第11話 修行してみる
村に着くまでの間に色々と無駄話しをしていたのだが、どうしても男3名での話題となると女の話しになってしまう。
「ライアンのツレがさぁ、女を買ったんよ。それで、俺もおこぼれに預かってさ」
「おいおい、勝手にしゃべるなよな」
「わははっ。いいじゃん。だいたいお前の方が乗り気で片っ端から知り合いに声を掛けてたじゃないか。皆もう知れ渡っているよ」
話を聞く限り、この二人は知り合いらしい。
海斗はもしかしてと思い、専属従者について聞いてみた。
「おおっ。お前あそこに行ったのか?」
「すげえな。俺は冷やかしでも入る勇気ないぞ」
「んで、どーしたんだ? ん? 俺にも遊ばせてくれよぉ」
まるでエロおやじである。
女は雇ってないというと、一気に場がしらけてしまったが。
「そうだ。今度三人で貯めた金で一人雇おうぜ!」
「賛成っ! でも俺ん家はダメだな。親がいるから」
「だーっ。俺だって両親居るぜ。海斗んとこは?」
「ん? いや、オレは家がないからな……」
「なんだそれ。家が無いってどういう事だよ」
海斗は仕方なく、エイベンを出て旅の途中である事と、毎日宿に泊まっている事を話した。
「まじかよ。やっぱカネ持ちだったんだな。そんなスキル付けてるし」
「だな。女もいつでも買えるってか! ぎゃはは」
もう訂正するのも面倒くさかったので、聞き流しておいた。
バハムート村に着くと、モンスターの場所を教えてもらい、依頼自体はすぐに解決した。青トロールは海斗がこの世界に召喚されて初めて出会ったモンスターだった。Eランク一人では多少手こずるらしいが、三人で連携してぼこぼこにしたので何の危険も無かった。
「じゃあな、海斗。また良かったら一緒にパーティ組もうぜ」
「ああ、そうだな。機会があったらな」
「女雇うときも声掛けてくれよぉ」
そんな感じで二人と別れた。もう夕方になっていたが、依頼を見るだけなら時間はあると思っていくつか確認してみた。
あの二人のように、家族で暮らしている分には今日の報酬だけでも十分なのだろう。稼ぎを家に入れてるのかどうか不明だが、たとえ半分家に入れたとしても、手元には銀貨10枚が残る。一週間同じように依頼をこなせば余裕で最低限の武器を買えるだけのおカネが溜まるのだ。
やはりグレンの家を出るのは早かったのか。
それとも贅沢を止めるか。
うーむ。どちらも嫌だ。
ならば依頼の質を上げるしかない。
海斗はDランク向けの依頼を受ける事にした。
だが、いきなり受けるのは危険すぎる。まずはギルドにてDランクが相手にするモンスターについて教えてもらい、実際に戦ってみる事だ。
翌日海斗はランソールの南側にある『シリの森』に来ていた。
徒歩で行ける場所でDランクが戦うようなモンスターが出る場所を教えてもらったのだ。
この森の最深部まで一人で行けるようなら、Dランクとして大丈夫だろうと言われた。
奥に行くほど強力なモンスターが出るらしいので、まずは入り口付近で戦ってみる。
早速エンカウントしたのは昨日戦った青トロールだった。運が良かった。相手の強さや攻撃方法などが分かる。といっても、単に持っている棍棒で殴りつけてくるだけなのだが。
海斗が剣を振りかざして距離を詰めようとしたところに、真横から突然飛びかかってくる物がいた。間一髪かわすと、一旦後ろに飛んで距離をとる。
横から飛びかかって来たのは、犬のような形をしたモンスター『シルバーウルフ』だった。良く見ると、もう一匹シルバーウルフが増えている。
3対1だ。
だが海斗には、昨日合成で強化したレザーアーマーがある。
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Name:レザーアーマー
Caption:防具
基本スキル:
特殊スキル:
- 強化5
- ダメージ吸収5
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未知の場所に挑むのなら、やはり防御面の強化が必要と思って片っ端から合成を行った結果、何やら結構いい感じのものが出来上がったのだ。実際の効果はわからないが、防具自体を強化して、更にダメージを吸収するのだ。役に立たないはずがない。
海斗は恐れずモンスター達に向かって行った。
「とりゃっ」
「てやっ」
「ふんぬぅ!」
「ぐはっ」
三方から攻撃を受けながらも、確実にモンスター達へ攻撃を叩き込み、何とか三体とも葬り去る事に成功した。それに加えて、ダメージについても剣に付与されている回復スキルで足りる程度のものだった。
つまり、この程度であればポーションの消費無しに狩り続ける事が出来るのだ。
やはり特殊スキルは役に立つ。
念のため、もう暫くの間、入り口付近を探索する事にした。
モンスターは、他にも色んな種類のものが出現した。熊の形をしたものや、木や植物の形をしたものまでバリエーションに飛んでいる。それに加え、ゴブリンやコボルトのような何処にでもいるモンスターまで出現する。
そしてドロップ品を整理してみると、レアな『するどい爪』が2個溜まっていた。『ゴブリンの爪』は腐るほどあるので、合成して魔石にしてしまえば、かなりの高値で売れるに違いない。
そうなのだ。
ランクをDに上げなくても海斗には有効な金策があった。
早速、衝撃波の魔石を2つ生成する。
そこで更にひらめいた。
コボルトソードが強化されたように、衝撃波スキルも強化できるのではないかと。
失敗するとなくなってしまう可能性があるので痛手にはなるのだが、逆に出来るかどうか試すには早い方がよい。
衝撃波の魔石を飲み込み、『スキル付与』と念じる。
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基本スキル:
- 衝撃波
- 衝撃波
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「だぁぁ」
失敗だ。二つになってしまった。単なる失敗ではなく、これはちとヤバイ。
誰が好き好んで同じスキルを二つも付けるんだ?という事だ。
カネが有り余っているならともかく。
スキルって消せないんだろうか?
そういえば、見えなくするアイテムが有るんだった。とにかく、それで誤魔化すしかない。
じゃなくて。
スキル合成をするつもりだったのだ。忘れてた。以前は一個しかなかったから試せなかったが、いよいよ試す時が来たのだ。
『合成』と念じて衝撃波を選択し、次にもう一方の衝撃波を選択する。
そして合成してみると……
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基本スキル:
- ウインドバリア
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おおっ。合成出来た。名前からすると、防御魔法になったように思えるが。
合成は失敗が多いから、使ってみるまでは何とも言えないのだ。
という事でモンスターを探してしばらく歩く。
青トロールが出現した。
ちょうど良い。こいつの攻撃を防ぐ事ができるのなら、とりあえずは使い物になる魔法だ。
のっしりと近づいてきたモンスターに向けて『ウインドバリア』と念じる。すると、モンスターの周りの空間が陽炎のようにモヤモヤと歪む。
これは、風だ。
何か使い方を間違えたようである。試しにモンスターを剣で切り付けてみると、風のバリアによって太刀筋がいなされてしまった。これは自分に向けて仕掛けるのが正解のようだ。
振り下ろされた棍棒をギリギリ避けてから少し距離をとり、今度は自分に向けて『ウインドバリア』と念じる。先ほどと同じような陽炎が自分の周りにまとわりつくのが分かった。
お互いバリアに守られた状態となったため膠着状態に陥ってしまった。効果が切れるのを待って剣で青トロールを仕留める。
使える事は使えるのだが、何か地味な魔法のようだ。まぁ護衛の仕事には役に立つのかもしれない。衝撃波が無いと攻撃面で心もとないので、金銭的には痛いが魔石を使って衝撃波スキルを付けておいた。
ウインドバリアに更に衝撃波を合成する事も試してみたいが、もうストックが無いので試すのは今度にするしかない。
新スキルを手に入れた海斗は調子に乗って少し内部へと進んでみた。
色々と見たこともないモンスターが出て来て変わった攻撃をしてくるものの、特に問題はない。魔法で攻撃してくる敵もいるが、それほど強敵では無かった。
やはり回復、防御、攻撃とそれぞれの手段が揃っていると一人でも何とかなるものだ。海斗はいつの間にかDランクの実力まで達していたのかも知れない。それもこれも全て合成スキルのお陰なのだが。
だが更に内部へと進んだ時、明らかにモンスターの強さがグンと増した。
「なんだコイツ!」
自分の体の5倍はあろうかという巨大なミミズのような化け物が現れた。
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Name:エンシェントワーム
Caption:モンスター
基本スキル:
- アースクエイク
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鑑定したが、ボスモンスターでは無かった。
ボス以外でこれだけ巨大な敵は初めてだ。
海斗が構えるより早く、モンスターの魔法がさく裂した。全身に鈍く浸透するような衝撃が走る。かなりの威力だ。
長期戦はマズイと判断し、魔力の出し惜しみをすることなく、全ての攻撃に衝撃波を乗せて叩き込む。
だが、その巨大な体はなかなか沈まない。
逆に大きな口を開けて海斗に噛みつこうとしてくる。慌ててウインドバリアを張って自分の身を守る。幸い、この敵であってもバリアは有効のようだ。
バリアが有効だと分かったため、もう一歩踏み込んで、より深くダメージを与えられそうな口の中に向けて衝撃波を叩き込む。すると明らかに先ほどよりは嫌そうな素振りが見られた。
チャンス!
海斗は剣を直接モンスターの口の中に差し込み『ダブル衝撃波』を発動する。剣に備わっている衝撃波スキルを発動し、それを更に海斗自身のスキルである衝撃波で飛ばす技だ。形がミミズなので何処から喉で何処からが食道なのかも分からないが、衝撃はかなり体の内部まで伝わったのではないだろうか。
モンスターが大きくのけ反り、苦痛の悲鳴を上げた。
だが残念ながら致命傷には至らなかったらしく、アースクエイクの反撃が飛んできた。再度、海斗の全身に鈍い痛みが走る。どうやらこの攻撃はウインドバリアで防ぐ事が出来ないらしい。
それとも、防いでいてなお、このダメージなのかもしれない。
このまま魔法で攻撃されると辛いので、一気にケリを付けるしかない。海斗はもう一度モンスターの正面に回り込み、口の中めがけてダブル衝撃波を叩き込んだ。
ようやく断末魔の叫び声をあげて巨大なミミズが沈み込む。まるでボスモンスターを倒したかのような感覚である。
「ちっ。ドロップは無しか」
これだけ苦労したのに、という思いから悪態を付く。
まだ森の最深部には程遠いと思われる。
やはりDランクの実力が付いたと思ったのは気のせいだったようだ。先は長い。
とはいうものの、全く太刀打ちできない敵ではない。修行するなら、この辺りが適切と言う事だ。海斗はしばらくは此処を狩場として過ごす事に決めた。
◆
『シリの森』に籠って一週間が経過したころ、海斗はスキルを隠ぺいするアイテム購入のためショップに来ていた。今後のスキル獲得に向けて、隠ぺいの手段を確保しておくためだ。
「あの、スキルを隠すアイテムってありますか?」
「スキルハイドの魔石ですね。ございます。いくつご用意いたしましょうか」
なんと一つ銀貨95枚もするらしい。先日頑張って購入したレザーアーマーよりも高い。
「と、とりあえず一つで」
聞いてしまった手前、買わないのも気まずいので思わず購入してしまう。
ついでだから回復魔法についても聞いてみる。
「現在当店で在庫がございますのは、こちらの『手当て』と『範囲回復』になりますね。更に上位のものをご所望でしたらお取り寄せ可能ですのでお申し付けください」
そう言って見せられた値札には、それぞれ銀貨220枚、540枚とあった。
……手がでない。『手当て』のほうだと何とか購入できるが、ほぼ一文無しになってしまう。
いや、これは自分への投資なのだ。回復手段があれば、さらなる奥地へと歩みを進める事ができる。
「ご購入ありがとうございます」
買ってしまった。
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基本スキル:
- 手当て
- ウインドバリア
- 衝撃波
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何となく強くなった気分だ。
これでDランクの依頼も受けやすくなることだろう。この投資は正解だったと思いたい。
海斗は早速ギルドにてDランク向けの依頼を探してみた。
今日は『相談可』の依頼があまり多く無いようだ。護衛、討伐、討伐、採取、討伐……。
候補を5つに絞り、その中で報酬の良いものを選んでカウンターに行く。
「ようっ!海斗。お前もこれからか? よかったらまた一緒に受けないか?」
前に一緒に依頼を行ったライアンだった。
相変わらず、二人一緒だ。
まぁ固定パーティならば、当たり前かもしれない。
「別に良いんだけど、オレって今からDランク向けの依頼を受けるんだよね」
「お前Dランクになったの?」
「いや、まだだけど『相談可』のやつな」
「なにぃ~ 抜け駆けしやがってずるいぞぉ」
サスケも「エリートぶりやがって」とかぶつぶつ文句を言っている。
と言っても、本心から嫌味を言ってるんではなく友達として軽いノリで茶化している感じなので特に嫌な感じはしないのだが。
そんなやりとりを聞いて、ギルドの受付嬢が提案してきた。
「あのぅ。もし一人当たりの報酬が少なくなって良いのであれば、後ろの方も一緒に依頼を受けていただいてもよろしいのですが」
「そうなの?」
「はい。Dランク2名で依頼者から仕事を承っておりますが、出来るだけ急いで出発したいと言われておりまして、場合によってはEランクでも問題ないそうです」
ライアンとサスケはお互いに顔を見合わせたが、報酬金額を見たとたん、すぐに「受ける、受ける」と即答した。こいつらは、たぶん依頼内容すら見ていないと思われる。
まぁコンラートまでの護衛なので、それほど危険があるとは思えない。少なくとも海斗にとっては。
「では、もう一人Eランクのメンバがパーティ待ちですので合流して準備いただけますでしょうか。依頼者もすぐに馬車に向かいますので」
本来はDランク2名の依頼だが、それをEランク4名で受けるということか。なら報酬は半分になるのだろう。まぁ仕方がない。




