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3−2. 応酬

 日曜の午前中、件の連中がやって来た。

「私はヘリス男爵の従弟になります、ロバートです。こちらはモーガン商会のチャック副会長です」

二人はそれぞれ従者を連れて来た。


 応接室でロバートなる者は鉱山について説明した。

「ヘリス男爵閣下は鉱山調査で銀山を発見したのですが、なにしろ開発にはお金がかかります。各方面に出資者を募っております。ここで侯爵閣下が出資者に加わっていただければ、今後は我々の話の信用が高まります」

(つまり現時点では信用ならない話と言う訳だ)

メアリは顔を伏せながら心中で突っ込んだ。


 ロバートは従者に持たせた鞄から布包みを取り出した。

「これが採掘された銀の原石になります」

一見、灰色の濃淡が混じった普通の石だった。執事が受け取り、少し眺めてからロバートに返した。


 ここでマーティン・クラレンスが口を開いた。

「それで、採掘の計画と何時頃から利益を上げられるかの予測を教えて欲しいのだが」

モーガン商会とやらのチャックは従者の鞄から書類を出した。

「半年後に銀山周辺の土木工事を開始し、1年後に試験採掘、1年半後には本格採掘が始まる予定です。これをメイトライト伯爵に精錬を委託する手筈となっております」

「精錬自体は既存の施設を使わせてもらうと言う事か」

「はい。伯爵閣下にも手付金を払う必要があり、初期投資を各方面に募る必要があります」


 ここで執事のエドガーが口を開いた。

「ところで、ヘリス男爵領では何時から鉱山調査を行っていたのでしょう?その費用はどう捻出されたのですか?」

ロバートと名乗る男が応答した。

「3年前から細々と行っておりました。川原に散らばる石の中に銀の原石があり、上流を調査して見つかっております。費用としては各年の予算から捻出しました」

「ふむ、ヘリス男爵家は普通に農業生産に頼っていると思います。銀による水質汚染があるとは聞いておりませんが。どこの川になりますか?」

「クルーニー川になります」

「ふむ、クルーニー川の下流では普通に川魚の漁をしておりますな。銀の原石から流出する毒の影響はないのですか?」


 実は銀の原石は種類によっては毒性を持つが、全てでは無い。だからこれははったりだった。だが、ロバートとチャックは目を合わせて、従者の鞄から短剣を取り出した。もちろん彼等の従者達も短剣を取り出した。


 クラレンス家の侍従のフリをした護衛達も短剣を取り出してマーティンと執事の前に割り込んだ。しかし人数が足りない為、メアリの側を通ってマーテインに迫った。そこにメアリが割り込んで、銀のお盆で一人を張り倒した。

「がっ」

一人は倒れたが、もう一人がマーティンに迫った。


 この段階で扉が開いた。入って来たのはクラレンス家の護衛ではなく、御者の恰好をした男と馬車の護衛の男だった。つまり、クラレンス家の護衛を出し抜いて入り込んでいたんだ。


 ここで執事のエドガーがマーティンに迫っていた男を警棒らしき物で阻止していたので、メアリとしては後ろから迫る二人を阻止する事にした。

(護衛何やってんだ!?)

口に出しても意味が無い。こいつらを動けなくするのが先だ。


 侵入してきた護衛も御者も片手剣を持っていた。先を走って来た御者は剣を振り上げメアリに振り下ろして来た。だからメアリは御者の左にしゃがみこみ、足を引っかけて倒した。ただ転んだだけだが。その隙に護衛に向かった。


 護衛は剣を突き出して来たから、銀のお盆で剣を横から叩いた。もちろん、それだけでは力負けするので、お盆のこちら側に氷を作って魔法で後押しした。相手の剣はメアリと逆側に弾け飛んだ。その隙にメアリはそのお盆+氷で護衛の顔面を叩いた。

「ぎゃっ」

男は鼻血を噴き出しながら倒れた。


 御者が立ち上がり、執事のエドガーが阻止しているチャックの横から斬りかかろうとした。

(一人だけ何もしてないぞ!馬鹿者!)

心の中でマーティンを罵倒しながらメアリはお盆を投げた。お盆は御者の後頭部に当たり、一瞬御者はふらついたが、立て直した。


 その隙にメアリは御者に追いついた。背中に隠していた短剣を取り出し、鞘から抜く事無く御者を叩いた。御者はようやく動かなくなった。


 ここでエドガーがチャックを叩いて動けなくした。騒ぎを聞きつけたクラレンス家の護衛達がようやく応接室に雪崩込み、詐欺師達は取り押さえられた。


 まだ荒い息をしているメアリに執事のエドガーが話しかけた。

「よくやってくれました」

執事も息が荒かった。とは言え、さすがにメアリも言いたい事があった。

「荒事になる予測はしていた筈です。なんで私が3人も相手にしないといけないんですか」

「そうですね、多少の手違いはありましたが、だからあなたに短剣を渡していたのではないですか」


 メアリは短剣を握りしめながらぶるぶる震えた。怒りで。

「だから、メイドに使い慣れない短剣を渡してどうにかなるものではないでしょう」

「その短剣は先代の奥方様が手にしていた物です。クラレンス家の代々当主の配偶者には、当主を守る最期の砦としての役割が与えられる、その短剣がその象徴です。当家としてあなたに全幅の信頼を持っているのです。期待に応えていただき、感激に堪えません」


 メアリの怒りは頂点に達した。

(そんな大事なもんを下女あがりのメイドに渡すなよ)

メアリは短剣を壊さんばかりに握りしめたが、壊れる物では無かった。


 深呼吸を三回して、メアリは息と心を整えた。

「分かりました。しばらく預かっておきますが、これを持つに相応しい方を早急に探していただきたく」

「相思相愛になる方が中々おりませんので」

(こっちだって相思相愛じゃねぇっ!こっちは殺意しかないんだぞ!)

とは言え、メアリではどうにもならない事がある。だからマーティンに努力してもらうしか無い。


「しばらく預かっておりますが、旦那様にも生き延びる努力をしていただきたく」

「…それは今度お見せします」

執事も当主の剣術については諦めている雰囲気が漂っていた。

 銀の生成途中で不純物のヒ素を取り除くんですね。つまり、ヒ素(ただし不純物に硫黄を含んだもの)は銀と反応して変色する。これが銀の食器が毒を検出する理屈です。でも、実は硫黄に反応しているから、純度の高いヒ素には反応しないし、植物性の毒には反応しません。そういうヒ素が含まれていなければ、川を汚染しないと思われます。

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