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5−2. 公爵家の花見会に向けて

 日曜の朝食にはマリエルは顔を出さなかった。そして昼前には学院に戻った。リズリー家はもうマリエルの心のある場所ではなくなっていたのだ。


 そしてもちろん、魔法学院もマリエルの居場所では無い。灰色の学院生活を二日過ごし、火曜の晩がやって来た。メイドのメアリとして暗殺の為にクラレンス家で過ごす時間だけが、マリエルが生きていると言える時間だった。


 そのクラレンス家の夜、マーティン・クラレンスにお茶を淹れたメアリことマリエルに、マーティンが告げた。

「今度の週末にはハミルトン公爵の花見の会に呼ばれていてね。この間の庭園行きが出来なかったから、それにメアリも同行してもらおうと思ってる。それで、春らしい侍女服を用意したから、合わせてみてくれ」


(自家で侍女のフリをするならともかく、他家に侍女の教育を受けてない者を連れてっちゃ駄目だろ。一般論的に。しかも私は身分を隠しているんだ。知っている学生でもいたらどうしてくれるんだよ!)

「旦那様、格上の公爵家に呼ばれて、侍女どころかメイド教育すら終わっていない使用人を連れて行くのは流石に不味いです。粗相をしたら使用人の首だけでは足りません」

「メアリなら大丈夫だよ。怒らなければ他の侍女よりよっぽど姿勢が良いんだから」


 反論しようとするメアリだったが、扉が開いて入って来たメイドがメアリを階下に連れて行った。

「あの、旦那様から公爵家に同行する様に命じられたのですが、さすがに無理ですよね?」

メアリの疑問に先輩メイドは言った。

「当日はしっかりみだしなみを整えてあげるから大丈夫よ。公爵家の庭園を楽しんで来なさいな」

(駄目だ、この家。執事のエドガーが締めてくれないとどうにもならない)

執事はどうやら裏の情報収集に忙しく、家内を締められていない。メイドの事などは本来女主人が締める事だが、何せマーティンの母親は先代と一緒に領地に行っている。どう見ても問題のある先代を放っておけないのだ。それは愛情からではなく、領地をかき回されない様に対策を取るまで先代から目を離せないのだろう。


 クラレンス家では侍女は臙脂系の色を使い、メイドは紺色の色を使って服をまとめている。それに対して今回用意されたのは濃緑色だった。

(春だから緑か。さすがに若草色は侍女には着せられないから、渋めの濃緑か)

マーティンなら若草色くらい選びそうだが、止めてくれたのは侍女長かメイド長か。とりあえずトップ(マーティン除く)はまともな者が揃っていると感じてメアリは安堵した。


 その濃緑の侍女服を着て再度書斎に入ると、マーティンは満面の笑みを浮かべた。

「うん。メアリなら何を着ても綺麗に見えるね」

(こいつ、本当に目が付いてるのかよ。年中不機嫌な女が綺麗に見えるって、目が悪いか趣味が悪いかどっちかだぞ)

メアリは姉の無残な最期の姿を見てから笑った事が無い。周囲を不愉快にしている自覚はある。


「お褒めいただきありがとうございます。先方のお客様もそう思っていただければ良いのですが」

「美人は何を着たって綺麗に見えるから大丈夫だよ」

(そんな訳あるか。似合う似合わないは人それぞれにある)

メアリは改めてマーティンが色々ものを知らない事を痛感した。


「さあ、じゃあ新しい服を着た美少女とお茶をご一緒する栄誉を僕に与えておくれ」

(駄目だろ、週末に着て行く服をここで汚しちゃ)

「旦那様、せっかく新調した侍女服をここで汚しては週末に同行する事が出来ません。私は着替えて参りますので、その間にお茶を済ませてくださいませ。適当な時間に茶器を下げに参りますので」

「そんなぁ。先週末は君とお茶を一緒に飲めなかったのに」

(ああ、そう言えばそうだったな。だからメイドと茶を飲むのが楽しみって、侯爵閣下の言う事じゃないだろ)

そうは思ったが、メアリも目の前にしょげている大きな犬がいると罪悪感を抱く。

「では、着替えたら新しいお湯をお持ちします」

「やったぁ。待ってるよ!」

(ママに甘える子供かよ…)


 仕方なく、メアリはメイド服に着替えて、新しい湯を持って書斎に戻った。マーティンには新しい茶器でお茶を淹れ直し、メアリの分も淹れて座った。

「ああ、メアリとお茶を飲むひと時が、人生一番の幸せな時間だよ」

(不機嫌な顔をして苦言ばかり言う女と同席して幸せなのか。マゾかよ)


 そうは思ったが、メアリは業務にまつわる情報収集をすべき事に気づいた。

「旦那様、公爵家の花見会と言うのはどのような格式のものなのでしょうか?」

「ああ、やる気になったメアリほど頼りになる者はいないね。各家の当主夫妻が呼ばれている様だよ。そう言う事だから、どちらかと言うと大人の集まりだから、メアリと同年代の参加者はいないと思うよ。悪いけど」

(それは良かった。顔バレがなさそうだ)


「何らかの派閥の集まりではないのですか?」

「ハミルトン公爵家は前王弟の息子だからね。顔は広いけど特定の派閥を作るという事はないよ。王弟とは時には王家と貴族の間を調停する役目だからね」

(それで評判の悪いクラレンス家まで呼ぶと言う訳か。なら何らかの調停でもしろよ。毎回襲われるのを防いでいたら、私の本当の目的がどっかいっちゃうだろ)


「それで、花見と言うのは何の花を見るのですか?」

「特別これが売り、と言う事は無い様だよ。花壇に海外の春の花が植えてあるとか。もう少し温かくなるとクロユリも咲くそうだけど、まだ咲いていないらしい」

(貴族がユリをわざわざ植えてみせる?趣味が悪いな。ユリは首が落ちるから、武にまつわる領地貴族では縁起が悪いと言われる。白ユリやらオニユリなら野山で勝手に咲くけれど。まあ、クロユリだと珍しいとも言えるか)

 市内の公園のソメイさんはほぼつぼみ、少しだけ咲いてました。

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