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4−2. 週末の予定

 フェリシア・グラント伯爵令嬢はお供のジューン・アースキン子爵令嬢とアリー・センピア男爵令嬢を連れて、また現れた。

「あら、マリエル。今日も纏まりきらない髪型で学院に来たのね」

マリエルとしてはこのグラント伯爵令嬢とは決して親しい訳ではないが、がたがた言って話が長くなるのを嫌って呼び捨てを受け入れている。

「おはようございますグラント伯爵令嬢。本日もご機嫌麗しい様で何よりです」

「あら、あなたと私の仲じゃない。フェリシアと名前で呼んで頂戴」

「それでは失礼いたしまして、フェリシア様。朝の忙しいお時間をいただきありがとうございます」

「こちらから話しかけたのだから、気にする必要はないわ。ところであなた、寮から出るのは週末実家に帰る時だけと言うじゃない。もう少し外出を考えたらどう?」

(それ本当にあんたに関係ない事だろ)

「ええ、そう言う事も考えたいのですが、実家からあまり外をふらつくなと注意されているのです」

「別にそんな…あら、ごめんなさい。そうね。今しばらくは身を慎んだ方が良いわね」

フェリシアは成績の事はともかく、メアリの姉の事は気を使っている様だ。

「ええ。フェリシア様にもご理解いただき幸いです」

「邪魔をしたわね。ごめんなさい」

「とんでもありません」


 メアリにとって魔法学院での生活は息苦しいものだった。ふしだらな上、侯爵家を騙そうとした詐欺師、そんな女の妹。それが魔法学院および貴族社会でのメアリの評価だった。


 騙した方はともかく、騙された方まで誹謗中傷の対象としてそんなに楽しいのか。もちろん、万人が人を見下す事に快感を覚える。だから誹謗中傷で世界は満ちているのだ。だから、メアリとしてはこれ以上弱みを見せない様に背筋を伸ばしていないといけなかった。


 火曜の夕方に、メアリは魔法学院の寮を抜け出した。商店街の外れの倉庫の中の小部屋を借りていて、そこで着替えてからクラレンス家に向かう。


 本来は家族に隠れて夜の町で働く女達の着替え用の小部屋の一つだった。そういう事でメアリが寮に入る時に親から渡された小遣いで支払える賃料だった。


「おはようございます。本日の仕事のご指示をお願いします」

メアリの挨拶を聞いたメイド長は、まずお茶を淹れる練習をさせた。

「上達はしているのだけれど、本来は旦那様にお出しするには未熟な腕です。そこを自覚して、せめて旦那様との受け答えはひたすら丁寧にしなさい」

「はい。自覚しております」


 そうして、この家の主人、マーティン・クラレンス侯爵閣下にお茶を持って行く時間になった。


 扉をノックする。

「メアリです。お茶をお持ちしました」

「ああ、入ってくれ」

返事を待ってお茶のセットを運ぶワゴンを書斎に入れる。


 疲れの残る顔を上げてマーティンがメアリを見る。

「ああ、この時間を楽しみに仕事を片付けていたんだよ」

「お仕事は捗りましたか?」

「もちろんだよ。メアリとお喋りする時間を作る為に頑張ったんだ」

顔を綻ばすマーティンに対して、メアリは無言でお茶を淹れる。


 テーブルに移ってお茶を飲むマーティンが何か言い出す前に、メアリは口を開いた。

「その、旦那様がここまで時間をかけてお仕事をするより、誰かに代行させて、旦那様はそのチェックだけとした方が仕事が捗るのではないでしょうか?」

「ああ、もちろん、仕事に慣れたらそうするよ。ただ、今は一通りの仕事を自分でやって覚えた方が良いと、執事のエドガーの指示なんだ」

本来なら親が当主の内に少しづつ仕事を覚え、それから代替わりするべきだが、それが出来ていない。代替わりが突然の事だったのは確かだ。


「そんな顔をしないで良いよ。おかげで君と出会って、こうして喋る事が出来る。僕は充分幸せだよ」

(だからその女を口説くセリフは止めろ。屑な兄を連想させる)

「一介のメイドには過分なお言葉です」

「主人とメイドより親密な関係になりたいと思っているんだけどね。さあ、もう一杯お茶を淹れてくれ。二人でお茶を飲もうよ」


 緩み切った顔のマーティンは、今までもメアリがお茶を飲むまで諦めなかった。女が首を縦に振るまで諦めない、そんなたらしの性質がこの男にもあった。

(仕方ない)

メアリは自分用のお茶を淹れてテーブルの横の椅子に座った。


「調べたんだけどさ、王都の西の渓谷の先にある庭園で、ブルーベルやマグノリアが見れるらしいんだ。日曜に一緒に行こうよ」

(…)

メアリとしては一瞬迷ったが、使用人としては答えは一つしかない。

「ご命令とあれば同行いたします」

「命令なんて、ただ誘っているだけなんだ。君が喜んでくれると思ったんだけど、駄目かな?」

マーティンはキュイーン状態の犬の顔をした。

(止めろそれ。いくつだよあんた)


 まだ迷いはあるが、メアリは根負けした。

「そういう事でしたら、喜んで同行いたします」

マーティンは顔を綻ばした。

「うん。嬉しいよ。楽しみだね!」

(子供かよ)


 一寝入りした後、まだ暗い王都の貴族街をメアリは着替えの小部屋に急いだ。平民の外出着から貴族の外出着に着替え、魔法学院に戻る足は重かった。

(クラレンス家に向かう、この時は目的があるから意欲的に歩ける。じゃあ、学院に戻る足が重いのは何故か…)

メアリは一つ思い当たる事があったが、首を振ってその思いを振り切った。

 土筆が出てました。例年通りかな?

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