3−3. 顛末
詐欺師でかつ凶行に及ぶ賊である。クラレンス家としては問答無用で騎士団に引き渡した。
騎士団の中でロバートを名乗る男に見覚えがある者がいた。モートン伯爵の甥の男爵家子息、ボビー・グレイだった。モートン伯爵の令嬢ジョゼフィンは、先代クラレンス家の長男ノーマンに孕まされた第二の被害者だった。
騎士団から貴族籍にある者がモートン伯爵邸に派遣され、聞き取りが行われた。モートン伯爵は関与を否定した。そう言う事で、翌週の日曜にはモートン伯爵がクラレンス侯爵家に釈明にやって来る事になった。
「まず、本件について当家は一切関与していない事をここに申し上げる。それ故、本件について当家に対する誹謗中傷は一切受け付けない事を宣言する」
モートン伯爵は開口一番、一切の非難を受け付けない事を宣言した。
「甥の問題はあくまで甥の家、グレイ男爵家の問題と?」
マーティン・クラレンスの質問にモートン伯爵は答えた。
「グレイ男爵家とその子ボビーの問題です。当家が関与したという証拠が無い以上、当家に責任を問うのはお門違いです。貴家の日頃の行いによるところでしょう」
マーティンとモーとン伯爵の間に沈黙が降りた。しばらくしてマーティンは口を開いた。聞くべき事を執事と決めてあったのだろう。
「貴家としては我が家に思うところは無いと?」
「無い訳が無い。貴家の一員が我が家の娘を騙して将来を奪ったのだから。ただ、だから我が家が貴家に対するなんらかの陰謀に関与したと決めつけられるのは誹謗中傷であると言っている。証拠が無いのだから」
マーティンとしては渋い顔をする以外に無かった。
「では、示談自体は成立し、その件に関わる何らかの責任を我が家に改めて問う事は無いと考えてよろしいか?」
「我が家がその約束を違えた事はない」
モートン伯爵との会見が終わり、メアリは他のメイドに混じって後片付けを行った。昼食の後、メアリは当主にお茶を持って行く事になった。
「今日も上品な淹れ方だね。僕のストレスを考えてくれてありがとう」
マーティンとモートン伯爵の会見には例によりメアリも立ち会った。その緊迫感は充分感じられた。
「じゃあ、もう一杯淹れて、少し話に付き合ってくれよ」
「…こういう時だけですよ」
「うん…その時々で交渉しよう」
少なくとも、今話し相手と考えを纏める必要があるだろう事はメアリにも分かる。だから今回は付き合う事にした。
「メアリはどう思った?モートン伯爵を?」
「示談交渉の時の伯爵閣下がどういう態度だったか分かりませんので、何とも言えません」
「僕も知らないんだよな…その時はまだ学生だったしね」
「その時もこういう態度だとしたら、そういう人だと思います。ですが今回態度が変わったとしたら、むしろ疑惑を突っぱねる必用があった可能性はありますね」
「裏では共犯と?」
「証拠がありませんからそう断定するのはよろしくないと思いますが」
「兄さんがあまりに酷いのは分かるけど、示談したのは4年前なんだ。今更詐欺とか白昼堂々と殺そうとするとか、そんな気になる理由が分からないんだ」
メアリとしては冷たい答えにならざるを得なかった。
「改めて怒りを感じる事があったのかもしれませんね」
「兄さんの新たな悪行が明らかになったから?」
「それから準備を続ければこのタイミングになるのかもしれません」
(私の準備が整ったのもこのタイミングだし)
「…このタイミングで人員を増やす目途が立ったのは良い事かもしれないね」
「それ以前に人員が減った事が凶行に及ぶ遠因かもしれません」
「ああ、ジェイクあたりから情報漏れがあったかもしれないからね」
「こちらもあちらにネズミを送り込めれば良いのですが」
「そういう人員の余裕は無いね。そういう能力のある人材もいないし」
(それで良いのか侯爵家…)
「そこは私の職分ではありませんから、エドガー様と相談してみてください」
「そうだね…」
「ところでメアリ、そろそろ温かくなってくるけど、春の花は何が好き?」
「田舎者ですから普通の野山の花が好きですよ」
「特に好きな物は無いの?」
「まあ、花の大きなマグノリアが好きですが」
「この屋敷にはマグノリアの木は無いんだよね…どこかの家に呼ばれた時、一緒に見に行こうか?」
「メイドが主人に付いて行く訳にはいきません」
「侍女のフリをすれば良いさ。今までだってそうしてたろう?」
「そろそろボロが出ると思いますので、辞退させていただきたいのですが」
「そう言わずに、今度同行してよ」
「どこぞの庭園にでも旦那様が個人的にいらっしゃる時なら、同行も問題ないかもしれませんが」
「うん、その線で行こう」
騎士団での取り調べで、ボビーと同行した襲撃犯は犯罪組織の一員である事が分かった。スラムなどが捜索されたが、関係者の摘発は出来なかった。
騎士団としては前回のジェイソンとジェイクの件、そして今回の詐欺兼襲撃と続いた事から、クラレンス家への次の襲撃もある可能性に鑑み、実行犯の早期処分が必用と考えた。見せしめとして。
そう言う事で、王都外の処刑場で二つの事件の犯人の処刑が行われた。10人以上の人間が次々と吊るされ、半時を置いた後に掘った穴に無造作に放り込まれた。
とは言え、二件の襲撃を許したクラレンス家の警備状況の不備が人々の口の端に上がる事になった。
実際には三件発生しており、更にもう一件の種が埋まっているのだが。
作者としてはイングランド、スコットランド等の苗字を使うことが多いです。なので季節の花はブリテン島の花を調べるのですが…小花以外はモクレンとか桜とかが出てくるんですね。だから春の花として毎度マグノリアが登場します。個人的にはとても好きですが。春以外に愛想を感じない木ですよね。




