第14話 素材集め
ランソールに戻った海斗は、ギルドでコボルトとゴブリンが多数出現するエリアを聞き、狩りに向かった。剣を売ってしまったら武器がなくなるからだ。また例の鉄パイプのような剣を使う羽目になってしまう。
だがコボルトソード16本とサーベルウルフのレアドロップ、ゴブリンの爪、と集めるものが沢山必要だ。一週間や二週間で集まるとも思えない。しばらくの間は鉄パイプになる事を覚悟しなければならなそうだ。
ランソールに戻ってから僅か3日でラダマンからの連絡が届いた。レイチェルと連絡が付き、10日後にランソールのギルドで待ち合わせをすることになった。
思った通り、剣を売る日までに素材は全て集まらなかった。
が、ミカの蘇生が優先であることに間違いはない。
約束の日、海斗は剣を携えてギルドに向かった。
「久しいな、海斗よ。思ったとおり、珍しいアイテムを譲ってもらえるとか」
「はい、すみません。お呼び出してしまって」
「構わぬ。して、やはりその剣なのか?」
「はい、これは特別なものなのですが、どうしてもおカネが必要になりまして」
聞いている、とレイチェルは言った。
そして生命の雫が金貨100枚以上のものであることも、当然知っているのだろう。だから、この剣がどれほど特殊なものなのか楽しみにしているようだ。
やはり実際に使ってもらった方がよいと思い、以前と同じようにオークにて試し切りをしてもらう事にした。
「なに? 基本的には同じ強さだと?」
「そうです。ただし以前の剣とは二つ異なるものがあります。まずは衝撃波です」
鑑定しても、そんなスキルは付いてないように見えるのは明白だ。
だから、実際に試してもらうのだと海斗は説明した。
レイチェルは前回と同じようにオークに対峙して、まずは通常攻撃で切り付けた。そして、わずか二振りでいとも簡単にオークを仕留める。
「うむ、確かに強度は同じだな」
そして、二匹目のオークに衝撃波を叩き込む。すると、今度は一撃でオークが沈んだ。
「ほう。これは確かに驚きだ。スキルが付いているようには見えないのだが」
これで少しは特別感を味わってもらえたのだろうか。
続いて回復スキルについて説明した。
「ふふふ。やはり私を楽しませてくれる。世界中探しても、めったにお目にかかれないものだ」
残念ながら皆無という事ではないらしい。
この広い世の中には回復スキルの付いた武器もあると言う事か。
だがスキルを試すために、更に強い敵と戦う必要があるらしく、もう少し遠くまで馬車で移動することとなった。
そして移動した先で海斗はとんでもないモンスターを見ることとなった。
ドラゴンだ。
レイチェルは大丈夫なのだろうが、海斗とラダマンに被害は及ばないのだろうか。
「心配するな。馬車に丸ごと聖壁を掛けておく。ドラゴン程度の攻撃なら完全に防げるだろう」
そんな海斗の心配を察したようにレイチェルがフォローを入れてくる。
しかし、この凶悪なモンスターをドラゴン程度と言ってのける彼女の強さは、一体何なんだろうか。
彼女の言った通り、ドーム状に光のバリアが施され、中から安全にレイチェルの戦っている姿を見る事ができた。ドラゴン相手であっても、彼女の落ち着きは全く変わらない。相変わらず人形相手の試し切りみたいな感じだ。
だが、今回は攻撃を体で受け止めている。
一体どうしたのかと思ったが、すぐに理由が分かった。
回復量を知るためにはダメージを受けなければいけないのだ。
それを、この相手に行う所がすごいだけで。
海斗であれば、ドラゴンの吐き出す炎を浴びたなら跡形もなく灼け飛んでしまいそうだ。
ようやく満足のいくダメージを受けたのか、レイチェルが反撃に入った。
まずは普通に切り付ける。
そして次に衝撃波を乗せて剣を振るう。
三度目の攻撃は、海斗がやったように衝撃波に何らかのスキルを併用したようだ。非常に広範囲に渡って衝撃の波が放たれたように見えた。そして、ドラゴンが力尽きる。
スキルを使ったとはいえ、たった三回の攻撃で仕留めたのだ。素晴らしいとしか言いようがない。
帰りの馬車のなかでレイチェルの寸評が述べられる。
「確かに良い剣だ。回復スキルも間違いなく付いているな。鑑定できないが」
合格点はもらえたようだ。問題は金額なのだが。
「そうだな、金貨20枚というところでどうだろう。残念ながら生命の雫とまでは行かないので申し訳ないが」
「……そうですか。仕方がありません、それでお願いします」
「うむ、そう落ち込むでない。雫については、私の持っているものを譲ろう」
「!」
レイチェルが信じられない事を言ってきた。
「友のために大切な剣を手放すなんて、大したものだ。私は気に入ったよ」
「いえ、嬉しいのですがそこまでしてもらう訳には……」
「ははは。お前ならそう言うと思ったよ。ではこうしようじゃないか。足りない分は前払いだ。今後も珍しい品を手に入れたら是非持ってきて欲しい。だから雫を先払いだと思って受け取ってくれ」
彼女の粋な計らいで、なんとか雫を手に入れる事が出来た。
借金を背負う形になったのだが、大して気にする事でもないだろう。命の重さに比べれば。
ギルドに戻った海斗は早速ミカの蘇生を依頼する。といっても手続きが良く分からないのでとりあえずギルドカウンターで聞いてみる。
蘇生手続きについては別の窓口があると言う事で案内され、そこで誓約書のようなものにサインさせられる。何でも、蘇生が失敗しても文句は言うなという文言だそうだ。一見、ひどに内容に思えるが、亡くなってから日数が経過しすぎていたり損傷が激しかったりすると失敗する事があるらしい。決して術者の実力に寄るものでは無いと説明を受けた。
そして蘇生手続きに金貨一枚と言われ、更なる出費にショックを受けた。
「では、ご本人である事を確認ください」
そう言われ、目の前にある、藁に包まれたミノムシのような棺を鑑定する。
===============
Name:ミカ(死亡)
Caption:
- 職業:魔術師
- 所属:ギルド・ランソール
- ギルドランクE
基本スキル:
- ファイアボルト
- アイスシールド
- ライトニングフラッシュ
===============
「間違いありません」
「では施術を開始いたしますので別室でお待ちください」
海斗は促されるままに案内された部屋で待つことにする。約一時間程度で完了するとのこと。まるでドラマで見た手術のシーンであるかのようだ。
施術が終われば医者のような人が出て来て「無事成功しました」とか言うのだろうか。
そんな事を考えながら部屋で待っていると、やがて扉がノックされる。
「海斗さん。蘇生術のほうが無事終わりましたので、ご確認いただけますでしょうか」
スタッフが極めて事務的に結果を告げる。
海斗は内心めちゃくちゃ嬉しかったのだが、こうも当たり前のようにさらっと言われてしまうと両手を上げて喜んだりとか出来る空気では無かった。
ライアン達でも呼んでおけば良かったと後悔しながら、ミカが居る部屋に進む。
何やら魔法陣のような物々しい模様が施された部屋の真ん中にミカが横たわっている。先ほどまで体をくるんでいたミノムシの藁のようなものは取り除かれ、白いシーツで全身くるまれている。そして、顔の部分のみ見えるようになっていた。
「ご確認いただき、こちらにサインいただけますでしょうか」
再度スタッフが事務的に告げて来る。
どう確認しろと?
と、一瞬思ったが鑑定すれば良いのか。あらためてミカを鑑定してみると、名前の箇所から(死亡)の文字が消えていた。本当に蘇生されたのだ。
海斗は渡された紙にサインをした。
「ご確認ありがとうございます。個人差はありますが、およそ三日ほどで目を覚ますでしょう。ご自宅にお連れしますか? それともギルド病院に入院されますでしょうか」
次から次へと手続きを迫られ、半ばパニックになりながらも何とか応対する。
「びょ、病院でお願いします」
「一泊あたり、銀貨4枚になります。支払いはギルドカウンターにて承っておりますので、こちらの紙をご提示してください」
以上で全て完了ですと告げられ、海斗は部屋を後にした。
半分ぼーっとしながらもいつものロビーまで戻ると、冒険者たちの賑やかな情景が戻って来た。
怒鳴り声のような冒険者達のいつもの声を聞くと、何故か気分が落ち着いてきた。
ミカの蘇生も完了し、海斗はそこでようやく大きな背伸びをした。
また平和な日常に戻ったのだと。
◆
ミカは二日後に目を覚ましたらしく、更にその翌日にギルドを訪れた際に彼女が待ち受けていた。ギルドの扉を開けてすぐに海斗はミカの存在に気が付いた。
彼女もずっと扉を注視していたらしく、すぐに海斗の方に寄って来る。
「どうして?」
開口一番、仁王立ちになって海斗に詰問してきた。
突然の剣幕にたじたじになっていると、更に畳みかけるように聞いてくる。
「どうしてなの!?」
あまりの迫力に、周りにいた冒険者たちが注目してくる。
「ちょ、ちょっと待って。ここじゃアレだから向うに行こうよ」
そう言いながら彼女を引っ張ってロビーの片隅にあるテーブルに着いた。
席に座ってからも、何やら彼女が一方的に怒った口調で問いかけてくる。主に、頼んだ覚えはない等の内容ばかりなのだが。
「あ、あのさぁ。誤解されたら困るんだけど、オレは単に自己満足のためにやったんだよね」
「はぁ?」
「オレの故郷では人の命ってすごく尊重されるものなんだ。おカネで換算できない程にね。それこそ、何億円――いや、白金貨が何枚必要になったとしても命を優先するんだ」
「だからって、こんなの勝手に……」
「言ったろ。これはオレの自己満足なんだって。だから君に雫の費用を払ってくれなんて言うつもりはさらさら無いんだ」
「!」
それを聞いてミカは目を大きく見開いた。
どうやら費用を請求される事ばかり懸念していたようだ。
「アンタって本当に金持ちだったんだね」
「いやぁ別にそんな事はないんだけど……。いや、そうでも無いかな」
金持ちだから、これくらい大したことは無い、みたいに言った方が彼女の心の負担は少ないかなと思い、敢えて何も言わなかった。そんな海斗の事をいぶかしそうにじーっと見ていたミカだったが、その顔からはもう、険しい表情は無くなっていた。
「ごめんなさい。せっかく蘇生してもらったのに怒っちゃって」
「いやいや、何かこの世界だと随分と変な事なんだってね。他人を蘇生するなんて」
「うん。ホントにそうだよ……」
それから彼女はぽつりぽつりと身の上話を聞かせてくれた。
なんでも、仲の良かった女の子が詐欺にあって多大な借金を背負ってしまったらしい。その女の子は現在エイベンの専属従者で働いているとの事だ。だが専属従者で働いたとしても10年以上掛かるくらいの借金らしく、少しでも早く解放されるためにギルドに入ってお金を稼ごうと決めたとのこと。
彼女の焦りの理由が分かった。
「あ、でも勘違いしないでね。アンタに話したのは別におカネを貸してくれって事じゃないからね」
「わかってるよ。ミカ達がそんなのは望んでない事くらい」
「うん、ホントにありがとね」
そう言って彼女は大きく背伸びをして、また頑張っておカネを稼ごうと気合を入れている。
「ミカ! なんで生きてるんだよ」
横から叫び声が聞こえてきた。
声の主はライアンだった。そしていつもどおりサスケも居る。
「もしかして、海斗が?」
放たれる疑問に頷く事で回答する。
「しょえええぇ~唯の金持ちじゃないと思っていたが、お前ってどれだけすげぇんだよ」
「あ、もしかして惚れたか? そうなのか? そうなんだろ」
「バカ……」
ライアン達も驚きを隠せないでいる。
やはりそれだけ非常識な事をしてしまったのだ。だが海斗の心に後悔の二文字は無かった。コボルトソードは無くなってしまったが、また素材を集めて作ればよい。
幸い、残る素材はサーベルウルフのレアドロップである『するどい爪』だけだ。まぁこれが無くても『強化15』と『体力回復』のスキルが付いているため問題はあまり無いのだが、ダブル衝撃波は切り札的な存在なので、ぜひ付けておきたい。
「さあて。んじゃオレはちと出かけてくる」
「はあ? 何だよ。これから一緒に依頼するんじゃねぇのかよ」
「うん、ちょっと素材集めが必要なんだ」
「いいじゃねぇか。オレらもその依頼一緒に受けるからよ」
これは個人的な素材集めだから依頼ではないんだと伝えるも、一緒に来ると言って聞かなかった。特にミカはせめて手伝いさせてくれと食い下がってくる。
「わかった、わかったよ。集めたいのは『するどい爪』なんだ。だから皆でサーベルウルフを狩りまくろう!」
三人ともきょとんとした目をしていたが、特に何も言わず付いて来た。
そりゃそうだ。レアドロップのくせに店にも売れないアイテムだ。思いっきり残念ドロップなのだから。
町を出て四人でサーベルウルフを狩りまくる。
エンカウントが少ない上にドロップ率も低いため、全然楽しくない狩りだと思う。
「もしかして、これって私を蘇生した事と関係ある?」
ミカが疑問に思って聞いてくる。
図星である。
だが海斗は曖昧に返事をしておいた。
その態度が肯定に聞こえたらしく、自分の撒いた種だからと積極的に狩りを続けてくれた。他の二人は若干だらけてきていたのだが。
いよいよ日没が迫って、そろそろ引き上げないといけないかな、と思い始めた頃にドロップは出た。
「やったぜ!」
皮肉な事に、一番だらけて狩っていたライアンが出した。
「おおおー」
でも四人とも大喜びだ。これでやっと退屈な狩りから解放される。
海斗は皆にお礼を言い、暗くなったランソールの町で別れを告げた。




