49.強さ故の
「…不愉快。ねえ貴方。誇りはないの。天使の力に吸血鬼の力。両方使うのってそれ凄い冒涜じゃない?」
「…矜持で人が救えるのか?俺は手段を選ばないだけだ」
「ああ、貴方と喋ってるとホントイライラする」
自身を変えず我儘を通し続ける相手。変化を是とし手段を選ばす受容する自分。鬱憤が溜まって当然だ。在り方が違いすぎる。
…だが、そんなことはどうでもいい
戦場における区別は二つしかない。敵か、味方か。それだけだ。
俺は足を振り抜いた刹那、『影』に溶け込み、相手の死角の『影』から躍り出る。
「だから——嫌がらせしちゃお」
少女が不敵な笑みを浮かべる。首を両断せんと横凪いだ剣を止めるは虚空から生み出された『槍』。
…円月輪以外も。なるほど、俺の意趣返しって事か
俺は跳ね返る力のままに宙で一転。手の無い右手を彼女に向けると次の瞬間、回転する手斧が逆側から首を狙う。それを弾くは図太い大剣。
俺は『影』から『影』への転移を繰り返しながら、周囲から武器をかき集め、急所を狙う。だが、それは新たに生み出される武器に阻まれ続ける。
攻撃の最中で打開策を考える。このままだと膂力で押し切られる。相手の手数は無限に等しく、却ってこちらは有限。この場の聖武器がなくなれば、仕舞いだ。
…相手の弱点はなんだ
手を緩めず、俺は観察を続ける。その時、僅かな切り傷が目に入った——気がした。いや、間違いなく入っている。今、目前で入った新たな傷がコンマにも満たない速度で再生された。致命傷こそ受けていないが、相手はこの近接戦の中で手傷を負っている。
そもそも始めに入った頬の傷は何故入った。ただの偶然か。
…いや、違う
脳内で再生し、気づきを得る。恐らく彼女は高過ぎる治癒力と攻撃性能のせいでその弱点が分かっていない。俺は相手の致命打にならない場所に攻撃を入れ、推測を確信に変え——動き出した。
『影』から姿を現し、右半身に攻撃を入れると同時に柄から手を放し、踏み込む足の衝撃で『影』から浮き出た拳銃を掴み、全自動で乱射する。剣は躱され、銃は生成された盾に防がれる。
その時、少女の背後の『影』から出た黒蛇が白銀の牙が輝く顎を開き、彼女の半身に噛みついた。神聖力を宿した四対の短剣で出来た大顎は動けば動くほど、少女の柔肌を引き裂いていく。
俺は打ち切った銃を捨て、盾を足場に翻り、着地。手を地面につけ『影』を操り、トドメとばかりに四方八方から聖武器で串刺しにした。
「…どうして」
白銀の檻の中で彼女は自分の傷には目も暮れず、ただ瞠目していた。どうして攻撃を受けたのか、分からない。私が負けたのか分からない。目は見開かれ、口がわなわなと動いている。
混乱。その言葉を絵に描いたような様相だった。
やがて武器から放たれる余りある神聖力の奔流は彼女の体を内側から崩壊させ、真紅の炎が忽ち上がる。
彼女の弱点。それは『経験不足』。
武器の生成を一度のタイミングでしか出来ない事。
それ故に迎撃に体で一手、武器による防御で二手。ここで上限となり、三手目がないのだ。同時に三手以上の攻撃を捌けない。能力を拡張し、武器の生成を相手の攻撃に合わせればいいだけなのだが、それが出来ない。加減が効かない。緻密な操作が行えないのだ。今までその機会がなかったのだろう。
何せ、彼女は強すぎた。吸血鬼としての素養は勿論、身体能力、『血』の力、『影』の強度も圧倒的。それ故に碌な戦闘経験を積む事が出来なかったのだ。否、積む必要がなかった。有り余る暴力を振るうだけでよかった。
「どうしてどうしてどうしてどうして……」
俺が近づくと少女の小さな呟きが聞こえる。すでに四肢は灰塊と化し、皮膚の至る所にひび割れが起きている。
戦闘経験をしっかり積んでいれば、この『詰み』の状況に陥る間際に胴か、頭を自分で吹っ飛ばして再生するという芸当も出来るのだが、彼女には無いものねだりだ。
俺はまだ形を残す頭に銃弾を穿ち、火の気が強まるのを確認すると千智の元に駆け寄った。




