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1−4. 侯爵家の夜 (4)

 聞き取りを進めると、メイドの一人が見知らぬ下女が見知らぬ女を連れて歩いていたと証言した。侍女の一人は下女と見知らぬ女が階段を上がって行くのを見たと証言した。


 しかし、通り道の近くにいた筈の厨房の人間と、メイドの寝室近辺で物音を聞いた人間は出てこなかった。


 通用門、それは厨房近くの倉庫への食料の入り口であり、一方、メイドが自室から正門を通らずに出入り出来る様に設けられている。だから、その二か所から複数の証言が出ない事は不審だった。


「厨房とメイドの寝室付近で物音を聞いた者がいないのも、彼等が嘘を吐いていると思わせるよな」

「そこはズルをしましたから。偽証出来ない様にしたんです」

マーティンは驚いた顔をした。聞き取りメンバーにいた老執事も疑いの眼差しでメアリを見た。


 執事が口を開いた。

「どういう事です?」

「意味のある証言をした者は拘束して部屋に帰さない様に頼んだのがそれです。偽証する様に頼まれた人物は、これで偽証が危険な事である事を知ります。そうして偽証を抑えたんです」

当主も不安な顔をした。

「それじゃあ、共犯の者が残ってしまうじゃないか」

「まず、私と彼等とどちらが不審かを示す事が重要でしたから、それを優先しました。どちらがシロか明示する事は、推理上有効だと考えましたので。また、偽証をする予定だった者は、簡単に共犯者を切りました。つまり、深入りしていない人物なんです。疑われた4人が実は真の犯人は誰、と言い、その人物が共通でしたら真犯人か、偽証を頼まれただけの人物かどちらかですから、その時に調べれば良いだけです」


 各人に部屋から出ない様に指示したと言うが、トイレに行くと称して何らかの連絡は取れる筈だ。裏の関係がある者達なら特に、前以って準備はしているだろう。その連絡が取れなければ、当然目立った行動は取りにくい筈だ。


 これに対して執事が口を開いた。

「4人共、そういう人物を指摘しなかったらどうするのです?」

(自分で考えなさいよ、大人なんだから)

メアリはそう思ったが、疑われない様に発言しないといけない。隠し事をしていると思われてはいけないのだ。

「そうしたら、4人の最近の生活を調査するんですね。そして彼等の実家と推薦者に問責の書面を送る事です。言い訳をしない様なら責任を追求し、言い訳をする様なら裏を取れば良いだけです。そうして4人をクビにすれば、偽証をする予定だった人間は、今後はもっと慎重になるでしょう。いずれにせよ、今日、新しい下女が来る事を事前に知っていた者が手引きをした事は確かです」


 これに大してマーティンが質問して来た。

「今日襲ってきたのは偶然という可能性はないのかい?」

「昨晩は夜間に二階には何人いましたか?」

「僕一人だ」

「なら、昨晩襲った方が良かった筈です。邪魔が絶対入らないのですから。今日にしたのは、手引きをした罪を私に押し付ける為ですよ。今日なら私の味方は一人もいないから、四人かそれ以上の証言で押し切れます」


 また執事は質問してきた。

「それで、そのあなたが今日から来ることを知っていた五人目の共犯者をどうやって炙り出すんです?」

「まだ証言していないのはメイド長、侍女長、侍従長…は執事の方ですか。その方々となりますが、メイド長が五人目を知っているでしょう。こう質問すれば良いんです。

『上司の指示で二階の掃除をしていた下女が犯人を取り押さえました。お手柄ですが、誰がその掃除の指示を出したのですか?』」


 マーティンはピンと来ない様だった。

「それに対してどう反応すると思うんだい?」

「普通は、今日から入った下女には『二階は当主一家の住処だから指示なく上がるな』と指示する筈です。それなのに下女を一人で二階に上がらせる、この事が不審ですから、メイド長はその質問が叱責の意味と分かります。自分の立場を守る為に、誰に下女に指示する様に依頼したかを正直に答えてくれますよ」

これに対して、執事が答えた。

「そうですね。その質問は私がしましょう。旦那様は演技が上手とは言えませんから」


 メイド長のポーラが事前に今日来る下女の仕事の割り振りを依頼していたのは、副メイド長だった。メイド長、侯爵閣下、執事が首を揃えている状態でメイド長から叱責された副メイド長は、偽証を続ける事は出来なかった。

「申し訳ありません!従わなければ家族に手を出すと脅されて、仕方が無く協力したのです」

泣き出した副メイド長に、それでも執事は容赦なく聞き取りを続けた。

「それで、誰に何を要求されたのです?」

「侍女のルイーズ様に呼び出された先に護衛のサイモン様がいて、メイドと下女の夜間のスケジュールを教えろと言われたんです。断ると家族に危害を加えると言われて情報を伝えました。新しい下女が夜に来ると知らせると、家内の貴族の顔を覚える前に二階に上がらせて、通行人を見逃させて共犯に仕立て上げると言われたんです」

「その通行人が何をするかは聞いていたのですか?」

「申し訳ありません!私も話を聞かされたから共犯だ、と言われて、証言を偽るしかありませんでした」


「ルイーズとサイモンは偽証もしているから、まあ共犯なんだろうね…」

マーティンの言葉に執事は応えた。

「では、5人を拘束して実家と推薦人に問責の手紙を出す、と言う事でよろしいですか?」

「そうだね。でも、副メイド長の家族には交代で護衛を付けよう」

「ボイル子爵家はそこまでしますか?」

「家族は関係ないと言っていたけど、口だけの可能性はあるし、自棄になって恨みをばら撒く可能性もある」

「原因は我が家でございますからね」


「さて、メアリは他に考えている事はあるかい」

(個人的にはもう問題はないけれど、一応言う事は言うか)

「下女が二階に上がるのに誰も止めないくらい人手が足りない上、ここで5人も減るのですから、使用人を増やす事をお勧めします」


 マーティンも執事も瞳を閉じて溜息を吐いた。そして執事が口を開いた。

「なるべく人を増やす様にしているのですが、こういう状況ですから人を選ぶ必要がありまして。努力はしているのですが、改善には時間がかかると思いますね」


「それで、メアリをお茶汲みメイドにしようと思うのだけれど、服を支給してあげられないかな?」

(それ、本気だったんだ。もう聞き取りが終われば必用ないじゃない)

すると執事がメアリを見ながら言った。

「下女でないとすると我が家を出入りする時も身だしなみを整えてもらいたいですね。ポーラ、次のメアリさんの出勤日は何時です?」

「土曜と聞いています。それまでに準備いたします」

(いいの?止めてよ!?メイド長!)


 そこにマーティンが緩んだ笑顔で話した。

「うん、じゃあメアリ、土曜からはメイドとしてよろしくね」

一瞬メアリは瞑目してしまったが、使用人らしく腰を折って挨拶した。

「お引き立ていただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

(下女なら隠れて襲って逃げる事も出来るけど…メイドとして顔を合わせるとなると、却って殺りにくいと思うなぁ…)

 もう少しこのエピソードが続きます。

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