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2−5. 旦那様と私の午後 (2)

 マーティン・クラレンスはアーバスノット子爵とハリス男爵に問うた。

「さて、子爵は本件に関わる賠償の上、ジェイソンを更生させられますかな?」

「いえ。当家としては犯罪行為に及んだ息子を庇うつもりはありません。月曜には勘当処分の手続きをさせていただきます。即刻、騎士団に引き渡していただきたい」

「よろしいのですか?」

「子爵家として息子の行為を支持しません。それを示す為に息子を勘当します。

また、一度合意した娘に関する示談の合意を破った形になります。それに対して賠償の意味で、今後の娘の子への養育費を辞退します」

「そこまでなさらなくても良いのでは?」

「いえ、一貴族としての誇りに賭けて、責任を取らせていただきます」


「ハリス男爵は如何か?」

「月曜には息子の勘当処分をいたします。騎士団へ引き渡していただきたい」

「当家の監督責任もありますが、実行犯を引き渡す以上、同じ処分にするのが妥当です。処分について、何か条件はありますか?」

「護衛が主人の命を狙う賊の手引きをすれば、つまり逆賊です。騎士団にて厳罰に処していただかないと、当家としても今後貴族としてやっていけません」

「分かりました。両家に対して当家から、本件について別途要求する事はありません。本日はお出でいただきありがとうございました」


 三家の交渉が終わり、メアリは他のメイドに混じって後片付けを行った。昼食の後、メアリは当主にお茶を持って行く事になった。


「今日も上品な淹れ方だね。濃くても良かったのに」

「ストレスがかかった後に濃いお茶はよろしくないかと」

「その気遣いが愛だね!」

(ねぇよ、そんなもん)


「メアリはどう思った?」

「ジェイソンはそのままですね。ジェイクがどうしても真実を話さなかったのは、彼がジェイソンを誘ったのでしょうか…そこが不明です」

「飲み屋の証言では、二人は意気投合して個室に移動したのが最初との事だ。その後も何度か個室で飲んでいたらしい」

メアリとしては黙るしかなかった。


「何か気になる事でも?」

「使用人が侯爵家にご意見するのも問題と思いますので」

「君と僕の仲じゃないか。腹を割って話してよ」

(ただの使用人と主人の仲だろう。都合よく誤解するな)

「それでは失礼して…護衛が守秘義務を守らないと言うのは、お家の教育の問題もあります」

「ジェイクがジェイソンを誘った。手引きが可能だと言ったのだろうね。それでジェイソンがその気になった。今回はそう言う話みたいだね」

「騎士団の取り調べ次第ではありますが」


「ジェイクはあのシナリオを続けるのだろうか?」

「平民になった。その時は貴族籍にあったとは言え、勘当された以上は平民として裁かれ、貴族家に務めていながら賊の手引きをした。吊られるのは変わらなくとも、冤罪の芽を残したいのでしょうか。それとも拷問を逃れる為の嘘なのでしょうか」

「分からないね」


「さて、僕にお代わりを淹れるのと一緒に、もう一杯淹れてくれ。一緒に飲もう」

「ですから、メイドと侯爵閣下が卓を囲むのはルール違反です」

「でも、もっと君と話したいんだ」


 マーティンの表情は、犬がキュイーンと啼くそれだった。マーティンの顔は悪くなかった。6人の女を誑し込む男の弟だ。悪い訳は無い。メアリとしては顔には騙されないが、この男が本気で自分とお喋りをしたいと望んでいる事は分かった。

「今日はお疲れでしょうからお付き合いしますが、そう度々はしませんよ?」

「うん。週末だけで我慢するよ」

(調子に乗るな)


 マーティンは穏やかな顔で言った。

「兄さんが仕出かさなければ僕がこんな苦労をする事も無かったけど、お陰で君に出会えた。何事も悪い事ばかりじゃないね」

(兄貴がやらかしたから暗殺しに来たんだよ。悪い事ばかりだよ)

「過分な評価で心苦しいです」

「家のメイドも侍女も悪い人はいないけどさ、物心付く頃から使用人と貴族子息の関係だからさ、何となく心の距離を感じるんだよね」

「距離は守っているつもりですが」

「うん。君は悪くないんだけど、何故か僕の方が君に近づきたいんだ」

「使う相手を間違えるととんでもない火傷をする言葉だと思います」

「ふふふ、そんな風に忌憚のない言葉をくれるから、距離を感じないんだよね」


(どこかで殺す相手だから、と言うよりか、大分間抜けだから突っ込まずにはいられないんだよ)

「旦那様がご立派な侯爵閣下になられる事を強く望んでいるだけです」

「うん、そう真面目に思ってくれるのは執事のエドガーと君だけだよ」

「…」


 私はこんな時間を知っている…もう二度と会う事の無い人と過ごした時間だ…

 ちょっと文字が少なかった。明日から3章です。

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