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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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48_ここに黙示録を再演す

 『誰か、イェグディエル様が!』


 40F付近を過ぎたその時、物々しい悲鳴が無線越しに木霊した。俺はアンプルを首筋に打ち込み、足を振り抜き一目散に階を重ねる。


 そして至る45F。出入り口から内部を見やるとその中央部。炎がなたびく中心に横たわる彼女の姿を視認する。


 …間に合えっ!


 俺は脱兎の如く駆け出しながら『影』から聖剣を取り出し、敵と千智の間に割り込む。そして、振り翳される円形の刃を迎え撃った。剣を振り抜いて破砕し、腹で滑らせていなす。


 …手数が足りない


 俺は足元から聖武器を持った『影』を伸ばし、三つで持って攻撃と相対する。辺りに響く無数の剣戟。まるで終わりがないように思える武器の雨に頭が沸騰する。後ろには絶命の思い人。一つのミスも許されない。


 武器を交差させ、破砕されればまた次を取り出し、残れば切り返し一撃を入れる。弾丸のように弾き出される円輪をひたすらに迎撃し続ける。


 「おおおぉぉぉぉぉ!」


 処理速度を超えた情報は雄叫びとなり、俺はただ意地で腕を、『影』を、限界を超えて動かし続ける。やがて、暴力の雨が止んだ。


 「…はぁ…はぁ。…大丈夫?千智」


 あまりの攻防に滝のように汗が流れる。既に疲労は極限に達している。だが、俺は息切れを飲み込み、下がる口角を引き上げ、彼女に声をかけた。


 「…どう、して」


 絞り出される声に気付き、目端で彼女を捉える。修道服は所々煤汚れ、状況が飲み込めないのか、顔には困惑が浮かんでいる。無意識だろうか。求めるように伸ばされた手は力無く倒れようとする。俺はその手を掴み、ただ一言をかけた。


 「ちょっと待ってて。アレ、倒してくるから」


 その時、駆け寄る聖教の祓魔師が見えた。倒れる千智を前に膝を突き、神聖力を両手に集中させ治療を始める。


 「あの貴方は…」


 ——どこの所属ですか


 「千智の治療に集中してください」


 俺は続くはずの言葉を遮り、『影』をドーム状に変形させ、彼女らを覆う。


 それが済むと俺は敵の前に歩み出た。辺りは散らばった炎輪により炎上し、さながら闘技場の様相を呈す。味方の吸血鬼も多数巻き込んだようで、火の中には少なくない真紅の炎がある。聖教は生き残った吸血鬼と交戦していた。


 「ねぇ。私、千智と遊んでたんだけど」

 ——邪魔しないでくれる


 突然の介入に腹を立てる少女を前に俺は静かに怒気を滲ませる。


 「…君は誰かを思った事があるか」


 「…急に何?」


 少女の炎に包まれた腕の燃焼が激しくなる。こちらに冷ややかな目を向ける彼女は、玩具を取り上げられ、拗ねる子供のように思える。


 「…そんなのどうでもいい。私はただ楽しければそれでいい。それを邪魔するやつは嫌い」


 一拍の後に彼女は、自身の価値観を口にする。


 「だから、貴方は大嫌い」


 俺を指さすと共に背から炎が放たれ、激情を示すように燃え盛った。極度の温度変化に上昇気流が発生。体が相手に引っ張られそうになるのを足と地面を『影』で縫い付け耐える。


 やがて暴風が止み、先ほどとは比にならない円月輪が生成される。


 「俺も嫌いだよ。人の気持ちを考えられないような化け物は」


 「そ、奇遇ね」


 彼女の瞳が見開かれたと思った次の瞬間、炎の円環が放たれた。そして追従するように少女がこちらに突貫する。


 激突の寸前で止まり打ち出される回し蹴りを身を屈めて交わし、低い姿勢のまま地に手を付き唱える。


 『——ここに黙示録を再演す(アルス・テリオン)

 瞬間、俺の『影』が全方に拡大、刹那に収縮。地面からは七つの蛇の形をした『黒』が立ち昇る。それは戦場から巻き上げた聖武器を加えると無数の攻撃と相対した。

 壊れれば、代わりをその場で調達し、戦い続ける蛇の群れ。『影』が薄いがためにあらゆる『影』を己が者とする弱者故の奥義。


 …さっきは出す余裕がなかった、奥の手


 地面についた手を放し、体を捻り、少女の顎に蹴りを見舞う。しかし、それは首の捻りで躱され、空を切る。後傾する彼女の手に『血』が蠢き、瞬く間に円の型を成す。そして体のしなりを利用して跳ね上がり、両手に握る円月輪を交差させた。


 俺は一対が重なった瞬間に合わせ、左手に握る剣で受ける。そのまま腕に力を入れ、反動を使って距離をとった。地面を滑る刹那、『影』に触れ、貯蔵された剣を投擲し、訪れる間隙を埋める。


 恐らく弾き出した刹那が一段落と思ったのだろう。少女は一瞬遅れて、射出された剣を迎撃する。その時、撃ち漏らした一つが少女の顔を掠め、頬から雫が伝った。血は傷口へと遡り、跡形もなかったように消える。


 赤雷と白光が齎す暴風が止み、蛇は『影』へと還る。唯一、更地を残す広間で俺たちは互いに構えをとった。

 

 「…不愉快。ねえ貴方。誇りはないの。天使の力に吸血鬼の力。両方使うのってそれ凄い冒涜じゃない?」


 「…矜持で人が救えるのか?俺は手段を選ばないだけだ」

 

 嘲る言葉の応酬。瞬間、少女が額に青筋を走らせるのが分かった。

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