トラッシュ
「なぁ、皆はおっぱいの何処を重視する?」
「俺は断然大きさだにゃははは」
「………形」
「OK、火狐、君は解っている。確かに、大きさは重要だ。だけど、僕はやっぱり形こそが大事だと思う。只単に大きいだけでは美しくない。バランスが大事なんだよ。ま、チェシャ猫の言う通り、大きいのは良いことだけどさ。ロリ巨乳とかも好きだし、僕」
「………ぐっど。形は大事。あと、ロリ巨乳は良い」
「かたちぃ? そんなの圧倒的な大きさの前では霞むぜぇ? なぁ毒鼠。あと、ロリ巨乳は最高」
「一理あるな。だが、私は大きさや形よりも、もっと大事な要素があると思う。あと、ロリ巨乳は素晴らしい」
「……何?」
「それは、感触っ! 形が良くても、大きくても、触り心地が悪いと全てが台無しになる。堅いおっぱいなんて嫌だろ? マシュマロの様なやわらかーい感触こそが至高なのだ!」
「……ああ、そうだな。お前のおっぱいは堅そうだよな。感触は重要だな。ありがとう、自ら示してくれて」
「にゃひひひひ! スンゲェ説得力ー!」
「…………納得」
「貴様ら表に出ろ」
「おー? おー! やるの? やるのかい? にゃっはー!」
「……ふふふ」
「ま、暇だし、いいか」
毒鼠が刀を持って立ちあがり、それに呼応する様にチェシャ猫と火狐、僕が一斉に刀を取る。
くだらないと言うレベルではない喧嘩だが、この後に行われるのは殺し合いだ。殆ど全力の。
まぁこのメンバーは皆実力が伯仲しているから、決着はつかないのだけれど。
だからと言って、手は抜かない。そこにある殺気は紛れもない本物だ。死とは日常の中に潜んでいるものなのだ、と格好良く言ってみる。これで死んだら格好着かないけど、どうでもいい。先の事は考えない。あと、ロリ巨乳は神。まぁ、僕は神様嫌いだけど、この存在に会えたら拝むね。神じゃなくてロリ巨乳の方を。ほら、やっぱり僕神様嫌いだから。誰が拝んでやるか。
毒鼠が怒りを持った眼で僕らを見つめ、チェシャ猫がニヤニヤ、にゃーにゃー、と笑い、火狐が不気味に笑って刀を鞘から抜き出した。
しかし、そのどうしようも無いくらいくだらない殺気が溢れる場に、突如、そぐわない気の抜けた柔らかい女性の声が飛んできた。
「みなさーん、ご飯ですよー」
途端、一斉に刀を置く僕達。あ、火狐。
「刀は鞘に仕舞えよ。危ねーから」
「……ごめん」
「ま、また喧嘩ですか……それより、夕飯出来ましたよ。席に着いて下さい」
「おー! 飯だ飯だ! にゃっほーい」
「……おなかへった」
「リーダー、今日のご飯なんだい?」
「レベル2の煮付けです」
「おー? レベル2が手に入ったの?」
「はい、今日は安かったんですよ」
「よっしゃ、よっしゃ、食おうぜー!」
終わっている僕達でも、食事はやっぱり大事だっだりする。
終わっている世界の、終わっている街。
その場所のとある地区で、終わっている僕らは、一つ屋根の上で一応仲睦ましく食卓を囲んでいた。
「リーダー、明日の予定は?」
僕が対面に座るリーダーに問う。
問われたリーダーは口にある肉をゆっくりと咀嚼した後、口を開く。
「えっと、12地区にレベル1が三体にレベル2が二体居るそうなので、その駆除の依頼が届いています」
「にゃーんだい、小物ばっかじゃねーか。もうちっと手応えがあるのがいいんだけどねぇー」
僕の隣に居るチェシャ猫が言う。つーかこいつ食い方汚い。テーブルにちょっと肉が飛んだぞ。口に物を入れながら喋んな。
「まぁ、仕方あるまい。私達の様な少人数で動いているものに、大口の依頼は来ないだろう」
「……少数団体の辛いところ」
対称的に比較的上品な食べ方をしている毒狐と、小さい口に少しずつ肉を運んでいる火狐。
僕はその様子を右目で見ながら、左目でリーダーのおっぱいを見ていた。ナイス僕。自然だぞ僕。
リーダーのおっぱいパネェ。マジパネェ。
「相変わらずでけぇな……」
「……なっ!」
あ、声に出てたか。迂闊。迂闊だぞ僕。
リーダーは僕のセクハラ行為に少し顔を赤くしながら、抗議の声を上げる。
くそ、腕で胸を隠してしまった。ちくしょう。
「食事の時ぐらい、そーゆー事言うのは止めて下さいっ。食べるのに集中して……もう無い!?」
「御馳走様でした」
「……早い」
「にゃひひひひ。少しは味わえよー」
「流石は野良犬。食い意地が張っているな」
「うっせえな毒鼠。今に始まった事じゃねーだろ」
そう、何も今に始まった事じゃない。
僕らが一緒の家で暮らしているのも。
僕の飯を食べる速度が早いのも。
チェシャ猫の食べ方が汚いのも。
リーダーのおっぱいがでかいのも。
妙に意気投合した僕らが『チーム』を組んでいるのも。
何もかも今更だ。改めて語る程じゃない。
いや、やっぱりリーダーのおっぱいについては語りたい! 四万字ぐらいで!
「そこんとこどう?」
「止めてください!」
駄目だった。
「つか、明日どうするー? ぶっちゃけ、レベル1三体とレベル2二体だったら、
全員で行く必要ねーだろー。俺一人で行くぜー」
食事が終わり、各々がそれぞれ勝手気侭に過ごしていると、ソファーの上で寝転がっているチェシャ猫が間延びしている声で、そう言った。
それに、椅子に座りながらペラペラと本を捲っていた毒鼠が、視線を本から外さないで答える。
「いや、全員で行く必要は無いだろうが、合計で五体居るのなら、その死体を『軍』に持って行くのが困難だろう。人手は必要だ」
「にゃはー、それもそうだにゃー。メンドくせぇ」
毒鼠の言う事は正しくその通りだ。
レベル1とレベル2が合わせて五体居る程度なら、別段全員で行く必要性は無い。
しかし、レベル1は重量70キロ、レベル2は110キロある(らしい)のだ。
持ち運び易い様に最終的には細切れにするのだが、『化け物』の死体は全部『軍』に持って行かなければ金にならない。だとすると、その総重量は430キロ。いくら身体能力のパラメーターがぶっ飛んでいる僕ら『終末』でも、それはちとキツイ。そもそも、僕らが普段振り回している刀は50キロ近くあるのだ。一人で行くのならば、結局は500キロ近くの重量を持ち運びする事になる。こりゃ無理だな。
「……じゃあ、ボクも行く」
「にゃっふー。OKだぜーい」
「……皆は?」
そこで、クッションの上で座りながら刀を布で磨いていた火狐が、顔をチェシャ猫の方に向けて言った。
そしてぐるりと顔を動かし、本を読んでいる毒鼠、レベル1をカラッと揚げたものを食しているリーダー、そのリーダーの食べっぷりを見て、あのおっぱいを育てるにはやっぱりエネルギーが大切なのか、と床に胡坐をかきながら物思いに耽っている僕、に向けて問うた。
毒鼠、リーダー、僕は、各々答える。特に異論は無い。
「了承した」
「わかりましたー」
「おっぱい」
迂闊。
「ま、またですかぁ!?」
「おい、野良犬、ちょっとは隠そうとしろ」
「うっさい毒鼠、お前こそその本はなんだ」
「『おっぱい大全~嗚呼、素晴らしきエデン~』だ。本屋の廃跡から偶然手に入ってな」
「ふざけんな後で貸せ」
「ちょっと待ってくれ、今良い所なんだ」
「にゃっふー! 次! 次俺な!」
「……その次、ボク」
「……はぁ、またですか……」
「ん? リーダーも読みたいのかい?」
「なんと、そんなモンを持っているのに……! 飽くなき探求心……!」
「読みたくないし、野良犬さん、違います!」
顔を赤らめて抗議するリーダーは、頭を抱えて溜息を吐いた。
「はぁ……私じゃこの人達は纏められないよ……」
「しっかりしてくれよ。リーダーだろ? このチーム、『トラッシュ』の」
僕が項垂れるリーダーにそう言うと、リーダーはガバっと勢い良く顔を僕に向けた。
「大体ですね! 私がこのチームのリーダーなのは……」
「おっぱいが大きいからさ」
「おっぱいの為だな」
「にゃははは! おっぱいだ!」
「……おっぱい」
リーダーがリーダーである理由なんて、これだけだ。だが、これが一番重要なのだ。
しかし、リーダーは終末では無く、普通の人間である。
だから、戦闘は行わず、依頼の受理やこの『トラッシュ』の食生活の世話などを任せている。
ある意味、チームの大黒柱だ。そう言う意味では、本当に『リーダー』なのかもしれない。
ま、基本的におっぱいだけどね!
リーダーは僕達の抜群のおっぱいコンビネーションに再び頭を抱え、「なんで私ここにいるんだろ……」と呟いた。
「そんな嫌なら、誘った時断れば良かったじゃん。そんな無理強いはしてないよ、僕達」
これは本当。
あの時、おっぱいで意気投合した僕達はチームを組んだが、その折に未だ茫然としていたおっぱいさん、つまり、リーダーを誘ったのだが、これが何故かOK。流石に少し考える素振りを見せてはいたが。
僕が問うと、リーダーは少し恥ずかしそうに言う。
「だ、だって、前の職場はお給料安かったんですよ……終末の人達と居られるのなら、美味しい物食べられるかなーって……」
極めてこの街の住人らしい言葉だ。
『終末』じゃなくても、身体能力が普通でも、根本的な部分で『終わっている』のだろう。それは、リーダーも。
それが、この街の普通。
異常は日常で、異質なんて言葉は既に意味を持た無い。
『お前、狂ってるよ』なんて言葉は、『お前、血液型A型っぽいな』程度のものでしかないのだ。
そんな『終わっている』世界で、僕達は生きている。何れ来る本当の『終わり』に目を背けながら。
そこで毒鼠がパタン、と本を閉じて立ちあがった。
その際に僕に本を投げる。やっほー! おっぱいだー!
「先、風呂貰うぞ。構わんな」
「あ、はい、大丈夫です」
「……良かったら、リーダーも一緒に入らないかい?」
「イヤです!」
「同性同士だと言うのにつれないな……」
「私、毒鼠さんを女の子として見れませんよ……」
うおおおおおお! この本すげぇええええええええええ!
おっぱい! 超おっぱい! ああああああああああああ!