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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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62.再戦

《——綾人》


 「……うう」


 体を包む重たい感覚。あまりの五感に鈍さに微睡に促されるまま、本能的に寝入りそうになる。だが、刹那の間に耳を劈いた高周波、大気の揺れ、血の臭い。それらが脳に流れ込み、意識が瞬く間に覚醒する。


 俺は体を大きく反らせ、反動で立ち上がると戦場を見やった。そこにあるのは一方的に嬲られる金獅子と弱者を前に高笑いをする圧倒的強者。


 「…綾人」


 一足先に目覚めていた彼女と視線が交錯する。俺は、千智の呟きにただ首肯した。


 「…分かってる。手筈通りに」


 手に握るは最後の『活性アンプル』。この一幕が全てを決める。俺は、それを首筋に打ち込むとすぐさま身体能力を強化し、戦場へ駆けた。疾駆するは一点。


 「『——ここに黙示録を再演す(アルス・テリオン)』‼︎」


 足元の『影』が拡大、収縮。上空から飛来した槍を手にした俺は真祖と金獅子の間に割って入った。そして、振り翳される『赤』の剣を薙ぎ払い、真祖を退かせる。


 「綾人!貴様、まだ生きておったか‼︎」


 彼女の瞳がぎらりと輝き、長い真紅の髪が揺れる。その顔には獰猛さが浮かんでいる。それは然ながら、好敵手の再来を悦ぶ戦闘狂だった。


 「ったく、遅えんだよ」


 体を無数の切り傷に覆われ、体が赤く染まったミロが毒付く。だが、言葉とは裏腹にその顔には微笑が覗いていた。


 「…ミロ、傷だらけのとこ悪い。——策がある。千智の方に行ってくれ」


 俺は正面に向き直ると、心を鬼にし、満身創痍の彼に指示を飛ばす。本当は、これ以上あいつに戦ってほしくはない。だが、この戦いに勝つにはミロの力が必要だ。数多の人がこの戦いに命をかけた。ならば、『今』を生きる俺たちが散っていった彼らに与えられるのは『勝利』という供物のみ。


 僅かな静寂。その時、肩にドッと拳が触れる。


 「任せろ!勝つぞ、綾人‼︎」


 横目で見るミロの顔に浮かぶは、決意に満ちた笑み。体が限界を迎えているのは誰の目に見ても明らか。だが、その体には未だ闘気が猛っている。


 「ああ!」


 俺はミロの躍動に意気軒昂とした声で持って応えた。あいつはそれを聞くとすぐさま、俺の後ろから飛び出し、千智の元に向かう。


 刹那、真祖が口角を歪めた。


 「行かせると思うか?」


 彼女はしなやかに指を振るい、十二の翼をミロと千智に放つ。瞬間、空に白銀の軌跡が浮かび、その全てを迎え撃つ。


 …天使に祝福を受けし、数多の武具よ。今、その真価を発揮せよ


 心のうちで唱えると白銀はその光芒を増し、十二の翼と激突する。相殺された両者の攻撃は、黒煙を上げ、空を流れていく。


 「…そっくりお返しするよ、真祖様。被食者も只で倒れる事はない」


 俺は眼前に立つ真祖を見据え、毅然と言い放つ。


 「若輩がよく吠える。…その手にあるのは『ロンギヌス』か」


 瞬間、真祖は、自身の顔に手を翳し、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに高笑いした。体を反らしながら高らかに声を上げる彼女は、突然、顔に冷徹さを降ろし、ドスの効いた声を響かせる。


 「…先から癪に障っておったが…。聖武器を操り、神器を得て『勇者』を模ったつもりか、綾人よ」


 刹那、込み上げる激怒。こちらを睨め付ける瞳に秘められた形容し難い殺気。凶暴な覇気が辺りを包む。俺は、あまりの凄みに真祖を中心に沸き起こる黒と赤の禍々しい奔流を幻視する。


 俺は、雰囲気に飲まれまいと大きく息を吐き、体の強張りを解くと槍を握り直し、腰を深く降ろし構える。そして、出方を伺うため真祖の瞳に目を合わせた刹那——。


 俺の双眸に何かが飛び込んできた。




 山の中腹に築かれた城が炎上している。時々、内側から眩い光が明滅し、爆発が起こる。


 場面が切り替わる。そこは、だだっ広い天蓋を太い柱が支え、その最奥には三人分はあろうという背もたれに、荒々しくけれど洗練された作りの椅子があった。謁見の間だろうか。


 その場所に何者かが入ってくる。現れたのは右手には長剣を、左手には短剣を携えた一人の青年。


 さらに場面は飛び、長剣が冠を被った少女の胸に突き刺さり、彼女は倒れる。深く傷を負った青年もその場に崩れた。直後、視界にザラついたノイズが走り、再び画面が切り替わる。始まりは城内を数多の足音。現れたのは鎧を身に纏った兵団。


 『突入!…何っ、真祖が倒れている』


 戦闘に立つ兵士が剣に穿たれる少女と青年を見やる。そして、青年の元に近づき剣を逆手に持ち替えた。


 『…吸血鬼が神器を持ち、剰え真祖を撃つなど…事が知れれば、聖教の権威が失墜しかねん』


 その言葉と共に剣は振り下ろされた。


 刹那、映像は暗転し、虚空から言葉が紡がれる。


 『勇者よ、これが貴殿の願いの結果なのか。…もし、私が蘇る事があれば、貴殿の代わりに世界に問おう。人の作る世界は、果たして正しかったのか、と』




 視界が晴れ、目の前にあるは血の結晶に囲まれた屋上。そこには変わらず真祖が立っている。


 …今のは


 「っ!繋がりよったか。忌々しい」


 真祖が舌打ちをし、苦虫を噛み潰したようなひどく不愉快な表情を浮かべる。あの口振りからするに発端は真祖。


 「真祖様、今のは…」


 俺が問いかけると、彼女はしかめ面のまま応える。


 「綾人。貴様が見たのは、『最終戦争』が終わるその瞬間だ。歴史に語られる『四人の勇者』は、聖教が面子を守るために作った虚構。


 …本物はたった一人。唯一、聖剣『デュランダル』と聖短剣『コルタナ』の二振りに認められた埒外の吸血鬼。貴様と同じように、平和と人の世を望んだ凡庸な鬼よ」


 そう語る真祖の顔に一瞬、憂いが差した気がした。だが、次の瞬間、それが嘘であったかのように彼女の顔には、自信に満ちた荒々しい表情があった。


「葬られた過去を知ったのだ。その上で貴様に問おう。この世界は『勇者』が命を賭して、手に入れる価値があったと思うか。嘘と虚構に塗り固められた強欲な世界機構システム。その上に立つ貴様は、何を思う?」


 俺は思わず目を逸らす。事が肥大し過ぎて分からない。超大な話のスケールに只々、頭が混乱する。訪れるしじま。真祖が作り出す無言の重圧が空気を際限なく張り詰めさせ、俺は全身を縛り上げられるような感覚を得る。


 …俺はどうすれば


 すっかり思考は惑溺し、呼吸音だけが煩しく鳴り響く。そんな時、カサカサに乾いた唇がふと動いた。


 「…だから。…だからこそ……じゃないか。虚飾に塗れ、多くの真実が覆い隠される世界だからこそ、真を真と云えた時、そこに価値が生まれるんじゃないか。仮に世界の全てが正しくあったとしたら、その『正しさ』に価値はあるか」


 頭ではなく、胸の内から溢れた真理こたえ。だが、それはパズルピースが空白にぴたりと嵌まるような感覚を生み、丹田にするりと落ちていく。思わず、真祖を見ると鳩が豆鉄砲を喰らったかのようにはたと止まり、先まであった執拗な狂気は鳴りを潜めていた。


 次の瞬間、彼女は無邪気さを湛え、腹を抱えて哄笑する。


 「あははははははははははっ。…そうか。…そうだな、綾人よ。貴様の言うように『正しさ』の価値はこの世界だからこそ輝く。ふっ、そうか。私があの時『勇者』に見た輝きの正体は…」


 どこか清涼とした面持ちの彼女は、含み笑いをしながら、目元に雫を浮かべている。晴れやかさを得た真祖は、その表情とは裏腹に己の翼を再生成。戦闘態勢をとった。


 「綾人よ、いや気高き今世の『勇者』よ。その詭弁を貫くならば、我が屍を超え示すが良い」


 真祖は、厳然たる面持ちでそう言い放った。


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