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4−6. 捜査状況

 騎士団は問題の渓谷の周囲で山狩りを行った。2台の馬車がどちらも被害者であれば、救援を待つ者がいる筈だったが、渓谷に落ちた2台の馬車の周囲には怪我人も死体も残っていなかったのだ。


 結局、騎士団は翌朝までに12人を拘束した。更に2人が周辺で見つかったが、道に迷ったと言い張った。この2人は貴族の陪臣と言い張ったが、最終的にはそのうちの一人がスタッドレ―伯爵の次男のキースである事が明らかになった。キースの捜索願いがスタッドレ―伯爵から出されて発覚したんだ。


 こうしてクラレンス侯爵家とスタッドレ―伯爵家に対し、クラレンス侯爵襲撃にスタッドレ―家の一員が加わっていた事が伝えられた。土曜の午後にクラレンス家を訪ねたスタッドレ―伯爵との会談には、屋敷に着いたばかりのメアリまで立ち会わされた。

(当主はネズミを雇う余裕は無いと言った。執事は調べると言った。ネズミの管理も裏工作も執事の仕事か。なら何故私を立ち会わせる…聞く訳にもいかない)


「まだ疑惑と言う段階ではあるが、もし当家の者が閣下の襲撃に加わっていた事が分かれば、勘当の上、極刑に処して貰う様にこちらからも騎士団に申し入れさせていただく」

「疑惑段階ですが、現時点でそう言われるのであれば、貴家全体の意思での関与では無いと判断しましょう」

「もちろんそんな事に関与するつもりは無い。娘の件は先代様との間で話はついている」


「では、ご子息は普段どの様な方々とお付き合いしているのでしょうか?」

「もう魔法学院も卒業しているから、仕事などで平民と話す事もあると思うが…妙な付き合いがあるとは聞いていない」

今回捕まった賊の殆どが平民だった。だから平民の犯罪組織との接点が問題となっているんだ。


「今回拘束されている者達は殆どが王都近郊に住む者達と聞いています。近隣の集落へ向かう事は度々あるので?」

「無いでは無いが、仕事の話は主に王都で行っている。領地でも無い場所に息子が向かう事は殆ど無かった筈だ」


 結局スタッドレ―伯爵自身も息子の行動を全て把握している訳では無いから、答えられる事も限られていた。一通りの聞き取りを終えて、スタッドレ―伯爵は帰って行った。


 マーティン・クラレンスと執事エドガー、そしてメアリがマーティンの書斎に集まった。

「伯爵の受け答えに不審な点は無かったと思う」

執事がメアリを見る。

(小娘に何が分かると思ってるんだ…)

そうは言っても意見を求められているからには答えないといけない。

「私にも『事前に知っていたから慌てて詫びに来た』のか『本当に慌てて謝罪に来た』のかの区別は付きませんでした。賊との結びつきも自然に答えていた様に見えました」

「質問をして反応を見たんだけどね…妙な間があるとか不審な点は無かったよね」

「そうですね」

マーティンの言葉に執事も同意した。


(これが陰謀だとして、クラレンス家の被害者の親に話が行かず、その息子にだけ行くと言うのもおかしな話だ)

メアリは思ったが、確証がある訳では無い。話題が限られているから、鳩首会談はじきに終わった。

 

 当然の様にメアリがマーティンのお茶を淹れる為に茶器とお湯を用意する事になった。


 そうして書斎に持って来た茶器を並べるのを、マーティンが当然の様に手伝う。

(メイドの職分…雇用主と労働者の関係…これがフェミニズムで行っているなら、こいつは私を女として見ている訳で、そうなると二人だけで同じ部屋にいるのは問題なんだけど…いつか暗殺する時の為には拒否出来ないんだ)

メアリとしては俯き加減になってしまう。


「さあ、二人分のお茶を淹れてくれ」

(ああ、もう異論を述べるのも面倒になって来た…と言うより、もうこれで良いかとも思う…)

メアリは首をぶるぶる振って、頭の中に浮かんだ思いを弾き出した。


 お茶を淹れて二人でテーブルを囲む。メアリはメイドとしてこれで良いのか、と長年教えられてきた貴族と労働者階級のつきあいのルールに背く行動を取らざるを得ない状況に苦悩した。


 目を細めているメアリに、マーティンが言う。

「そのう…埋め合わせと言っては何だけど、またどこかに行こうよ」

懲りないマーティンにメアリは苦言を呈するしかない。

「まだ背後関係が分からない以上、外出はお控えになった方がよろしいかと存じます」

「うん…そうなんだけど、そんな事を言っていると、春が終わってしまうよ」

「そうしたら初夏の風景も楽しめますし、なんなら初秋の景色も楽しめます。ひとまず御身を大切にしていただきたく」

「うん。そう言ってくれると嬉しいけど、僕の方から君になにかしてあげたいんだ」


(ぶっちゃけ何もいらない)

暗殺対象者にしたい事はあっても、して欲しい事など無い。クラレンス家当主とのこのぬるま湯の様な時間が、メアリの決心を鈍らせている。


 だから口を出るのは苦い言葉になった。

「一時の感情で動けば、当然結果は思いもよらないものになるでしょう。慎重に考え、行動してこそ良い結果が得られます。季節が移れば心も移ります。であれば、もっと長いスパンでの行動をお考えになる様、お願いします」


 自分が発した言葉が、メアリの心を突き刺した。それは姉に愛を囁いたと思われるノーマン・クラレンスの心変わりが姉を殺した事を思い出したからか、それともそれ以外か。


「そうだね。もっと長いスパンで考えて行動しないといけないね。うん。アドバイスありがとう!」

この大きな犬は明らかに尻尾を振っていた。

(何か勘違いしてるぞこいつ)


 ところがメアリも自分の言葉に思うところがあった。ふと視線が落ちたメアリにマーティンが声をかけた。

「何か言いたいの?」

「…その、本当に思い付いただけですが。モートン伯爵の甥、スタッドレ―伯爵の息子は、平民の犯罪集団に元々縁があったのでしょうか?」

「なるほど、それなりに手練れが参加していたから、全くの素人を金で集めた訳ではなさそうだね」

「女の浅知恵で襲撃したボイル子爵令嬢、酒で盛り上がった挙句の襲撃であったアーバスノット子爵子息の様な刹那的な感情で動く者はさておき、組織を動かすには相当な金と信用が必用と思います」

刹那的な感情で動く、と口にしてメアリの心に細長い剣が深く刺さった。それは自分の事も指すのではないか…

「背後関係を探る必要があるのではないか、と言う訳か…」

もちろん、マーティンは伯父に手紙を書く決心をした。


「ところで、当面は外の庭園を見る事も無いだろうから、来週はうちの庭でお茶でもしようか?」

(だから他の者が見えるところでメイドと主人が卓を囲めないだろう)

ところが今回はメアリに言い訳があった。

「旦那様、メイド長には申し出ているのですが、来週末には実家の所用でお休みさせていただきます。せっかくのお誘いを断る無礼、誠に申し訳ありません」

「いや、事前に決まっていた事なら仕方がないよ。ごめんね、知らずに誘ってしまって」

「いえ、お気になさらないでください」


 一方、マリエルと同じ疑問を持った者がいた。そして王宮に第一騎士団長と第二騎士団長が呼ばれた。


 非公式な謁見室で,ジョージ国王は第二騎士団長を労った。

「白昼堂々と侯爵を襲った賊を捕らえた第二騎士団の面々はご苦労であった。引き続き捜査に励む事を期待する。第一騎士団長も部下に協力を指示する事を期待する」

王の短い言葉を頂き、二人は退出した。


 第一騎士団長は王の言葉の裏に叱責を感じた。だから第二騎士団長に話しかけた。

「貴殿も同じ結論に至ったと思うが、クラレンス侯爵襲撃については、もっと背後関係を調べる必要がある様だ」

「私もそう考えました」

つまり、モートン伯爵の甥と共犯だった者達の処刑は早まった処分だったと王は判断した、そう二人は受け取ったのだ。

 明日から5章になります。30話で終わらなそうですねぇ…

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