6.祓魔師
…今日も楽しかったな
私は胸の内を包む温かいものに注意を向けて味わう。この感覚は、充足感は長くは続かない事を私は知っている。
だから、大切に。小さな灯火を手で囲うようにして楽しむのだ。
やがて、じっくり味わい尽くすと私は駅構内の看板と自分のスマートフォンとを睨めっこしながら路線を探し始めた。
もうここに越してきて一年以上経つというのにホームの番号を覚える兆しはまるで無い。覚えたら早いのは分かっている。
しかし、どうも数字と地図を覚えるのは苦手だ。大学の最寄であるここが大きな事もそれに拍車をかけていた。
…三番線、三番線
心で唱えながら視線を動かす。
…!あった
帰れる、とホッと胸を撫で下ろしたその時——。手に握るスマホに着信が入った。
…この電話番号は
私は通路の端に身を寄せ、一息つき気を引き締めてから電話に出る。
「こちら千智」
名を名乗ると如何にも堅物そうな雰囲気を漂わせた滑舌の良い声が響く。
「聖教会所属祓魔師エバン・K・オリバーだ。『イェグディエル』。例の作戦の仔細が決まった。よって、出頭を命じる」
「分かりました、エバンさ——」
応答する間もなく、彼は要件だけ告げると電話を切った。そして、すぐにメールが送られてくる。そこには会議が行われる場所と時間だけが記述されていた。
…相変わらずだなぁ、もう
携帯を耳から離しながら苦笑いをする。堅物な彼は『嗜好派』の吸血鬼に両親を殺された私を自身の孤児院で引き取り、養育した…謂わば、育ての親である。
『吸血鬼を殺せ。君と同じ人を増やさないために武器を取れ』
エバンさんは両親亡き後、虚脱していた私の前に白銀の拳銃を差し出して、冷徹な声でそう言った。
今思えばひどい話だと思う。
まだ何するにしても母親を探すような歳だった私に毅然とそう言ったのだ。ただその言葉が私を喪失から解き放ち、虚ろな心に熱を与えた。
今考えると彼はそうなる事を分かっていたのだろう。
両親が死してから数日後の彼に引き取られたその日。私は状況を理解し、頬を濡らした。
号哭の果てに銃を取った私は彼に習うように聖教所属の祓魔師となった。エバンさんに銃、剣術は基い槍術や神聖術など吸血鬼退治に必要な悉くを叩き込まれ、その中で見習いから下級、上級祓魔師を経て現在はその上の冠位『七天の担い手』となった。
彼も同じく『七天の担い手』。さらには現状、二つしかない『本物』の聖武器『神器』の所持者でもある。
彼は決して強要はしなかった。
両親の死から何年か経ち精神が平静を取り戻したある日、祓魔師を続けるかと問われたことがある。それに頷いたのは私だ。
…行こう、今回の作戦は成功すれば『嗜好派』集団への大きな打撃になる。彼らにもいい抑止力として働くはすだ
私は家へ帰る代わりに指定された座標へと向かった。




