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3−1. 人事の都合と投資判断

 週末、マーティン・クラレンス侯爵は伯父のスティーブ・コクラン伯爵を訪ねた。恭しく侯爵閣下を出迎えたコクラン伯爵は、応接室に侯爵を連れて行った。

「伯父上、まず申し上げたいのは謝罪です。兄上と父の事で伯父上にもご迷惑をおかけしていると思います。誠に申し訳ありません」

マーティンは立ち上がって深く頭を下げた。


 スティーブは砕けた言い方になった。

「おう、もちろん大迷惑しているぞ。だがその様に謝罪してもらえるなら、そこまで怒る問題でもない。頭を上げろ。可愛い甥を虐める趣味はないからな」

「そう言っていただけると助かります。ただ、こうして出向いて来たのは、他にお願いがあるからです」


 マーティンは2件の襲撃事件を説明した。対してスティーブは眉を顰めた。

「あの、ニナがそう簡単に引き下がるとは思えん。同学年のニナとブリジットはコンビで陰謀家として有名だったんだ。2年の間に5人が退学に追い込まれたのはあの二人のせいだともっぱらの噂だ」

「すみません、ニナ・スペンサーは会っているので分かりますが、ブリジット女史とはどなたです?」

「元ブリジット・ブレッカー侯爵令嬢、今はゴードン侯爵夫人だ」

「すると、ブレッカー侯爵家、ゴードン侯爵家は元スペンサー伯爵夫妻の味方と言う訳ですか?」

「いや、あの二人のやり方は上手く役割分担し、お互いの結びつきは示さないんだ。表立って攻撃するのはニナ、裏で影響力を行使するのがブリジットと言われている」


「では、裏で動いてくる可能性があると?」

「そうだな、こちらでも少し探ってみる」

「侯爵家相手に大丈夫ですか?」

「何、俺達同級生男子は、いつか仲間があの二人に罠に嵌められた時は必ず団結して立ち向かうと約束したんだ。その伝手を頼ってみる」

「お願いします。それで、今日来たのはそれに関連して当家の人手が足りなくなっており、何人か紹介していただけないかとお願いに来たのです」

「そうか、この状況で人手が足りないのは不味いな。ひとまず家の人間を二人出すが、後は領地から連れて来る必用がある。二週間待ってくれ」

「いえ、一人二人でも融通していただけるなら助かります」

こうしてマーティンは親戚との関係を改善し、人手を回してもらう事に成功した。


 火曜の夜、お茶を淹れに行ったメアリの前で、マーティンは上機嫌だった。メアリの分のお茶も淹れさせ、座らせてから嬉しそうに話した。

「やあ、やはり血は水よりも濃いね。伯父上はすぐに二人を寄越してくれたよ」

「それはよろしゅうございました」

「ついでに投資話も舞い込んでね。未来は明るいよ」

「伯父上様が投資のお話をされたのですか?」

「いや、騎士時代の同僚の親戚らしいんだけど、力になりたいと投資の話を持って来てくれたんだ」

「…どの様なお話で?」

「その騎士仲間の親戚が、鉱山を見つけてね、それで開発の為の出資者を募っているらしい。銀鉱との事だから、かなりの利益が見込めるらしい」

「そうですか」


 メアリはすっと立ち上がると、自分が使っていた茶器を片付け、テーブルの半分を布巾で拭いた後、書斎のマーティンの机のベルを鳴らした。

「ちょっと、メアリ、何してるの?」

「お構いなく。すぐに用は済みます」


 そうして、ベルを聞いた侍従がやって来た。マーティンに用を聞く侍従にメアリが割り込んだ。

「執事のエドガー様を至急お呼びください。緊急の案件です」

侍従はマーティンの用件も聞かずに引っ返して行った。


 執事はガウンを着てやって来た。

「緊急の案件と聞きましたが?」

マーティンは答えた。

「メアリが呼んだんだよ」

それを聞いた執事はメアリを見た。

「旦那様に投資の話を持って来た者がいたと言うので、話が進む前にエドガー様に相談する必用があると考えました」


 執事もすぐに察した。

「旦那様、お金が動く話は即相談していただきたいとお願いしていたと記憶しておりますが」

「日曜に聞いたばかりの話だよ。検討してから相談しようと思っていたんだ」

メアリも執事も半目でマーティンを見つめた。


「分かったってば。ヘリス男爵領で銀山が見つかったので、開発の為の資金を提供してくれる貴族を募っているって言うんだ。次の日曜に契約に来ると言ってた」

「調べる時間を与えずに出資を迫るのが詐欺らしいところですね」

メアリは冷たく呟いた。

「将来のある家ならもうけ話を持って来る事もあるでしょうが、孤立している当家と手を結んで良い事などないでしょう。旦那様にはもう少し慎重な行動をお願いします」

執事は半ば説教として発言した。


「まだ詐欺と決まった訳ではないだろう?」

マーティンは理性ではなく感情で反発した。自己正当化を望んでいるんだ。

「窮すれば鈍するですね」

メアリは冷たく突き放した。その言葉にマーティンは目に見えて落胆した。


「いずれにせよ、詐欺である事を掴んで官憲に引き渡しましょう。侯爵家として騙されて終わる訳には参りません」

「分かったよ…」


 当日はマーティン、執事、侍従に扮した護衛二人、それにメアリまで立ち会う事になった。

「メイドの立ち会う場面ではないと考えますが」

「何しろ旦那様が荒事の人数に入りません。一人でも防衛側の人間が必用なのです」

「無手で出来る事など限られています」

「ですね。これを渡しておきます」


 執事はメアリに濃い灰色の布で巻かれた鞘に入った小さめの短剣を渡した。柄にはクラレンス家の紋章が削られていた。

「メイドが持って良い得物とは思えませんが」

「これで旦那様を守って人を傷つけた場合、侯爵家が責任を取るという証です。使ってください」

「短剣の使い方など習った事がありません」

(独学で練習したけどさ)

「なら鈍器として使ってください」

言う事だけ言って、執事はメアリに短剣を押し付けて部屋に戻って行った。

 5chが.ioで復活してました。底辺スレでは評価が跳ねなければ10話くらいで打ち切れなどと言っている人がいました。いや、お話を始めたら、ちゃんと終わらせないと作者もつまんないと思うんですが。

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