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おっぱい

 やっぱり、おっぱいは素晴らしいと思うんだ。


 もし、この世に神様、もとい創造主が居たとしたら、おっぱいと言う、普遍的芸術的なラグナロクも真っ青なくらいの黄昏をもたらすエデンを作り上げた事は評価したい。

 あの美しいラインはどうやって考えたのだろうか。それを思うと、僕の神様に対する株価の上昇が止めどない。絶対神様は男だ。

 じゃなかったら、あんなエロい胸――つまり、『おっぱい』は造れない。

 神様、ありがとう。多分貴方が住んでいる所はさぞおっぱい天国なのでしょうね。僕はそこに行けますか? 無理ですかそうですかそうですよね。死ねよ。


 ここで言っておくが、僕は胸がしょんぼりとした女性、つまり貧乳な女性を馬鹿にする訳では無い。

 断じて無いのであるが、僕個人としては、やっぱり大きい方が良い。出来ればDカップ以上が望ましい。

 胸の大きさがその女性の人間的価値を決める訳ではないし、究極的に言ってしまえば、僕は『巨乳』が好きなのでは無く、『おっぱい』が好きなのだ。ただ、出来れば大きい方が良い、と言うだけ。


 僕は健全な十七歳だからして、この様な劣情を抱いてしまう事は仕方の無い事である。ええ、それはもう。おっぱいおっぱい。


 あーあ、何で僕はこんな季節感もへったくれもないところにいるんだろうな。この世界の女性達は須らく厚着だ。もうアレだ。夏が来い。そして透けろ。

 上着が透けてブラジャーが見える、と言うのは下手をしたらはっきりくっきり見えるよりもエロティックなのではなかろうか。

 いや、僕ははっきりくっきり女性のおっぱいを見た事がある訳ではないのだけど。


 何にしろ、僕の妄想力がバーン状態なのである。思春期なのである。


 中途半端に見える、と言う状況ならば、それはもう脳内CPUがフル稼働。そのあおりを受けて僕のムスコもフル稼働といった具合である。


 この年頃の男と言う生物は常に発情しているような物である。それだけが生きがいと言っても過言では無いと思う。

 しかし、流石にそれは顔には出さないし、勿論欲望に忠実な行為も犯さない。男だとか、年齢だとか、それ以前に人には理性と言うものがある。

 本能の儘に行動するのは獣のやる事だ。

 だから、人は本能を隠す。

 本能は表には出さない。人には、理性が、知性があるのだから。

 普通ならば。



 だけど。




「うひひひっヒーっひー! にゃ、にゃははははははー! よぉネェちゃああああん? 俺達と、イイ事しようぜええええ?」

「…………ふふふ」

「ひっ……や、やめ……」




 まぁ、狂っているんだろうな。この世界も。人も。僕も。


 いつからだろうか、この世界に化け物が現れたのは。

 いつからだろうか、この地が、この街が、化け物の発生源になったのは。

 いつからだろうか、この街を、化け物を出さない為に閉鎖したのは。

 いつからだろうか、この街の住人たちが、化け物に食われ、良いようにされ、やがて抗う様になったのは。

 

 行き場の無いの怒り。閉塞感と無力感。具体的な対策を何もしない政府。それでも襲いかかる化け物。


 だから、人は抗った。

 力をその身に宿した。

 武器を手にした。

 化け物に対抗した。


 そして、狂った。


 それだけの話。どうしようもないくらいにどうしようもない、終わってる話。







 


 そんな事よりおっぱいの話しようぜ!







 あーあー、嫌だ嫌だ。辛気臭くて終わりしか見えない話は嫌だ。

 だから、僕は逃げる。遠くの終わりより、近くのおっぱいだ。

 終わりが近くなったっら、その時はその時だ。

 今を刹那に生きろ。とりえあず狂っとけ。

 『話』はそれからだ。


「にゃ、にゃははははー! おっぱいだ、おっぱいだよ、これ! こんないいおっぱいは中々お目にかかれねーよ? にゃひひひひひ!」

「……ホントだね。ふふ、おっぱい……」

「誰かぁ……」



 さてどうしたものか。

 僕は何かヤバい薬を使ってるんじゃないかと言うぐらいにイッちゃってる二人組と、怯えに怯えてしまってるおっぱいさんを見る。


 

 ……助けるべきか。ここは天下の往来。周囲には人だっている。だが、特に関わる気はなさそうである。まぁ助ける義理も義務ないのだから当然だ。ここは無法地帯なのだ。ここは、と言うか、この街が。


 それに、あの二人組は見た事がある。

 にゃはは、にゃひひ、と笑う、背の高い猫背の金髪。

 不気味で暗い雰囲気の、背が低く前髪が長い赤髪。

 有名な、『終末』だ。


 終末。

 終わっている世界の、終わっている街で、終わっている人種。

 化け物と戦う、化け物。

 終わってしまった、人間。


 あのおっぱいさんを助けるなら、あの終末と戦わなければいかない。だから、周囲の人は見て見ぬふり。

 関わってしまうと面倒極まりない感じはある。


 僕は面倒事は嫌いだし、そもそも、正義感が強い訳ではない。

 と言うか僕に「正義感」と言うものがあるのかも果たして疑問ではあるし、僕と言う人間が正義を語るなんて、この世の正義の味方に申し訳が無さ過ぎる。居れば、の話であるが。


 しかし、あのおっぱいさんは、捨てがたい。


 僕基準のおっぱい戦闘力が1200をマークして、清楚な立ち振る舞いがモロに僕好みだ。髪も黒髪で、ますますタイプなのだが、いかんせんショートカットなのが頂けない。出来ればロングヘアーにして貰いたい。そのおっぱいで挟んで貰いたい。

 正直言って、あの二人組の気持ちも解からないでもない。あのおっぱいさんに目を付けるとは中々だ。流石有名な終末と言ったところか。


 んじゃ、あのおっぱいさんを助けますか。

 僕の気分は今や高潔な騎士。いや、ドンキホーテかもしれないけど、名目はどうでもいい。 


 今を刹那に生きろ。遠くは見るな。とりあえず狂っとけ。


 もしかしたら、僕は今日死ぬかもしれない。だが、『たかが』死ぬだけだ。それだけなのだ。


 

 それに、僕だって『終わっている』。

 勝算は無い訳では無い。




 何よりも、あのおねーさんとのフラグが立つかも知れないし。

 あのおっぱいが手に入るかも知れないのなら、多少面倒な事が起きても、下手したら死んだとしても、行動しない手は無い。善は急げだ。例えそれが偽善に塗れていたとしても、善には違いない。そしてあのおっぱいで挟んで貰うのだ。えへへへへ。




「おい、止めろ。お前ら!」


 そう声高だがに二人組に言ったのは、僕では無かった。いや、誰やねん。



「そのお姉さんを離せ」



 勢い良く啖呵を切ったのは、一人の少女だった。ブラウンの色で短めの髪に、勝ち気な瞳。キリッとした目鼻立ちで、素直に美人と言える女の子だった。 ……戦闘力たったの60か。ゴミだな。


 ああ、ごめん。おっぱいの話ね。僕、基本的におっぱいしか興味ないから。

 その少女の胸部はエレベストもかくや、と言わんばかりの断崖絶壁であるのだ。勿論、僕の食指は伸びない。


 僕の好みのタイプは、おっぱいが大きくて清楚な感じで黒髪ロングなおっぱいが大きい人なのだ。

 対する女の子は、おっぱいは小さいし特に清楚な感じはしないし髪は茶色し短いしおっぱいは小さい。


 何から何まで僕の守備範囲外である。

 こんな状況でお前は何を見ているんだ、と言う声が聞こえないでも無いが、僕はこういう状況でこそ、女の子のおっぱいを吟味する余裕を持った人間でありたいと思っている。異論は認めない。


 そんな風に見定められているとは露とも思って無いのだろう、その子は強く剛い瞳で、二人組を睨み付けて居る。

 と言うか、まさかこの終わっている街で正義の味方に会えるとは思っていなかった。絶滅したと思っていた。こんな世界でも未だ希望が残っているのかもしれない。


 女の子が口を開いて、言う。



「そのお姉さんのおっぱいは私のものだ! 男になんざやるものか!」



 ま、そんなもんだろうな。これは別に予想外でも何でもなかった。

 こんなもんだ。この街の住民は。

 突然所有宣言をされたおっぱいさんなんて、まだ何もされてないのにレイプ目になって「えへへー、こんな人ばっかりー」とか言っちゃってる。同情ぐらいはしてやろうか。


「にゃははははははー! おいおい嬢ちゃん、俺らとやろうってのかい? チェシャ猫だぜ、俺」

「……ボクは火狐」

「ふん、それがどうした。私は毒鼠だ」

「へー! へー、へー、嬢ちゃんが、あの! そりゃあ楽しそうだなぁ! 楽しくなってきたぞー。にゃひひひひひー」

「…………終末相手は、久しぶり」

「んじゃあ、ま、おっぱいを巡っての戦いと行こうかね!」

「望むところ!」

「……ふふふ」

「もうどうにでもなーれー」



 あー、カオスになってるなー。

 つか、あの少女も終末だったか。まぁ、『武器』も持っているし、結構終わっているもんな、あの子。性癖的な意味で。

 チェシャ猫。火狐。毒鼠。

 彼らは、すっかり目が濁ったお姉さんは蚊帳の外に、それぞれが持っている得物に手を掛けた。


 チェシャ猫は日本刀を。

 火狐は日本刀を。

 毒鼠は日本刀を。


 うん、この街の武器は日本刀しかないんだ。正確に言えば、日本刀を模した対化け物用の武器。

 対化け物用と言っても、その力は人間にも、終末にも届く。 

 刀を構える彼ら。二人組の方は、毒鼠にその切っ先を向け、毒鼠は二人同時に来られてもいい様に、油断なく二人を見つめている。

 そして、何の合図も無く、純粋で、または不純な、殺し合いが始まろうとしていた。


 しかし。


「せっかくだ。僕も混ぜてくれよ」


 そう格好良く言って、三人の前に姿を現した格好良い人は、日本刀を格好良く掲げた。まぁ僕だ。

 流石にそろそろ僕も動いていおかないと、僕は只のモノローグを垂れ流す人になってしまうからね。

 そして、彼らと僕の視線がかち合う。途端、チェシャ猫がニヤッと笑った。


「おいおいおいおいおい! 今日はラッキーデイか? おっぱいネェちゃんに、毒鼠、おまけに『野良犬』! これは神様の思し召しかにゃははは! 死ねよ」

「……野良犬。……噂には聞いてる」

「へー、そうかい。僕も有名になったねぇ」

「貴方が野良犬か。……名前通り、汚らしい毛並みだな。頭に乗っているのは雑巾かい? 学校の廊下でも拭いといてくれ」

「雑巾じゃねーよ、染めてるんだよ。つーか、お前みたいなおっぱい無い星人なんてどうでもいい。猫も狐もどうでもいい。用があるのはそこのおっぱいさんだ」

「へ……私、ですか……?」


 おっぱいさんは、突然の展開の嵐で目のハイライトがすっかり消えていたのだが、僕に用があると言われ、その瞳に光を戻した。

 ――もしかしたら、助けてくれるのだろうか。

 なんて、心情がありありと浮かんでいたが、残念。正確に言えば、僕は貴女のおっぱいに用があるのです。


 僕はおっぱいさんに向かって、元気良く言い放った。


「揉ませて下さいっ」

「……は?」

「だから、おっぱいを揉ませて下さいっ!」

「……もぅヤだぁ……」

「つーか、近くで見るとスゲェ良いおっぱい! 是非生で見たいんですけどそこんとこどうでしょう?」

「にゃひひひひひー! おいおい野良犬っ、お前、イイ趣味してんな! 全く持って良いおっぱいだよなぁ!」

「…………同感」

「ふむぅ。貴方たちとは、中々話が合うかもしれんな。だが、あのおっぱいは譲らんぞ?」

「それは僕だって。ここで命を懸けるべきだと僕は踏んだね」

「にゃはははは! 野良犬の命懸けかいっ。それはそれはそれは楽しそうだぁ!」

「……ふふふふふ。月明かりに刀身が照らされて、綺麗だ。血で塗らせば、もっと輝くかなぁ……」

「……ではっ」



「ばっさりイクぜぇええええええ!」

「……煌け」

「推して参るっ!」

「噛み千切る……!」



 チェシャ猫が。

 火狐が。

 毒鼠が。

 僕、こと野良犬が。


 前向上を述べながら、狂った様に突っ込んで、狂った様に斬り合い、狂った様に嗤う。

 異常も異常。異質も異質。狂人も狂人。

 化け物とでは無く、人間同士で戦うなんて、愚の骨頂どころでは無い。

 でも、これがこの街の日常。

 どこまでも狂っていて、どこまでも終わっている僕ら。

 そんなもんなんだ。今までも、多分、これからも。


「うううう……神様なんて、大っっっっ嫌い!」


 それはこの街の皆がそう思っているよ、おっぱいさん。




 





 ――――それから半年後。



「なぁ、僕らって、つくづく馬鹿な出会い方をしたよな」

「にゃひひひひひー! 今更ー!」

「…………でも、正しく」

「何だかんだでもう半年、か」

「って言うか、何で私まで……」

「そりゃ、おっぱい要員だ」

「にゃはははははー! それも今更ー!」

「…………おっぱい」

「うむ! やはり良いおっぱいだ!」

「……私、神様に会ったら絶対ぶん殴ってやるんだぁ……」


 それはこの街の皆がそう思っているよ、『リーダー』




「もー嫌ああああああああ!」



 これは、一つの終わっている話。

 終わっている僕らの終わっている話。

 結末なんて、誰も知らない。だって、もう終わっているんだから。

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