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2−3. 後始末 (2)

 まず、アーバスノット子爵子息の取り調べが行われた。

「うぉーっ、貴族をこんな風に縛り付けてただで済むと思うなよっ!放せぇーっ!」

アーバスノット子爵子息は後ろ手に縛られていた。また、火傷で顔を赤くしていたが、構わず喚いた。火傷の痛みより怒りの方が強い様だ。


 確かに貴族の子供を捕らえている以上、爵位を持つ者が対応すべきであり、マーティンが尋問する事になった。

「爵位が上の貴族の書斎に断りなく入り込んだばかりか、両手剣でメイドに斬りかかった。明確な犯罪者だから拘束するしかないだろう。それで、復讐の正当性を語るなら、名前と家名を明らかにしてくれ」


「俺はアーバスノット家の次男のジェイソンだ!この家の男が俺の妹を弄んで捨てたから、その復讐にやって来たんだ!正当な復讐だ!」

「先程も言ったけど、既に示談が成立している。同じ理由で我が家に侵入して武器を抜いたら、無法な犯罪者として断罪するしかない。他に言い分があるか?」

「はした金で済むと思うなよ!俺達は今もあばずれの家族と蔑まれているんだ!恨みは募るばかりだぞ!」


「君が金額に対して不満だろうが問題にならない。当時の当主同士が合意した約束なんだ。それを違えれば恥ずべきは約束を守らない方だ」

「だからこの家の屑のお陰で俺達は今も陰口を叩かれているんだ!金で済むと思うなよ!」

「はした金と金額に不満を言いながら、一方で金の問題じゃないと言う。他に理由が無いならその様にアーバスノット子爵と交渉する事になる。最後の質問だ。他に正当な理由があるか?」


 ここでジェイソン・アーバスノットは火傷の痛みに気付いた。

「おいっ、あのメイドが俺を挑発したからこうなったんだろ!?貴族を侮辱したメイドの責任だ!俺を放せ!」

「その前に君がメイドを脅迫したろ?その前には侯爵家の当主に断りなく忍び込んだ。メイドの行動は正当な警備行動だよ。他に言う事がなければ尋問は終了する」

「ふざけんなよ!次は必ずお前もあのメイドもぶっ殺してやる!」

マーティンは溜息を吐いた。

「それじゃあ、君の尋問は終わりだ」

ジェイソンはまだ喚き続けていたが、護衛達は構わず部屋から連れ出した。


 今回も、衝立の影でメアリも尋問を聞いていた。マーティンがメアリも参加する事を主張し、老執事のエドガーも認めたのだ。

(あの執事、やり手っぽく見えるのに何を考えているのか)

メアリは思ったが、ともかく意見を求められれば答えないといけない。

「どう思う?」

マーティンに呼ばれてメアリは歩み寄り、答えた。

「妹が原因ですが、『妹は』苦しんでいると言うのでなく、『俺達は』苦しんでいると言っています。言うほど妹の為に動いているとは思えません」

「自分が妹と一緒になって貶されるのが嫌、と言う事かい?」

「そう思います。ただ、アーバスノット家の令嬢はいつ示談が成立したんです?」

「兄が1年の時の被害者だよ。だから5年近く前だ」

「それで今更不満に思う、と言うのは不自然ですね。何がきっかけになったのかが気になります」


 執事も思案顔になり、口を開いた。

「つまり最近、また貶される事が増えたと言う事ですか?」

「そうかもしれないし、日頃から不満に思っていた事を解消出来そうな機会を得られそうだ、と思う事があったのかもしれません」

「共犯者から言い出したと?」

「あの護衛がどういう方か私は存じませんので、背後関係などからお考えいただけるとよろしいかと」

「そうですね。ジェイクへの質問は考えて行いましょう」

「お願いします」


 そして先程真っ先に当主の書斎にやって来て片手剣を抜いた護衛、ジェイク・ハリスが呼ばれた。今度は使用人の問題であるため、執事が聞き取りを行った。

「それで、お前の言い分を述べなさい」

「はいっ、自分は旦那様のお声を聞いて部屋に入ったところ、いきなり女に転ばされて気を失いました。自分は何もしておりません」


 当事者の一人である当主が目の前で冷たく見下ろしているのに、ジェイクは平然と無罪を訴えた。だからマーティンは当然の質問をした。

「私は賊を縛れと指示したのだが、お前は剣を抜いて私に向かって来た。そこはどう釈明するんだ?」

「誤解です。自分は賊に向かって歩いたのです」

「片手剣を抜いたのは?片手で剣を持っていては縄を縛る事など出来まい?」

「賊を剣で威嚇しながら意識の有無を確かめようとしたのです。決して悪意ではありません」

「ではまたふりだしに戻る。どうして賊に真っすぐ歩み寄らなかったんだ?」

「誤解です。自分は賊に向かって歩いたのです」


 マーティンは執事を見た。執事は頷いた。

「メアリ、ちょっと説明してくれ」

そうして衝立の影からメアリが姿を現すと、ジェイクは騒ぎ出した。

「その女だ!そいつが俺に罪を押し付けようとしているんだ!旦那様、そいつを尋問してください」

さすがにマーティンもその言葉に気付いた事があった。

「誰が賊を手引きしたか、と言う問題があってな。メイドで厨房近くで待機しているメアリが賊を手引きするには、協力者が沢山必用なんだよ。結局守衛の人間が手引きをした、と考えるのが妥当なんだ。まあそれはともかく、メアリ、この男が入って来た時の位置関係を示してくれ」


 メアリは黒板に白墨で簡単な位置関係を描いた。

「賊がここ、私は賊と逆側に賊が持って入った両手剣を入口と旦那様の間に向けていました。当然、最初に入って来た者が賊を手引きした人間である可能性が高いから、迎え撃つ準備です。ですから、賊に真っすぐ向かったなら剣で簡単に足を払われる事はありません。女が片手剣を半回転する間に剣の心得のある者が気付かない筈はありません」

マーティンもそれを肯定した。

「だから、メアリが足を払うのにひっかかった段階で、私を討とうとしたとしか考えられないんだ」

その瞬間には気づかなかっただろう、と執事もメアリも思ったが、主人の格好が付かないので黙っていた。


 ジェイクはひたすらメイドが自分を罠に嵌めた、と言い続けたが、当時守衛をしていた人間の証言が決め手になった。

「ジェイクは自分が一度小用を足したいから、お前は先に行ってくれ、と自分を追い出したのですが、自分が守衛所に戻ってもジェイクはいませんでした。だから、ジェイクが賊を手引きしたと考えると納得します」


 尋問の対象者を下がらせた後、執事は疑問を口にした。

「問題は護衛のジェイクがどうしてアーバスノット子爵子息に手を貸したか、ですが」

執事はメアリを見た。

「双方、あまり論理的な人間でない事から、多分衝動的な理由かと思います。男性が身を持ち崩すのは、『飲む、打つ、買う』が理由と相場が決まっております。『飲む、打つ』の現場を調査してみたら如何でしょうか」

「『買う』が不要な理由は?」

「正確には存じませんが、普通、娼館では客同士が顔を合わせる事はないのではないでしょうか。そして、娼館側も客の情報を出さないでしょう」

「そうですね。『飲む、打つ』を調べてみましょう」

 主人にものを尋ねない執事。

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