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2−4. 当主会談

 日曜には、アーバスノット子爵夫妻と護衛のジェイク・ハリスの両親であるハリス男爵夫妻がやって来て、対応を協議する事になった。


 例によってメアリことマリエル・リズリーにも侍女の列に混じって立ち会う様に指示があった。

(当主マーティンはともかく、あの執事は何を考えているのか)

疑問ではあるが指示は指示だ。メイド如きが意見をする問題では無い。


「この度は息子がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

アーバスノット子爵はまず詫びの言葉を口にした。

「子爵は示談以降に問題を口にされていない。だから子爵自体に罪があるとは思っていません。ただ、それだけにご子息の話を聞いてもらい、その処分は独立した案件として話し合いたいと思います」

「はい。息子の言い分を聞いた上で、お望みの処分の方向で話し合いたいと考えます」


 一方、ハリス男爵は平身低頭謝る以外出来なかった。

「この度は息子が犯罪に加担する様な真似をいたしまして、本当に申し訳ありませんでした」

男爵夫妻は深く深く頭を下げた。

「当家の監督責任もありますが、それだけに処分は妥当なものにしないといけません。ジェイクの言い分を聞いて、お考えを聞かせていただきたい」

「もちろんです。息子の言い分に同意出来なければ、侯爵閣下のご処分に異論は唱えません」


 まず、主犯であるジェイソン・アーバスノットが呼ばれた。両手を後ろに縛られた状態で。アーバスノット子爵夫妻の姿を見ると、ジェイソンは許可される事を待つ事もなく大声で喚いた。

「おいっ!親父、お袋!今こそ恨み重なるクラレンス家の人でなしをぶち殺すチャンスだ!さっさと殺ってくれ!」

アーバスノット子爵は汗をかきながら口を開いた。

「侯爵閣下、お時間をいただけるなら息子を黙らせますが、如何でしょうか」

「子爵、ありのままのご子息の言葉を聞いてみたらどうだろう。どうにかなるのか、ならないのかを確認する良い機会だと思うんだ」


 アーバスノット子爵はクラレンス侯爵マーティンがジェイソンに情状酌量の余地が無いと考えている事を悟った。日頃から乱暴な発言の多い息子とは言え、ここまで攻撃的になっているとは思っていなかったのだ。

「閣下にお任せします」


「そう言う事で、ジェイソン。まずこちらで調べた内容を子爵に聞いてもらう。その上で反論があれば言うが良い」

「ケッ、手前勝手な言い分をまた言うだけだろうが」

「まず、お前は守衛の手引きで屋敷に侵入した。その上で、手引きをした人間に私の書斎を教えてもらい、鞘から抜いた両手剣を持って書斎に侵入した。ここまでは同意するな?」

「当たり前だ!俺が正義の鉄槌をお前に下すのに、協力してくれる奴がお前の屋敷の中にもいるんだ!お前が悪である証拠だ!」


「次、防衛の相談をする私とメイドに対し、『舐めるとお前から殺すぞ』とメイドに向かった。これも良いか?」

「当然だ!俺が正義の断罪をするのを邪魔しようとするのだから、斬り捨てられて当然だろう!」

「そしてメイドに茶をかけられて顔を覆った隙に取り押さえられた、これも良いか?」

「あのメイド!貴族に茶をかけやがって!ぶっ殺してやる!」

「許可を得ず侵入したら、貴族も平民もないよ。取り押さえられて当然だ」

「使用人の教育も出来ない奴が偉そうに言うな!」


「子爵、こう言う訳だ。意見を聞こう」

アーバスノット子爵も、息子がここまで侯爵の館で無法な言動をするとは思っていなかったから、弁護のし様が無かった。

「息子が失礼な言動を続けまして、誠に申し訳ありません。これ以上の息子の証言は不要と考えます」

これを聞いたジェイソンは喚き、暴れ出した。

「クソ親父!息子を弁護する事も出来ないのか!」

マーティンは護衛に指示を出した。

「連れて行け」

こうしてジェイソンは退場した。


 次いで護衛のジェイク・ハリスが呼ばれた。

「まずこちらの見解を述べる。異議ある点は後にまとめて述べる様に。お前は守衛の相棒に小用を済ます様に勧め、その間にジェイソン・アーバスノットを通用門から通した。ジェイソンの証言では東階段を使用して二階に上がり、正面階段の上でお前が待機し、ジェイソン一人で私の書斎に入った。これに間違いはないか?」

「待ってください!これはメイドの罠です!自分は旦那様の声を聞いて書斎に入っただけなのです!ジェイソン等と言う男は知りません!」


「では、何故誰の指示も無く守衛所を空にし、二階にいたのか?」

「小用が我慢できなくなり、屋敷に戻っただけです!」

「それで二階に上がった理由は何か?」

「ですので旦那様の声が聞こえたので!」

「1階の便所から守衛所の間にいたお前が真っ先に二階に上がる理由はないぞ」

「それでも旦那様の声を聞いて急いで駆けつけたのです!罪に問うのは酷いです!」

「では、ジェイソンとは面識が無いのだな?」

「もちろんです!」


「ところが、王都の歓楽街の騎士向けの飲み屋の個室で、お前とジェイソンが大声で物騒な事を話していたという店員の証言がある。つまり、お前は嘘を吐いているんだな」

「それこぞ罠です!メイドが買収したのです!」

「まあ、百歩譲って買収しようとしたとしよう。貴族の子息らしきジェイソンと護衛らしきお前と、メイドと、店員はどちらの話を尊重するかな?」

「そこは金額次第です!」

「だからな、お前等貴族子息がこれからも客として来てくれる、それで落ちる金と、メイド風情の買収金とどちらが額が大きいかと言う問題があるんだ。そして、お前等が何をしたか侯爵家としては話していない。その状態で話を訊かれた場合、飲み屋としては嘘がバレると侯爵家に潰される恐れがある。事実に基づかない話はしづらいと思うぞ」


「それでも買収される可能性が無い訳では無いです!」

「それでは、お前はメアリに買収されて守衛所を空けたのか?」

ジェイクは口籠った。それでもこの作り話を続けるしか無かった様だ。

「そうです!メイドに金を渡され、守衛所を空にしたのです!」

「ジェイソンは守衛が手引きをしたと言ったぞ?そしてジェイソンはメイドに倒されて取り押さえられた。そのメイドがお前を買収する理由が無いぞ?」

「ジェイソンはメイドを庇っているんです!」


 アーバスノット子爵夫妻も、ハリス男爵夫妻も顔を顰めた。先程の証言でジェイソン・アーバスノットは心底メイドを憎んでいたから、この明らかな嘘の証言を見苦しく思ったのだ。出席者合意の下、ジェイク・ハリスは退場させられた。

 正確には「ジェイソンは守衛が手引をした事に異論を挟まなかった」ですが、まあ人間だからそのくらい丸めて喋るかな。

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