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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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60.境界

 《——綾人》


 ——???


 目が醒めると俺は真っ白な空間にいた。


 …あれ?俺はさっきまで真祖と戦って……


 千智は。そう思い、辺りを見回すとそばで横たわり、寝息を立てている彼女の姿が目に入った。俺が肩を揺すると千智は額に皺を寄せ、微睡から醒める。


 その時、可愛らしい声が耳に入った。


 「あ、起きた!初めまして。綾人くん、千智ちゃん」


 「あなたは…」


 千智が寝ぼけ眼で反射的に問う。眼前にあるのは肩から掛けた布…トガだろうか。それを羽織った少女の姿があった。琥珀色の瞳に透き通るような白の絹髪。妖精を想起させる色素の抜けた肌。そして、何より歪な頭の上で浮遊する光芒を放つ輪。


 俺は、その人離れした容姿に不気味さを覚え、同時に本能的な忌避感を得た。


 「私は…えっと名前ないな」


 丸っこい顎に人差し指を当て、点を見上げ考え込む仕草をした彼女は、何か閃いたのか「あっ、そうだ」と、パッと明るい声を響かせる。


 「エル。うん、これがいい!私は『エル』。君たちが天使っていう存在だよ〜」


 「えっ!」


 腰に手を回し、体を仰け反らせる少女。それに驚く千智。そんな『敬え!』みたいな露骨な主張をされても…と思う俺を他所にエルと名乗る彼女は話を進める。


 「あっそうだ!時間ないんだった!二人とも立って!立って!」


 促されるままに俺たちはその場で立たされる。そのままエルは歩き出し、俺たちは互いに顔を見合わせてから頷くと、とりあえずついて行くことに決める。


 「私さ〜、ずっとね。綾人くん達見てたの。『えっ、鬼と祓魔師が恋愛⁉︎大丈夫!』って」


 突然振り向く彼女から俺たちは反射的に視線を外す。他者に恋模様を見られるのは、たとえ天使と言えど、恥ずかしい。


 「でも、二人ともすっごく幸せそうだから、応援したくなっちゃって。綾人くんが吸血鬼ってバレてちょっとヒヤッとしたけど、それでも二人、仲良しだったから凄いな〜って思ったよ」


 満面の笑みをこちらに向けるエル。そこに他意はない。純粋に俺たちの成就を喜んでくれているのだ。俺は思わず微笑む。


 「あっ、ここ!」


 少女は何もない所で止まった。相変わらず景色に変化はなく、遮蔽物のない白の空間がただただ続いている。


 「なあ、エル。俺たちは生きてるのか?」


 俺はふとそう聞いた。未だ状況は飲み込めていないが、長らくこの環境にいるからだろうか。次第に考える余裕が内に生まれるのを感じる。


 「うん、まだ生きてるよ〜」


 彼女は中空に液晶のようなものを出すとそこには真祖の城——都庁の屋上が浮かぶ。そこに蠢く二つの影。


 …俺たちがいないんだったら。一体誰が


 疑問を呈した直後、それに応えるように映像が拡大され、戦闘が写し出される。そこにいたのは血まみれの金獅子。


 「…誰」


 「ミロだよ、あいつは獣化の異能持ちだ。あいつ、真祖直属部隊の獅子将軍(ライオネル)。その直系の子孫なんだ」


 そう応えると、千智は率直に驚く。


 「えっ。ミロくん、そんな凄い血筋だったの。多分、強いんだろうな…とは思ってたけど」


 この反応は自然だ。吸血鬼の最優良家系。本来なら国が監視する対象。聖教からすれば、いつ暴発するか分からない爆弾を野放しにしていたようなものだ。


 だが、これには訳がある。ミロの出自が判明したのは、穏健派が彼を保護した後の話。これまでニコ爺が懐刀として隠匿していたのだ。


「そうそう。今だから言うけど『同族殺し』は三年前に死にかけて、穏健派に捕まってね。ミロはその血筋と強さから俺の『監視官』に選ばれた。だから、一緒に住んでたんだよ」


 この戦いの行く末がどうなろうと、すでにミロの秘匿は難しい。そう判断した俺は包み隠さず全てを語った。


 「あ、そうだったんだ。でも監視官と監視対象の間柄にしては仲良いよね。綾人とミロくん」


 「俺たちはニコ爺の施設で一緒に育ったから。幼馴染…いや、腐れ縁みたいな。そんな感じ」


 その時、映像を見ながら、与太話に興じていた俺たちをエルの声が制止させた。

 「もういい?ちょっと急ぎたいから本題に入るね」


 エルが虚空に手を翳すと、キーボードとモニターのようなものが現れ、彼女はカタカタと打ち込みを始める。彼女はその手を止めずに口を開いた。


 「私ね、綾人くんに渡したいものがあったの」


 「渡したいもの?」


 俺が疑問符を浮かべると、グラフやプラグラムが乱立する画面を見ながら、首肯する。


 「うん。『ロンギヌスの所有権』」


 さも当然のように繰り出されたその言葉に俺は絶句する。思わず、横を見ると唖然した表情を浮かべる千智が目に入った。


 「…ロンギヌスの所有権」


 「うん。それを渡すには、どうしても綾人くんにここに来てもらう必要があってさー」


 俺が復唱すると、エルはここがどんな場所なのか、俺たちが何故ここにいるのかを話し始めた。


 曰く。ここは現世と天界の狭間『境界』と呼ばれる場所らしい。死に向かう魂が天界に向かう通路。そして、天使が下れる最下層。許可なく現世に赴く事は出来ないとエルは言う。


 「だから、綾人くんにはここに来てもらったの。…私が来れるのはここまでだから」


 エルは申し訳なさそうに声色を暗くする。理屈は分かった。だが……。


 「どうして俺はここに来れたんだ?」


 その問いに彼女は即座に答える。


 「体と魂の繋がりが薄くなったからだよ。ここは時間を超えた空間。人が『四次元』と呼ぶ場所なの。体と魂が強く繋がってると、どうしても世界に流れる『時間』の影響を受けちゃう。そうすると魂は三次元に縛られる。


 人がここに来るのは『生まれる時』と『死ぬ時』だけ。そして、魂の初期化を経て、再び現世に送り返される。それが輪廻の仕組み」


 …だからか


 俺たちがここにいるのは、意識を失い体を離れたから。そして、エルはその機会を伺っていた……。


 「エル、俺たちが真祖に殺されて、あの世行きになったらどうするつもりだったんだ?」


 すると彼女は眉を顰め、一瞬手を止める。逡巡するような間が訪れ、切り替えるように息を吐いたエルは再びキーボードを打ち始めた。


 「…そこは賭けだった。でも、真祖なら瀕死にしてから殺す可能性が高かった。アーカイブで見た真祖は強い人に敬意を払ってたし、綾人くん達は真祖に唯でやられるような人じゃないって信じてた」


 柔らかく落ち着く声音で呟いた。やがてエルが手を止め、虚空に四角形の箱が現れる。彼女がそれに触れると同時に箱が紐解かれ、中から長方形のカードが出現した。


 「はい、綾人くん。これがロンギヌスの所有権。あとは槍が君に応えてくれるかどうか。頑張って」


 差し出されたカードに手を伸ばし、受け取るとそれは仄かな光を帯び、体の中に溶け込んでいった。


「あとこれは千智ちゃんに」


「えっ」


 静観していた千智は驚きながら、恐る恐る手を伸ばす。相手は信仰の対象。慄くのも無理はない。エルの手に触れた瞬間、突如として千智が崩れ、俺は慌てて体を支える。


 「エル、何を…」


 俺は困惑した視線を彼女に向ける。


 「千智ちゃんの魂を経由して、『純粋な神聖力』を体に届けたの。千智ちゃんは適性が高いから少しだけなら、薄めたのじゃなくて『本物』を使える」


 エルの言葉を聞きながら、俺は千智の顔を覗き込む。瞑られた瞼がピクリと動き、彼女はゆっくりと目を開いた。


 「大丈夫?」


 「うん。ちょっとびっくりしただけ。…ありがとうございます、エル様」


 「いーよ、全然気にしないで。私がやりたくてやってる事だから」


 エルはこちらに向き直り、顔の近くで両手を振りながら、眉根を上げる。それから再び宙に浮くモニターとキーボードの方を向き、一つのボタンを押した。


 するとまっさらの空間の中に光芒を放つ扉ほどの発光体が現れ、俺はあまりの眩さに目を細め、眼前に手を翳す。徐々にその光量になれ、警戒を解くと後方からエルの声が響いた。


 「あれは現世に続く扉だよ。それじゃ頑張ってね。私は祈る事しか出来ないけど」


 直接、干渉出来ない事が歯痒いのか、エルは唇をキュッとキツく結んでいる。


 「大丈夫。ここまでお膳立てしたもらったんだ。勝つさ」


 「天使様の祝福を直接受けて、負けようものなら、他の祓魔師に合わせる顔もありません」


 互いに強気の言葉を返すと俺たちは手を繋ぎ、光の門へと足を踏み出した。


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