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2−2. 乱暴な奴パート2

「手前、女の癖に俺に逆らうってのか!?」

「口だけのお猿さんに怯む女などおりませんよ。さあ、かかって来なさい」

「ブスがっ!」


 扉から半ば近寄っていたアーバスノット子爵子息はどたばたと音を立てて走り込んで来た。メアリは右手に持つティーカップを右から左にすいっと払った。つまり、お茶を男の顔の前にばら撒いた。普通ならそこまでの勢いで飛ぶ筈が無いが、ここはもちろん水魔法で飛ばしている。そして本来ならティーカップも飛んで行くところだが、万一の弁償が嫌なメアリは一部のお茶をティーカップの中に残して操作し、お皿にカップを張り付かせている。


 両手剣で両手が塞がっている男は、なす術もなく目を含む顔面に熱いお茶を浴びた。

「ギャアッ!手前、何しやがる!」

男は思わず剣から手を放して顔面を両手で覆った。


 すかさずメアリは両手の茶器を床に置き、右に一歩ステップした後、後ろ回転しながらジャンプした。くるりと一回転した後、右膝で男の側頭部を強打した。

「ガッ」

男は昏倒した。


「メアリ…飛び後ろ回し膝蹴りなんて言う、言葉にするのも面倒な技を決める君って何者?普通当たらないよ?」

(当たる以前にこのジャンプで一回転出来る訳が無い。水魔法で体内の水分を操作してジャンプして当てたんだから。って話せないし)


 そういう訳でメアリは煙に巻く事にした。

「実は幼少時にスケートの指導を受ける事があって、4回転ルッツをいきなり教えられたんです」

「いや、初心者はそもそもジャンプ出来ないだろ」

「もちろんです。半回転して顔面を鼻から氷に叩きつけられて、その影響で目が小さくなってしまったんです」

「いや、鼻を打って目が小さくなるメカニズムが分からないよ」

「乙女はデリケートなのです。とは言えそんな事より、護衛を呼んでください。気を失っている内に縛り上げないと」

「それもそうだ。おいっ、誰か来てくれ!不審者が入り込んだ!」


 メアリは落ちている両手剣を両手で持ち上げようとしたが、重くて絨毯を引き裂きそうだった。何とか賊から離して、メアリから見て賊の反対側、扉とマーティン・クラレンスの間に切っ先を置いて、賊の方に顔を向けながら横目で開いた扉を見ていた。


 どたどたと音を立てて見た事がある護衛が入って来た。

「賊が入り込んだ。縛り上げてくれ」

そうマーティンが言うが、護衛は片手剣を抜いてマーティンの方に歩き出した。

(ほら、ね)

メアリは両手剣の切っ先を床から離して、ぐる~んと男の方に回した。


 男のハーフブーツにその両手剣が衝突し、男は倒れこんだ。そして顔をまともに床に叩きつけた。

「ぶっ」

男はマーティンだけ見ていてメアリを見ていなかった。もちろん賊も一瞥しただけで、賊が動くかどうかなど全く見ていなかった。


 倒れこんだ男の上から、メアリは肘を男の首に向けて倒れこんだ。

「ぐっ」

一息漏らして男は気絶した。

「メアリ?」

マーティンは訳が分からず一言メアリに尋ねた?

「何をしているんだい?」

メアリは立ち上がって溜息を吐いた。

「呼んでから来るのが早すぎました。片手剣を抜いた段階で暗殺者の仲間と判断しました。さあ、今度こそもっと大声で護衛を呼んでください」

「う、うん。分かった。おいっ、不審者だ!縄を持って来てくれ!」


 集まって来た護衛は気絶した二人を縄で縛り上げ、応接室へ運んで行った。後からやって来た老執事のエドガーは、マーティンではなくメアリに尋ねた。

「何があったのです?」

「私がティーカップにお茶を注いでいる時に、最初の賊がやって来ました。両手剣を持っていましたので、お茶をかけたら防ぐ事が出来ず、剣を手放して顔を覆った段階で回し蹴りで気絶させました。旦那様が人を呼ぶと、すぐにやって来た護衛の男が片手剣を抜いて旦那様に向かって行ったので、賊の仲間と判断して、両手剣で足を引っかけて倒し、首の裏を肘で叩いて気絶させました」

執事はマーティンを見た。

「メアリの言う通りだよ。ただ、一瞬の事で私には賊の仲間かどうか分からなかったんだ」

「危機感の有無による差ですね。メアリさん、よくやってくれました」

「いえ、茶器も旦那様も無事で何よりでした」


 執事はメアリの心配事を正確に察して言った。

「旦那様をお守りする上で設備に損害があってもあなたに責任は問いません。心置きなく賊を叩いてください」

「お言葉ですが、出来ましたら護衛の充実をお願いしたいです」

「そうは言っても、現在の我が家では中々人を集められないのですよ」

「そこはご母堂様の縁者を頼っては如何でしょうか?」

「そうは言っても、旦那様の兄君と先代の件でご迷惑をおかけしております故」

難しい、はさすがに執事も口に出せなかった。

「むしろ、これを機に下げるべき頭を下げて協力を仰いだ方が、仲直りが出来て良いのでは?」

「なるほど、そこは下げるべき頭の誠意次第でしょうね」


 ここでマーティンが口を挟んだ。

「君達、人の頭だと思って軽く言ってない?」

執事は一応丁寧な言葉遣いはした。

「旦那様、確かに孤立無援な状態では現状維持も難しいと考えます。一度伯父上様を頼ってみては如何でしょうか」

これにメアリも続いた。

「何より大切な旦那様のお命がかかっております故」

「あーっ、分かったよ。二人の愛ある提案だから、この件が片付いたら伯父上にお願いに行ってみるよ」

(愛じゃない。暗殺して逃げる算段をする上で、ランダムに現れる暗殺者は邪魔なんだ)

メアリは心の中で言い訳をした。

 お茶をぶっかけるには自分が走っていくより相手が走って来た方が良い(お茶の飛距離的に)。そういう計算でメアリは挑発しています。

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