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リボン隠れ鬼  作者: 作空うむき
5/20

2-後

 そして土曜日。駅に隣接されたファッションビルに来てみれば、夢達の他に意外な人物が参加していた。

「勝君これ似合うよ!」

「いやいや、似合うわけないだろ」

「そんな事ないってー。ほら結人君も!」

「えー」

 夢は自分と勝と古川結人ふるかわゆいとの頭に色とりどりの花があしらわれたカチューシャを付ける。そして鏡の前に引きずり込んで二人と腕を組んだ。

「えへへ、お揃いー」

 やり手だ。思わずぞっとする。

 本気を出した女子を初めて見た小助の脳内はパニックを起こす。だがこんなのはまだまだ序の口だろう。夢は現在小学生。数年後大人になればもっと凄いに違いない。最終的には玉の輿に乗り、ポメラニアンと一緒に毛皮や宝石に囲まれ高級住宅街に豪邸を建て女王様の様に暮らすのだ。

 勝手に夢の将来設計図を想像していると視界の端に小さな手が飛び出して来た。驚いて視線を下げればそこには友美が居て、尚も両手を伸ばしたままジッと小助を見つめてくる。

 漸くその意図に気付いた小助が腰を屈めると頭の上に乗せられたままだったティアラが取られ、今度は京香の頭に乗せられた。

 ーー女の子ってどうして女物を男に身に付けさせたがるんだろうーー

 アクセサリーショップに着く前、男子達は女子に散々弄ばれた。

 入る店、入る店、夢は気に入った服を手に取っては自分の体に当て、次に男子の中からターゲットを一人選び出しその服を当てた。最初はそんな夢を京香が叱っていたのだが、次第にテンションが上がって来たのだろう。「小助君似合うね!」と見事な裏切りを見せた。唯一友美だけが夢に便乗しながらも冷静に周囲を見てくれていたので、ここに来る間一度も店員に叱られる事はなかった。

 そんなこんなを経て漸くアクセサリーショップに来たのだが、ここでも変わらず男子は着せ替え人形。自分何しにここに来たんだっけと既に疲労困憊していると、少し離れた場所で身を寄せている女性店員達の話し声がこちらに届く。

「見て見て男の子ちっちゃい。小学生かな」

「きっとお誕生日会のプレゼント買いに来たんだよ」

「いや、いっちょまえにトリプルデートでしょ」

「やだー、かわいー!」

 怒られるよりは断然受け入れられている方が良いが、それにしたってその誤解は止めて欲しい。

 あぁ、やはり来るんじゃなかったと思い直していると服の裾を軽く引かれた。

 振り返れば友美がまた何かを持って来ている。

 また付けろと言われるのかと思ったが、赤くて小振りなリボンを見て本来の目的を思い出した。

「そういえばリボン買いに来たんだったよね」

「……忘れないで」

「ごめん。でもそれ良いね。男子でも買いやすそう」

 小振りなリボンは髪ゴムに付いていた。その見た目もさることながら、なにより値段がお手頃だった。三個で三百円、紅白二種類買えば六百円だが、割り勘しあえば小学生の小助達にも手が届く。正直駅横のファッションビルに行くと言われた時はそんなに高いリボンを買うのかと身構えてしまったが、こういう手頃な商品もある様だ。

 頷いた小助を見て、今度は夢達の所に持っていく。すると夢が「かわいー!」と言ったので多分それに決まるだろう。

 一見引っ込み思案で自分の意見がはっきり言えないタイプに見える友美だが、もしかしたらこのグループを支えているのは夢ではなく彼女なのかもしれない。

 そんな友美に感心しているとティアラを頭に乗せた京香が隣りに立った。ふわりと揺れる水色のワンピースと相まっていつもより女の子らしく感じる。それに学校ではジーパンにTシャツというラフな恰好しか見た事がないので、なんだか新鮮だった。

「トモって探し物上手なの。安くて可愛いの見つけてくれるから、夢なんか買い物に行く度にトモを連れ回しちゃって」

「でも佐藤さん楽しそうだよね。そういえばさっき俺もそれ渡された。服屋の時もそうだったけど意外とおちゃめなのかな」

「ソレ?」

 ソレ、と指すと京香が視線を上に上げ、一気に頬を染める。慌ててティアラを外すと引っ掛けて乱れた髪を手で直しながら取り繕う様に笑った。

「着けてもらったの忘れてた。ウチったら、なんかぶりっこみたいだったね」

「そう?似合ってたけど」

「ぶっ!!」

 盛大に吹き出した京香に驚いて肩が跳ねる。そんな小助を更に追いつめる様に京香が早口で捲し立てた。

「こっ小松君社交辞令上手ー! でもこういうのはユウの専売特許というかなんというか、って使い方合ってる? 大丈夫? まぁ、そういうわけだから無理して褒めなくても良いというか、あっでも嬉しかったのは確かだし似合わないって言われるよりかは似合ってるって言われた方が、なんというか、嬉しいというか、かんというかっ」

「……なんかごめん」

「べべべべべ別に小松君が謝る事じゃないからべべべ別にっ」

「うっ、うん。でも似合ってるのは嘘じゃないよ」

「むっむひゃー! なら買っちゃおうかなー!」

「うっうん」

 無責任だろうか。止めた方がいいのだろうか。だが今のテンションの京香をどう止めていいのか分からない。そうこうしている内に値札を見た京香の顔色がすっと元の色に戻った。

 ーー……そんなに高かったのかなーー

 気になって覗こうとすると京香が背を向けた。

「戻して来るね」

「……はい」

 聞かない方が良さそうだ。



 地下にあるハンバーガーショップでそれぞれ好きな物を注文して席に着く。すると他の席から小さく笑う声や「おませさんだ」といった声が聞こえた。

 それで気付いたのだが、小助達は今男女が向かいあって座っている。なので周りの客は小学生が背伸びをして合コン“ごっこ”をしていると思っているのだろう。少し前までの小助なら「断じて違う」と心の中で否定したが、小助は気付いてしまった。今日の主催者は夢。もしかしたらこれは“ごっこ”ではなく、最初から仕組まれた本物の合コンだったのかもしれない。

「勝君、これ絶対ぜーったい大事にするね!」

「おう、もう好きにしてくれ」

 絶対にそうだ。

 急激に渇いた喉を潤す為にジュースを飲むと京香が顔を真っ赤にして身を乗り出した。

「こここ小松君、ウチもこれ大事にするから!」

「うん。俺も大事にする」

「ほっ本当!?」

「うん」

 小助は素直に同意した。

 割り勘で買ったリボンは男女で交換しあった。提案した夢が率先して勝との交換を申し出たので、つまりそういう意図があるのだろう。

 ただ割り勘と言う方法をとったが為に予備のリボンはなく、必要最低限な数しかない。どちらか片方を無くせばゲームは追うか逃げるかのどちらかしか出来なくなるし、他の人に借りても良いが毎回では申し訳ないーーそもそも小助に貸してくれる人がいないーー。かといってもう買いに来るのは嫌だ。

 それになんだかんだいって今日は楽しかった。一人では到底出来ない経験も出来たし、対人関係に冷めていた小助も一気に人と関わる事の喜びを思い出して、実は今日一日テンションが高かった。思えば母が入院した小二の頃からまともに遊んでいないと思う。だから今日という日の記念品としても大切にしていこうと決意した所で、背中をバシンと叩かれた。なんだと見れば勝がニヤニヤした顔で小助を見ている。

「小松ってさ、案外キザっぽい事平気で言うよな」

「僕もびっくりー。良かったねー八重樫さん」

「ちょちょちょ、古川君止めてよ!」

 顔の赤みが引かない京香が早速腕に付けた白いリボンを弄った。

「俺そんなにキザっぽい?」

「なんだよ自覚なしかよ!ウケるー」

 勝はバシバシと容赦なく小助の背中を叩き続ける。こういうスキンシップは嬉しいが正直痛い。仕返しに楽太郎のアシスタントから学んだ方法で手を捻り上げれば、夢以外のメンバーが笑った。

 その後、主に夢が場を仕切って月曜日にやるリボン隠れ鬼の細かなルールが決まった。てっきりこの六人でやるのかと思っていたのだが、当日は他にも男子を二人入れて四人グループを二組作るのだという。

 世間話にも花を咲かせていると夢の携帯が鳴った。なにやら母親に「従姉妹が遊びに来てるけどどうする」と聞かれた様で、迷う事なく「帰る」と選択した夢に便乗してそのままお開きになった。京香と友美はこのまま遊んでいくそうなのだが、小助はもう充分だ。もう帰ろう、そう決めた時勝が勢い良く肩を組んで来た。

「小松ってさ、案外しゃべると面白いよな」

「そうかな。どうも?」

「なんで疑問系。でさ、俺らこの後結人の家に行くんだけど小松も来るか?結人が四人で出来る新しいゲーム買ったんだって」

「古川君の家?」

「うん。僕の弟も一緒で良ければ是非是非ー」

「うーん、そっかぁ……」

「あれ、来ねぇ?」

「いや、出来れば行きたいんだけど……実は俺、ゲームやった事ないんだ」

「は?」

「え?」

 ポカンと口を開けた二人に申し訳なくなる。

 ーー折角友達になれると思ったんだけど……ーー

 男同士の遊びでゲームが出来ないのは致命的だろう。これで同級生と遊べる機会はもうなくなったなと半ば諦めていると、顔を見合わせた二人がニタリと笑って小助の腕を引っ張った。

「え?え?」

「小松様ご案なーい」

「強制連行なりー」

「えぇっ!?」

 そのまま連行された小助は日が落ちるまでゲームの指南を受け、帰り際宿題だと言って小型のゲーム機を持たされた。

 画面の見過ぎでチカチカとする目を擦りながら家に帰ると炒飯にラーメンを作ってくれていた楽太郎が嬉しそうにクラッカーを鳴らす。

 その上炒飯には「祝・夜帰り」と訳の分からない事をケチャップで書いていて、それはこっそり楽太郎の炒飯に移動させた。

 家の事が漸く終わり怠い体を思い切りベッドに横たわらせると、自然と瞼が降りて来た。

 目まぐるしい一日だった。御陰でまた「今日は何しに出かけたんだっけ」と記憶が混乱する。

 だがそれを考える余裕はもうない。

 ーー今日はもう寝ようーー

 リモコンで部屋の電気を切る。明日も朝は早いのだ。何故なら勝達には明日も朝から遊ぼうと誘われているから。

 宿題と言われたゲームに電源を入れられなかったけれど、明日持っていって皆の側でやればいい。その方が分からなくなった時に直ぐ教えて貰える。

 その日は小学生になって初めて勉強をする事なく眠りについた。

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