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第13話 たとえ死しても


「うげげ。招集持ってやがる」

「ほんとだ。ツイてないね」

「まぁ海斗が居るから何とかなるだろう」

「そうね」


 また何か勝手に話しがまとまっているが、決して自分は万能ではないと叫びたい。

 だが前のモンスターも招集を持っていた。単にボスを倒すまで再現なくモンスターが寄ってくると言うだけのはずだ。


 と、思ったが後衛のミカが居るのだ。

 低レベルモンスターのため、数体であれば彼女でも問題ないだろうが囲まれると流石に厳しいのではないだろうか。


「オレがミカを守るってこと?」

「そそ。よろしくな」

「ちょっと。正面切って守るなんて言われると恥ずかしいじゃない」


 なら何て言えと?

 そんなツッコミを入れる間もなく、ボスとのエンカウントとなった。以前にナッシュと共に戦ったときのように範囲魔法があれば良いのだが、皆、各個撃破で対応しているから中々に厳しい状況だ。


 おそらく、サーベルウルフのボスは通常なら招集を持ってない事が多いのだろう。だからミカ達は範囲魔法がなくても行けると踏んだのではないだろうか。


 だが文句を言っても始まらない。

 海斗はミカにウインドバリアを掛けつつ、ボスの囲みに混ざる。


 どうせ招集があるから取り巻きを減らしても焼け石に水だ。ならば、一秒でも早くボスを倒すことに注力する。


 三人でボスを囲み、打撃による攻撃を叩き込みまくる。

 

「いってぇ! 何しやがる」


 やはりボスだけあって、雑魚モンスターとは基本性能が全く異なるみたいだ。ライアンが強烈な体当たり攻撃をくらい、吹き飛ばされる。そして陣形が乱れたところに大量のモンスターが一気に襲い掛かってくる。海斗はすかさず自分にウインドバリアを掛けたが、他の二人には間に合わなかった。


「くぅぅ。きついぜ」


 先に自分の周りにいるザコモンスターを一掃すると、海斗は二人に向けて回復魔法をかける。一番低ランクの『手当て』であるため、どのくらい回復するのか分からないが。


「サンキュー、海斗。まだ大丈夫だ。厳しくなったら言うから、それまでは殲滅を優先してくれ」

「分かった」


 再度陣形を立て直すと、引き続きボスへの攻撃を再開する。更に後ろからはミカのボルト系魔法がボスを的確にとらえる。


 このままでも問題なさそうであったが、念のため、海斗は『ダブル衝撃波』を使い、更なるダメージの上乗せを計る。


「おわっ。何だよそれ!」


 ダブル衝撃波を受けるたびにボスは苦悶の表情を見せる。明らかに効いている。二度、三度と叩き込む事で反撃すらして来なくなった。

 

「すげぇ……。さすがだぜ。カネの力は偉大だな」


 ボスの反撃がなくなった事で前衛の二人は余裕が生まれたらしく、周りのザコモンスターを倒しながら海斗の攻撃を眺めていた。


「いや、できれば皆も手伝って欲しいんだけど」

「大丈夫じゃんか」

「ダメだ、もう魔力切れだな」

「なに~~」


 本当はもう少し行けたのだが、二人が動いてくれないのと、ミカに掛けるウインドバリアのための魔力も残しておく必要があるため通常攻撃に切り替えた。

 

 だが、随分とダメージを与えたようだ。

 やがて断末魔の叫びをあげながら、ボスモンスターがゆっくりと沈んで行く。


「見ろよ! オリハルコンの欠片だぜ」

「おおお、プチレアじゃないか」


 良いドロップが出たらしい。


「ふぅぅ。お疲れさま。海斗のこのバリア、すごく強力だね。モンスターからの攻撃を全く受付けなかったよ」

「それは良かった。まぁ、エンシェントワームの攻撃も防げたからな。この辺りのモンスターならまず大丈夫だとは思っていたよ」

「あんたってホント、やばいね。何でDランクにあげないの?」


 エンシェントワームを一人で倒した事を聞いた三人は驚いていた。

 だが海斗は未だ、シリの森の最深部まで到達していない。ギルドスタッフの話しでは、最深部に行けるようならDランクで問題ないと言われていたので、まだ無理ではないかと思われる。


「バカね。そんな話を真に受けるなんて。スタッフは慎重派が多いのよ。そんだけの実力があるならDランクになれると思うわ」

「付けてるスキルが良いだけで実力は伴ってないんだよ、きっと。だからまだEランクの実力だと思ってるよ」


 実際、ウインドバリアやダブル衝撃波がなければ、森のほんの入り口にしか進めていないと思う。


「ま、まぁまとめると、海斗はまだしばらく俺らと一緒にパーティを組むって事だよな!」

「そうそう! よろしくな」


 ライアンとサスケが楽しそうにしている。カネになるドロップが手に入って上機嫌なのだろう。一人当たり、銀貨11枚余りになるそうだ。まぁプチレアならこんな所か。お小遣いゲット、みたいな感じだろう。ドミトリーに宿泊するくらいの冒険者からしたらそれなりに大金ではあるが、銀貨15枚の宿に泊まっている海斗からすれば正直微妙な金額だ。


 だが依頼(クエスト)の報奨金と合わせて、今日だけで収入は銀貨25枚以上となった。昨日の分も合わせると銀貨50枚近くになる。


「なぁ。真面目な話、俺らパーティ組まない?」

「固定ってこと?」

「そうだよ。なかなか良い感じじゃないか?」

「うーん、私はパスかなぁ」

「なんでだよ(笑)」

「だって。私は多少無理しても良いから早くCランクに上がりたいんだ。皆に付き合ってもらうのは悪いよ。無理して死なれでもしたら責任感じちゃうから。あ、でも海斗なら大丈夫かな」

「だぁーっ! 何で海斗だけ」

「ふふふ。まあ都合が合えば、また一緒に依頼(クエスト)してもいいわよ。見かけたら声掛けてちょうだいね。だいたい毎日ギルドに来るから。じゃあ、二日間ありがとねー」


 ミカはそう言ってさっさと帰って行った。


「あっさりした奴だぜ」

「なあ、海斗。本気で考えといてくれよな」

「う……ん。まあオレも、都合があえばってとこかな」

「なんだよそりゃ。まぁお前にとったらオレらと組むメリットなんてねぇもんなー」


 サスケが諦めたように言う。

 海斗としては正直組んでも良かったのだが、これから時空魔法を探すために色々と飛び回る必要があるのだ。だから、その辺りの事情を軽く話して納得してもらった。

 

「でも彼女、なんで急いでCランクになりたいんだろうね」

「そりゃあカネのためじゃないの? 二日間一緒にいたけど、カネについては結構厳しかったからなぁ。なんか借金でもあるんじゃね?」


 海斗の疑問にライアンが答えてくれた。

 確かにそんな節があるような気がしないでもない。


「Cランクになると儲かるのか?」

「そりゃあもう、専属従者雇い放題だな(笑)。その代りギルドからの指名依頼が来るからなぁ。だからわざとDランクに留まるギルドメンバも多いらしいぜ」


 そういえば、ロベルトもCランクの実力があると言われていた。もしかしたら指名依頼を避けるためDランクのままだったのかもしれない。


「お、おい。ありゃサイモンドだぜ」

「本当だ。何でだ?」

「もしかしてバハムートに挑んだんじゃねぇか?」

「ありうる」


 突然辺りが騒がしくなった。ギルド内に居る冒険者たちが、扉から運び込まれた台車を押している人間に釘付けになっている。


 隣をみると、サスケ達も驚いた顔をしている。


「サスケ、何かあったのか?」

「サイモンドだよ。お前知らないのか? ああそうか。エイベン出身だったな。彼はそろそろランクAに上がるんじゃないかと噂されていた人なんだ」


 そう言われて鑑定してみるが、名前は『ランデレク』と出た。


「ばかっ。棺のほうだよ」


 海斗が首を傾げていると、サスケが教えてくれた。『ランデレク』というのは、台車を押しているギルドスタッフの名前で、台車の上に乗せられている、ミノムシの藁みたいなもので包まれたものが棺らしい。


===============

Name:サイモンド(死亡)

Caption:

 - 職業:魔剣士

 - 所属:ギルド・ランソール

 - ギルドランクB

基本スキル:

 - 双龍剣

 - 黒炎衝撃波

 - 氷結晶

===============


 名前に死亡という文字が付いている。そのまんまの意味なのだろう。

 ランクBのギルドメンバが死んだという事で皆、騒いでいたのだと初めて理解できた。

 

 今までも、台車に乗せられたミノムシみたいなものを何度か見たことがあった。何かの荷物を運んでいるだけなのだろうと気にも留めてなかったのだが、あれは死体だったのだ。


「まあ近々バハムートに挑むだろうと噂だったからな。ダメだったみたいだが」

「そこまでしてAランクに上がりたいの?」

「Aランクになれるのは限られた人間だけらしいからな。名誉が欲しいんじゃないのか。Bランクなら既に生活には困らないだろうからな」

「でも死んでしまったら元も子もないよな」

「生命の雫を買うだけの金を貯めてから挑んだんだと思うぜ」


 なんと、この世界では『死』は絶対的なものでは無いらしい。

 生命の雫とやらがあれば、生き返れると聞いて海斗は飛び上がるほどに驚いた。


「お前ってホント、物を知らないんだな。金持ちのクセに」

「だな。まあ誰かが死体を運ばねぇと行けないから、強敵に挑むときは運び屋を雇ってから行くんだけどな。オレは行きたくねぇ」


 確かにライアンの言うとおり、一人で挑めば死体はそのまま放置されたままだ。そのまま何カ月も放置されればさすがに生き返る事は出来ないらしい。


「だからミカも俺らとパーティ組めば良いのにな」

「馬鹿だな。どのみち俺らに雫を買うだけの金があるわけ無いじゃねぇか。白金貨が必要なんだぞ」

「だなー」


 貧乏人はそのまま死んでおけと言うことか。

 どこの世界も似たようなものかも知れない。

 

          ◆


 それから一カ月ほど、ライアン達に出会う事なくギルドで淡々と依頼(クエスト)をこなしていた。皆、ほぼ毎日のようにギルドに通っていると言っていた割には意外と会わないようだ。海斗の朝が遅いのが原因かもしれないが。

 

 高級宿に宿泊しているため、寝心地は元の世界とあまり変わらないのだ。なので、毎日が日曜日のように寝坊しているのである。この世界では目覚まし時計も魔道具扱いなので買ってない。時計に銀貨50枚も払う気になれないのだ。


 あまりに会わないので、もしかしたら死んでやいないかと冷やかし半分で死亡者リストを眺めてみた。先日、生き返りの話しを聞いた際に死亡者リストがある事も教えてもらった。部屋の片隅すぎて今まで気がつかなかった。


 まさか本当に知っている名前が刻まれているとは思ってなかったので、その名前を見たときは心臓が止まるかと思った。


===============

搬入日:10/9

Name:ミカ

Caption:

 - 職業:魔術師

 - 所属:ギルド・ランソール

 - ギルドランクE

===============


 日付は一週間前のものだ。

 海斗の手が震える。


 一か月前に一度だけパーティを組んだ人間。

 この世界では、それだけの関係であれば何の感情移入も無いことであろう。

 

 だが元の世界で18年間生活してきて、友達はおろか友達の家族でさえも亡くなったという話しを聞いた事がなかった海斗にとって、これは衝撃だった。


 どうすれば良い?

 なんとかの雫を手に入れれば良いのか?

 頭の中がパニックだった。

 

 とりあえずギルドカウンターに行き、ライアンかサスケが来ていないか聞いてみた。


「現在はちょうど依頼(クエスト)に出ていますね。それほど時間の掛かるものでは無いでしょうから、夕方には戻ってくるでしょう」


 戻ってきたら海斗が待っている事を伝えるようお願いし、そのままギルド内の部屋の隅に座り込んだ。夕方までは未だ何時間もある。が、何もする気になれないのだ。

 

 ――白金貨。

 それをどうやって作れば良いのか。

 金貨1枚でさえ、手に入れるのは大変だ。それを100枚以上集めなければいけない。それもタイムリミット付きだ。2カ月を過ぎればギルドで保管できず処分されてしまう。無理を言って残してもらったところで、それだけ時間が経過していれば蘇生が出来ない場合があると聞いた。

 

 ダメだ。

 何も思いつかない。


 海斗は結局、ライアン達が戻ってくるまで座り込んだまま動けずにいた。


「よお海斗。どしたんだ、深刻な顔をして」

「ホントだよ、全く。突然呼び出したかと思えば、真っ青じゃねぇか」


 依頼(クエスト)から戻って来た二人に対し、すがるようにミカの話しをした。だが二人の反応は大きくなかった。


「何て言うかよぅ。その、ミカの事は残念なんだが……」


 やはりこの世界では常に死と隣り合わせだけあって、海斗とは感覚が全く異なるようだ。

 残念だ、の一言で済まされてしまう。

 それが常識なのだと。

 

 確かに、今ここで例の台車に乗せられた『誰か』が運び込まれたとしても、海斗の心は大きく動かないだろう。

 

 残念だ、の一言で済ますのだろう。

 もっと慎重に行かなければね、くらいの言葉が出るのかもしれない。


 別にミカに対して特別な感情がある訳でもない。たった二日間、行動を共にしただけなのだ。ここまで気にする方がおかしいのだ。


 結局はそのまま二人とも別れ、海斗は宿に戻った。

 特に何も考えられないまま布団に入り、目を閉じる。そして、頭の中に『フランベルド商会連合』の文字が浮かびあがった。

 

 ラダマンに連絡を取るのだ。

 そして、今使っているコボルトソードをレイチェルさんに高く買い取ってもらうのだ。

 

 回復機能付きの武器がなくなるのは痛手だが、幸いグリーンクレイもある事だし、もう一度作成する事はできるだろう。

 それよりも、神器並みの武器である事がバレてしまう事の方が痛い。

 

 だが、人の命よりも重いものでは無い。

 

 翌朝、ギルドに一番乗りした海斗は、御者付きの馬車を借りてコンラートに向かった。到着するやいなや『フランベルド商会連合コンラート支部』に行ってラダマンを呼び出してもらう。


「これはこれは海斗さま。よくお越しくださいました。先日は不在で失礼いたしました」


 支部長代理というのに、相変わらず丁寧な物腰だ。だがそんな事に関心している余裕は無かった。海斗は早速本題に入る。


「ま、まあとにかくおかけ下さい」


 あまりにも焦りすぎて立ったまま話しだした海斗を、ラダマンがやんわりと制した。着席を促され、そして勧められるままにお茶を飲み干し、ようやくひと息付く事ができた。


「よほど大切な方がお亡くなりになられたんでしょう。心中お察しいたします。私共も全力でサポートさせていただきます」

「ありがとうございます」

「ええっと、例のコボルトソードでしたよね。海斗さまがお使いになられている」

「はい、そうです」

「確かにレイチェル様も大層お喜びになられておりましたので、かなりのお値段が付く事は間違いないと思いますが、生命の雫となりますと、もしかすると難しいかもしれません」

「分かっています。でも彼女ならこの剣の真の値打ちを分かってもらえると確信しています」


 海斗の真剣な眼差しに、ラダマンは目を細めて頷いた。


「分かりました。それでは私のほうから一度連絡をとってみましょう。世界中を飛び回っておられる方ですから、直ぐに連絡が付かないかもしれません。海斗さまは一度お戻りになられてはいかがでしょうか。ご自宅までご連絡いたしますので」


 フランベルド商会連合のネットワークがあれば、魔道具を使って別の町までもすぐに連絡する事が可能だと言う。


「はい、お手数お掛けしてすみません。オレは『楓』という宿にいつも泊まってます。あ、昼間はギルドの依頼(クエスト)を受けているので不在にしているかもですが」

「承知しました。急いで彼女に連絡をとってみましょう」


 本当は依頼(クエスト)なんてしている気分ではなかったが、剣を売ってもカネが足りなかった場合に備え、少しでも貯めておかなければならない。

 

 宿についても、もっと安い場所に変えるべきだったと帰りの馬車のなかで気がついたが、既にラダマンに伝えた後だったのであきらめた。



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