ってこんなの常識じゃない。何で知らないのよ。ってか何をしようとしたのよ!」

「ッ! ま、まじ~~???」


 海斗は飛び上がって驚いた。

 まさかそんなシステムがあるとは。本当にゲームみたいな世界だ。

 

 だが、何故犯罪と見なされたのだろうか。

 陳列台から武器を取り、手に持った。

 

 これは買う前に品を確かめる行為だから大丈夫なはずだ。それに今までもやっていたし。

 

 違う所と言えば、合成スキルを発動した事か。

 

 それだ!

 合成して全く別のものになってしまうと言う事は、元の世界で言うところの器物損壊か何かにあたるはずだ。


「そういう事か……」

「何が『そういう事か』、よ! ホントに大丈夫かしら。心配になってくるわ」

「いや、ミカに対しては別の意味でオレが心配掛けられっぱなしだからな」


 軽く頭にチョップを貰いながらも、もう一度店内に入った。

 仕組みは分かったが、これは困った。

 たぶん、両方選択してからキャンセルすれば大丈夫だと思うのだが、いまいち自信がない。もし二つ目を選択した時点で罪人扱いになればたまったものではない。


 購入してから試すしかないのか……。

 バスタードソードの値札を見る。

 

 銀貨400枚。

 

 試しに購入できる金額ではない。

 武器は諦めて今まで通りで行くしかないのか。

 

 魔法については、色々と組み合わせた結果『ライトニングボルト』の魔石が出来た。本当ならこれを売って出来た資金で剣を買おうと思っていたのだが。

 

 そうか。これもコボルトソードに合成できるかもしれない。今まで思いつかなかった。後で試してみよう。


 あと出来る事と言えば、ミカの防御力を上げる事か。

 見たところ、レザージャケットを着ている。これに色々と合成すれば良くなるかもしれない。


「ミカが今来ているジャケットだけど、一旦オレにくれない?明日返すからさ」

「へ? な、何よ」


 かなり不審がっている。

 そりゃそうだ。

 だが例の依頼を受けるんだったら絶対必要だからと言って何とか了承してもらえた。



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