表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

1−2. 侯爵家の夜 (2)

(はあ、女が馬脚を現してしまった。殺る気があるなら最後までとぼけなさいよ)

「どうやら本当にお兄さんの因果が弟に報いている様ですね。ここはもう観念したらどうです?悪いのはお兄さんなんだから」

「そうよ!こいつの兄がみんな悪いのよ!」

「待て待て、僕がした事じゃないのに僕が殺されないといけないのは理不尽じゃないか!」


 これを聞いて女が喚きだした。

「何言ってんの!本人が逃げたから証拠が無いって言って妹のお腹の子を認知しなかったじゃない!父親のいない子を生んだら子供も母親も行き場が無いじゃない、妹は自分で命を絶ったのよ!無責任な侯爵家のせいで二人の人命を奪っておきながら、のうのうと生きている奴等に復讐するのは当然の事じゃないっ!」

「認知しなかったのは逃げた兄貴と当時の当主だった親父だ!僕じゃない!なのに僕が復習の対象になるのは酷いじゃないかっ!」

メアリは思わず呟いた。

「無責任ですね」


 女はこの言葉に勢いづいた。

「そうよ!無責任親子と弟、全員人の命を何とも思わない外道揃いじゃない!ここで当主を殺して世間にその無責任を知らしめるんだから、邪魔をするな!」

「いや、だからって僕を殺さなくったって…」

(無責任だなぁ、とは思うけど、どうやらここは助けないといけない様ね)

「そうですね。無念でしょうし、雇用主ですから一応助けましょう。危険手当をお願いしますね」

「もちろんだ!」


 これを聞いた女が語調を強めた。

「近寄るな!近寄ったらこいつを殺す」

(うん、そうボケられたら突っ込まずにはいられないわ)

「近寄らなくても殺すじゃないですか。脅しは無効ですよ」


 当主は尋ねて来た。

「それで、どうするつもりだ?僕はどうしたら良い?」

(普通は当主は指示する方で、下女は指示に従う方なんだけど。無責任な上に無能かよ)

私は手に持っていたランプと水の入ったバケツを地面に置いて、モップを両手で構えた。

「私の持つ道具はモップだけで、これで短剣とは戦えません。だから、今のあなた達の体勢を崩しますから、短剣は何とかしてください」

「分かった」


 これに対して女は恨めしそうな声を上げた。

「お前!一生恨むからな!」

「当主の無責任は責められるべきですが、だからといって使用人が暗殺を阻止するのを恨むのが正当とは言えません。あなたの復讐の正当性と使用人である私の正当性は両立しないのです。妹が不当な目にあったと言うあなたが、今、私に不当な恨みを向ける。その不当さも非難されるべきでしょう。感情のままに周囲に八つ当たりする女に同情する者などいないと知りなさい」


 メアリはつかつかと女に近づいた。女はどうするか決めかねている様だった。

(さっさと殺せばいいのに)

ケンカキックの射程に入ったメアリは言った。

「いきますよ!?」

当主は応えた。

「頼む!」


 私は振り上げた右足を思いっきり前に突き出して、女の腰をヒットした。

「ぎゃっ!」

女は可愛くない悲鳴を上げた。痛かったのだ。実はこの時、勢いで短剣が当主の首筋をかすめないかとメアリは期待したのだが、当主は上手く避けた様だった。

(ちっ、運の良い奴)


 当主の向こう側に落ちた女の手から当主は何とか短剣を奪った、というか弾いた。すすーと短剣が私の前に滑って来た。それを見て女は当主を跨いで私の方に走って来た。

(当主、何とかしろよ…)


「よこせっ!」

すいっとメアリは左足で短剣を遠くに払った。とりあえず女との格闘で勝つ方を優先しただけで、当主を積極的に助けるつもりは無かった筈だ。

「お前っ!」

女は私に掴みかかろうと寄って来た。


 メアリは多少鍛えただけで普通の16才の令嬢相当の体力しかかなった。一方、女はもう魔法学院は卒業しているらしく、メアリよりは体格が良かった。令嬢同士なら、体格の差が力の差だ。メアリとしては、ここまでは見越していた。


 メアリはモップを水平に構えた。もちろん、そのままでは力負けする。だから、メアリの背中に触れる様に幅の狭いアイスウォールを作った。幅と奥行きが同じ様な角柱だ。モップの柄の端をそのアイスウォールに当てた。そして、女の突進に向けてモップを構え、女の腹にぶち当てた。


 身体を前のめりに倒した女は、そこで崩れ落ちた。鳩尾にまともにモップが当たり、自分の突進の力をそこにまともに受けたから、気絶したんだ。メアリはそっとアイスウォールを消した。ランプの灯りの下では今のアイスウォールは見えないだろうと考えたのだ。


 当主は嬉しそうに近づいて来た。

「よくやった!」

私は冷たく半目で当主を見た。

「何?どうかした?」

「ここからが大変でしょう?この女を手引きした者を見つけないと、また次の刺客が来ますよ」

「ああ、そうか。分かった。家の者の聴取をしよう。君も聞いてくれ」

「…いや、下女が当主と一緒に聞き取りには出られませんよ、身分が違うんだから」

「ああ、そうか。君が堂々としているから同じ貴族みたいに思っていたよ。じゃあ、今この時点で下女からメイドに格上げしよう。それなら同席しても良いだろ?」

(むっちゃ軽いよこの男。駄目だろ)


「メイドの件は後で執事様とメイド長と相談してください。聞くならカーテンの後ろとか、隠れて聞きます。後、何らか意味のある証言をした者は、隔離して部屋に戻さないでください。口裏合わせを防ぐ為です。また、メイド長と侍女長は最後に聞き取りをしてください。怪しい証言をした者についてまとめて確認を取る為です」

「そうだね。色々気を使ってくれて済まない」

(そうだよね。あんたが気を配らないといけないんだよ。何で暗殺に来ている私が気を配ってるんだ…いや、疑われるのを阻止する為だけど)

 ポイントを入れてくださった方。ありがとうございます。でも、設定的にこの主人公のモノローグが随分殺伐としているので、その辺が苦手な方がいないかびくびくしながら投稿しています。これからもおおらかな気持ちで読んでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ