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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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59.獅子奮迅②

「はぁ…お婆ちゃん、知ってる?変身中は待つのがマナーなんだよ」


 新たに生まれる筋繊維がミロの体を覆い、その表情を隠す。次の瞬間、真祖の前に現れるは、二足で立つ猛獣。長く荒々しい鬣が弧を描いて、末端で逆立ち、肥大した体が服を内側から引き裂き、腰下を残し消失。彫刻のように鍛えられた身体が露わとなる。


 「全く、今になって登場とは少々遅いのではないか」


 「何の。主役は遅れてやってくるもんって相場が決まってる。それにちょっと野暮用があって、ね」


 刹那、接敵。拳と拳が衝突する。瞬間的なせめぎ合い。だが、次の瞬間、真祖の腕が交点から右に左に折れ曲がる。力は同じ。だが技量に差があった。ミロが扱うは、ニコが考案した体の内に力を集約させる対吸血鬼闘法。


 吸血鬼は上位になればなるほど再生能力を帯びていくが、外部の損傷と内部の損傷とでは回復速度に大きな差がある。これはそこに着目した戦い方だ。内部に衝撃を与えるのが目的のため、副次的に力の伝え方が上手くなる。それ故、真祖との拮抗に勝利したのだ。


 …白兵戦は、ちと分が悪い


 直感した真祖は『置換』にて距離を取ると、翼を生成。十二の羽に分け、指示を下す。


 「行け」


 一本一本が意志を持つようにミロの方を向くと、すぐさま突貫。一つ一つは大振り。しかし、その間隙を補うように十二の刃が中空を踊る。ミロはそれを逸らし、壊し、迎撃するも、壊れた側から再生するためイタチごっこの様相を呈す。


 「んなぁ!洒落臭い」


 ミロは迫る羽を瞬く間に叩き落とすと、瞬間、僅かに生じた隙間から包囲を脱する。そのまま体を極度に前傾させ、地を駆け、真祖へ猛進する。亜音速にも匹敵する速度で近づいた彼は手刀を構えると彼女に向かって直角に振り下ろす。ミロは次の瞬間、目を見張った。


 眼前にあったのは半ばからひび割れた一枚の羽。


 …そうか…!


 彼は即座に相手の意図に気付き、反転。そこには憂慮の通り、真祖の姿があった。


 「遅い」


 血で作られた剣の一閃。ミロは咄嗟に腕の前で十字を組むも、直後訪れる痛烈な痛み。真祖の膂力も相まって、ミロはその場から吹っ飛ばされる。


 結晶の壁にめり込んだミロは、ずるずると落ち、息を荒げながら立ち上がる。傷は中々塞がらない。攻撃の際、付着した真祖の血が絶えず、攻撃を加え再生を阻害する。だが、それは問題ではない。身体が動くならミロの中では軽傷だ。それよりも…。


 …どうして気づかなかった


 あの羽はただの飛び道具ではなかった。真祖は近接戦では物と物を入れ替える『置換』を使う。翼は敵を追尾する刃であり、全てが真祖の任意の『置換』先。あれ自体が常に相手の死角を取り続けられる必勝の陣なのだ。


 …どうする


 ミロは綾人と千智が倒れる方をチラリと見る。


 …まだか


 彼は胸中で歯噛みするように呟くと、改めて真祖を見やる。彼女は羽を背に背負い、こちらへ向かって来ている。明確に迫る死の予感。黒装束に血のように赤い髪。一対の体ほどもある翼。手に握られた長剣。頭の上に浮かぶ半円の輪。


 …まるで悪魔だ


 あまりに稚拙。されど、的確な表現だった。遠距離攻撃は綾人と千智の戦いを見て知っている。あれを対処する手数は今のミロにはない。それでも彼は諦めなかった。あの絶望的な状況で戦意を失わなかった友を知っている。そして、もう一つ。彼の中に燻るものがあった。


 …今度こそ、あいつを守るんだ


 高校在学時、『嗜好派狩り』に走った友を止められなかった自分。予感は常にあった。『穏健派』が強いる後手の対応に綾人が葛藤しているのは分かっていた。それでも見て見ぬ振りをした。過去は変えられない。けれど、未来は幾らでも選ぶ事ができる。


 「ほう、まだやるか」


 息を吐き、両手を交差させ、構えを取るミロ。それに真祖は興味を示す。


 「不思議だな、負けると分かっていて何故立ち上がる?」


 真祖の剣の切先が彼を差す。


 「お婆ちゃんにはわかんねぇだろうよ。『人』には引けねえ時があるんだ」


 真祖は不敵に笑う。そして、目の前に立つ強者を前に文句を垂れた。


 「全く、今時の『人』とやらは諦めが悪いな」


 「そりゃ、何たって『人』だからな」


 視線が交錯し、そして、蹂躙が始まった。


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