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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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52.今と過去の妄執

 足音が消えた展望台で『穏健派』と『嗜好派』集団が互いに睨みを効かせる。その船頭を取る二人は、緊迫した状況を物ともせず、悠然と踏み出し、問答を始める。


 「追わなくてよかったのかな?ダニエル殿」


 「ククッ。追うも何も彼奴らが真祖様に勝てるはずがない。無論、私にも、だ。」


 双方が相手の出方を見ながら、間合いを詰めず横に歩く。


 「それにしても態度がデカくなった。弱さ故に『勇者』に泣きつくしかなかった鼠がここまで大口を叩けるようになるとは…。驕ったか、ニコ」


 揶揄うように言葉を紡ぐダニエル。その手足には『影』から漂う瘴気が纏わりつき、甲殻類を思わせる装甲を形作っていく。対してただ杖を打ち鳴らし、その場を歩き続けるニコ。


 彼は一呼吸置き、ゆっくりと話しだす。


 「驕りはないとも。どうも歳をとると、講釈を垂れたくなるのが『人間』らしい。自分が生きた証をどこかに残そうという本能の発露なのかもしれない。血を啜り続ける貴殿には決して解らぬ感覚よ。


 それに『鼠』という言葉は貴殿の方がお似合いだ。数百年もこそこそ人の世を生き抜く意地汚さ。『鼠』以外にどう表そうか」


 「言うようになったじゃないか、ニコ。まさかお前に一本取られる日が来ようとは」


 鼻息を鳴らし、関心を示すダニエル。だが、言葉と裏腹に癪に触ったのか、ダニエルはその体からは怒気を滲ませる。


 「一本も何も事実ではないかね。変化に順応せず、過去に固執するとは。そう価値観を引き摺っていると今の子達に『老害』となじられてしまう。今のトレンドは『多様性』だとも」


 ニコがシルクハットの縁を人差し指でクイと上げ、覗く片目がダニエルを睨む。その瞬間、空気が軋み、彼の『影』が渦巻き、禍々しい気流を生み出した。


 「多様性?自己主張を正当化する雄弁にしか聞こえんわ!」


 刹那、黒き閃光が走り、ニコと激突。そのまま後方の壁にすっ飛んでいった。壁が破砕し、煙が舞う。遅れてくる衝撃波が視界を晴らし、ようやく状況が詳らかとなった。振り抜かれた手刀と拮抗する杖の腹。弾丸の如く打ち出された貫手をニコは、事もなさげに受けていた。


 ニコは、杖を僅かに逸らし、ダニエルを内に引き込むとその体を右足で蹴り上げる。体勢を大きく崩されダニエルは、防御が間に合わず衝撃のままに体を曲げる。


 即座に中で体勢を整えようとするも、軌道上に『影』で転移したニコが強襲。振り上げられた足が落とされ、ダニエルは地面目掛けて途轍もない速度で射出される。


 しかし、今度は体を翻し、両足で地を受けると、床が波状に割れる中、彼は跳躍。武装した右手を振り抜いた。宙にニコの体を捉えるも——手応えはない。


 「…幻影か」


 「左様だ。ダニエル殿」


 中空に佇むダニエルの呟きをいつの間にか展望台中央に座していたニコが拾う。ニコとダニエルの交錯が引き金になったのだろう。すでに至る所で戦闘が始まり、早くも混迷の様相を呈す。


 「お得意の『幻影』か。勇者を城に導いた忌々しい術よ」


 地に降り立ったダニエルは眉を吊り上げ、毒付く。


 『幻影』。


 『影』の残像を残し、囮を生成する他、纏うことによって周囲から姿を消す事も出来る術。ニコが真祖の直属部隊で斥候として活躍し多くの戦果を上げた所以であり、『勇者』を城に導き、吸血鬼の時代を終わらせた革命の狼煙でもある。


 それはニコを象徴する能力だった。


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