64.終焉
「お友達は良いのか?」
挑発的な声。俺はそれを無視し、真祖に余裕を与えないよう、攻撃の手を緩めないことに注力する。翼が生まれる度に砕き、転移先を無くし、白兵戦を強要し続ける。
…俺に出来ることは何だ
ただ抑えるだけではジリ貧。その時、触覚が小さな違和感を捉えた。そして、脳の中でピースが繋がり、ある仮説を得る。
…この剣
確かめるように再び真祖の剣に槍を交差させると、妙な感触を覚える。確信した俺は、動き出す。彼女の剣をかち上げ、絡め、弾き、叩きつけ…そうして暫く、その時はきた。
ガギンッ!
岩が割れるような壮大な音を立てて、剣が半ばから砕ける。その反動は真祖の体勢を大きく崩し、俺は槍を投げ捨て、手首を掴む。
…今
俺が心で合図を唱えると純然たる銀弾が真祖目掛けて飛翔し、その体へと吸い込まれていった。真祖の体から力が抜け、魔剣が手から滑り落ち、乾いた音を立てて地面に転がる。
「…どう、して」
俺は、戸惑う真祖を離し、ロンギヌスを拾い上げ、彼女に向き合う。
「真祖様、白兵戦、得手じゃないでしょ。今までの攻撃の大半が中から遠距離。だから、武器の劣化に気づけなかった。取り分け、あの武器は貴方が復活してから手にした物。要領を得ないのも頷ける」
過去の記憶の中では『デュランダル』は、『ロンギヌス』と同じく幾何学を取り入れた規則的な細工で、剣身ももう少し長かった。
それは、真祖が自身の血で残りの部分を補った事を意味している。つまり、強度が落ちる。血の能力を強化する剣と言えど、原則には逆らえない。
ならば、それは致命的な間隙となるだろうと踏んだのだ。
「真祖様、悪い。世界のために死んでくれ」
俺はそれだけ言うとロンギヌスを心臓に向かって振り下ろした。やがて槍を伝って巡る高純度の神聖力が真祖の抵抗を超え、その体を薪に焚べる。
「綾人よ、貴様は証明した。自らの道を進む力があると。誇るが良い」
「ああ」
その言葉を最後に吸血鬼の王はその身体を灰に帰した。
「よ、綾人」
「やったね、綾人」
その声の方を向くと、獣化を解いた傷だらけのミロと煤汚れに塗れた千智の姿がある。俺は含み笑いをするとミロに問うた。
「お前、真祖の攻撃、どうやったんだよ」
そう聞くとミロは右手に下がるそれはもうボロ切れのようになった盾を掲げる。
「千智ちゃんの神聖力この盾にありったけ流して、あとは走り回った」
その答えに思わず吹き出す。何が策がある、だ。ただの脳筋プレイじゃないか。
「ホント、ノープランだよね。私も聞いた時、ちょっと引いた。まあ、結果オーライだったけど。ドラグノフ持つと両手塞がっちゃうから、ミロくん居ないとやばかったかも」
その時、床が嫌な低音を響かせた。あまりの揺れに俺たちは立ち竦む。
…そうか、術者がいなくなったから
この都庁神殿とも言うべき場所は真祖の力によって作り出されたもの。術者がいなくなれば、あとは崩壊しかない。空間が捩れ、虚空が生まれる。
「三人とも手を取りなさい」
突如、現れたニコ爺に促されるまま各自の手を握る。俺たちは瞬く間に『門』に吸い込まれ。気づいた時には俺たちの体は地上にあった。
眼前にあるのは崩れ行く深紅の城。緩やかに赤の色彩を失い、吸血鬼が灰塊になるように重力のままに灰色の粒子となって散っていく。まるで初めから無かったかのように、城は空気に溶け、そこには痛々しさを残す都庁だけが残っていた。
その景色が後に『天上決戦』と呼ばれる戦いの終焉だった。




