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1−6. 後始末 (1)

 メアリことマリエルは、土日については実家のタウンハウスに帰るという名目で魔法学院の寮に外泊許可を得ている。だからこの土曜の夜はクラレンス侯爵家のタウンハウスのメイドの部屋に泊った。


 目覚めると、浴室で汗を流せと命令された。

(いや、私はボイル子爵やらスペンサー伯爵やらとの交渉に出席する訳がないから、今朝になって綺麗にする理由はないんだけど!?)

そして昨日より綺麗な服を渡された。着替えると執事のエドガーに呼び出された。


「メアリさんには交渉の場に立ち会う侍従・侍女の端で立ち会っていただきます」

「まだメイドになりたてで、その様な席での振る舞い方を覚えていませんが」

「立って話を聞いているだけで構いません。顛末が分からないと、もしかすると先方からあなたに報復があるかどうか分からないでしょう?」

(そう、実行犯を取り押さえた使用人の一人だから、貴族からの報復は可能性としてあるんだけれど)


 メアリの躊躇を心配と受け取った執事は言った。

「大丈夫、旦那様の隣に控える侍従は護衛も兼ねています。あなたが旦那様を守る必要はありませんよ」

「…その心配はしておりません」

「次はお願いしますね」

(下女上がりのメイドに護衛を任せちゃ駄目だろう…)

外見はやり手に見える執事の言葉に、メアリは落胆した。

(この家、まともな人間はいないのか…)


 もちろん、先にやって来たのはボイル子爵夫妻だった。

「この度はうちの娘がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いずれにせよ、本件の後始末はスペンサー家も含めて検討させていただきます」

マーティン・クラレンスは大分貫禄が足りないが、侯爵家当主の対面を保てる程度にはしっかり話した。メアリの前での緩み切った顔に比べればマシ、程度かもしれない。


 後から来たスペンサー伯爵夫妻は、第三者加害者寄り程度の姿勢だった。

「ボイル家の令嬢の粗相については遺憾に思います」

ささやかな謝罪をした夫に対して、夫人は堂々としたものだった。

「ここしばらく続いていた怨恨の後始末が出来る様、しっかりした話し合いをいたしましょう」

しっかりクラレンス家にも責任がある点を指摘していた。


「それではまず、問題を起こした張本人に証言をしてもらいます」

執事の指示でドーラ・ボイルが連れて来られた。ここでスペンサー夫人が先制攻撃を行った。

「子爵家令嬢を罪人の様に縛るとは何事ですか!?すぐに解きなさい!」

彼女は護衛に向かって命令したが、マーティンが指示を上書きした。

「侯爵家当主暗殺を行った罪人ですから縛らない訳にはいかない。ボイル子爵が知らぬ存ぜぬと言えばすぐに切り捨てるべき存在だから。ここはボイル子爵夫妻の認定が必用だったが、スペンサー夫人の証言でドーラ・クラレンス本人である事を認定されたと考えてよろしいか?」

マーティンはボイル子爵夫妻に顔を向けていた。

「ドーラ本人である事に間違いありません」

ボイル子爵が答えた。


「それでは、君視点で君の行った事を証言してくれ」

マーティンの指示に従い、ドーラは話し出した。

「私、ドーラはクラレンス家の護衛、侍女の手引きによりクラレンス家に侵入し、クラレンス家当主を短剣で暗殺しようとしました」

「殺意を持っていた事は間違いないか?」

「間違いありません」


 ここでスペンサー夫人が割り込んだ。

「ああ、ドーラ!捨てられた挙句に、嘘を吐いて賠償を狙う女扱いされて死に追いやられた妹の気持ちを思えば、何かせずにはいられなかったのでしょう!全ては原因となった男が悪いのよ!」

侯爵家の名を出さずに侯爵家を批判する、中々上手い話し方だった。


 しかし、メアリはかえってこの女に対する嫌悪感を強めた。

(芝居臭い大袈裟な喋りで場の雰囲気を持って行こうとする扇動家、舌先三寸で自分が利益を得ようとする女狐、暗闇で出会ったら確実にアイスランスで仕留めてやる)


「当日は凶行に及んだ彼女を私と使用人が見ている。本人も殺人未遂であった事を認めている。その上でボイル家としてはどう弁明するかを聞かせて欲しい」

マーティンの言葉にボイル子爵は口を開いた。

「弁明はございません。当家としても娘の行為は許容出来るものではありません。ドーラの処分についてはクラレンス侯爵家に一任いたします」


 ここはまた女狐が舞台に上がった。勝手に。

「元々はドーラの妹ステファニーが無念の死を迎えたのが原因でしょう!処分?あなた達には人の心というものが無いのですか!?」

(復讐はした、でも失敗した。それでも殺人未遂という罪はある。ノーマン・クラレンスという屑が責任から逃げた事を非難しながら、殺人未遂の責任は取らないというのでは不公平だろ)

メアリは思った。自分なら失敗しても罪として死を迎え入れる覚悟はあると。


 マーティンは女狐の言葉に自分を失う事はなかった。

「それでも、罪に問わないという選択肢は無いですよ。ノーマン・クラレンスがボイル家次女の妊娠に関係したかどうかは本人の証言が無い以上確証が無いが、今回は目撃者も本人の証言もあるのだから」

「ノーマンの証言については身内であるあなた達に責任があるでしょう!?自分達の努力を怠っているのを棚にあげて責任を回避するのですか!?」

「それなら、もしクラレンス家がボイル家長女を処分しないとするなら、あなた方が責任を持って再発防止出来るとでも言うのですか?」

「ええ!我々は無責任ではありませんから」

「明確に再発を防止する対策が発表されないなら、口だけの無責任貴族と言えますが?」

「もちろん、明確に再発防止しますとも!ドーラは我々が責任を持って、最果ての修道院に入れて外には出しませんとも!」

「騒ぎを起こした責任を、先代クラレンス家当主は引退する事で取りましたが?」

「ええ!同等の責任は取りますとも!スペンサー家当主とボイル家当主は引退届けを出し、息子に爵位を譲りますとも!」

(なるほど、ノーマンはこの国にもういない。ドーラも修道院入りで排除する。各家の当主は責任を取って引退する。クラレンス家に倣った公平な処分だ)

スペンサー夫人の猿芝居をメアリは心底嫌ったが、落としどころには落としたとは思った。


 三家の間で覚書きが書かれ、それぞれが持ち帰る事になった。ドーラはスペンサー伯爵夫妻が連れて帰った。

 ある意味、貴族夫人ぽいとは思うのですが。それだけにメアリとしては鼻につく訳で。

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