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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第四章_真を真と云えるから

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47.意志

 中は戦いが起こっていると思えないほど静けさに満ちていた。

 俺はこれを好機と捉え、螺旋階段を越え、高層階へと続く非常階段へ。壁を蹴り上げ、階上の壁で切り返しながら、階を重ねていく。


 時折、罠や俺と同じように闇に紛れやってきた吸血鬼を屠りながら、一直線に上階を目指す。


 「…っがは」


 その時、異常が起こった。中空で胸がムカつき、体勢を崩した俺は壁に背を打ちつけ、踊り場に転がる。異物を吐き出すように咳き込むと一帯には赤が広がった。


 血潮だった。


 急速に荒くなる呼吸の中で右手に熱を、そして頭が酩酊するような感覚を覚えた。理由は明らかだった。


 …『活性アンプル』の過剰摂取


 活性アンプルは吸血鬼細胞を活性化させる。即ち、『聖痕』に残る神聖力も活性化し、同時に体を蝕み始める。吸血鬼としての特性が高まるほど強く神聖力による浄化作用が働く。


 より早く戦場へ至るため俺は都庁に入ってから『アンプル』の効果が弱まる度にそれを打った。最も襲撃への対策という側面もあったが。


 …これが急がば回れってやつか


 急げば事をし損じる。それを体現したかのような状況だった。


 …もう少し持つと思ったんだけどな


 副作用は覚悟の上だった。体が持つ方に賭けたのだ。

 俺は壁を伝いながら、上体を起こし凭れる。



 《聖教無線》

 『そっち行ったわ!』

 『…ああ、もう。どいつもこいつも並以上、統制もそれなりに取れてるときた。やってらんねえな。っ!またへましやがった。窓際に陣地作成!急げ』

 『イェグディエル様が相手している者以外は大した事ないぞ!気張れ、皆の者!』

 


 《『穏健派』無線》

 『キリねえよ。ったく』

 『そうは言ってもやるしかねえよ。…本当は聖教と合同で大元叩けりゃいいんだが。こんな時にも人間だの吸血鬼だの。反吐が出る』

 『…それは言わない約束だろ。公爵も言ってたじゃねえか。『その時』を待てって』

 『だな』



 …外は余裕あるのか


 焦燥が強制的に解け、無線が明瞭に聞こえるようになる。穏健派はまだ雑談をする余裕があるらしい。『その時』という言葉は気にはなるが、後回しだ。


 問題は聖教の方。『イェグディエル』は確か、千智の事。さらに気がかりなのは『降下作戦』に関する無線が全くない事だ。


 …早く助けに行かないと


 彼女が強敵と戦っているなら尚更だ。俺は両足に力を入れて、左腕で体を支えながら、立ち上がる。数歩歩いて踊り場の表示を見ると今いるのが32Fだと言うことが分かった。


 「はぁ…はぁ」


 残りは十階分と少し。俺はただれ、腕まで痺れる右手をぶら下げながら、階段を登る。込み上げる疲労から加速度的に焦点が合わなくなり、ボヤけ朧げとなる視界が揺れる。


 持ってきたアンプルも残り少ない。戦闘開始まではこの激痛に耐えねばならない。


 ——どうしてそこまでする?


 ふとそんな問いが奥底から湧いた。


 …どうしてか


 だが、不思議と疑念を抱かない。既に答えは決まっていると言うように。しかし、皆目見当が付かない。この無根拠の自信は何だろうか。


 足を止めず考える。耳は遠くなり、既に音声はジリジリとしたノイズに変わっている。


 …きっと好きだから、だ。


 彼女には死んでほしくない。心の底から生きていてほしいと思っている。その答えは胸に暖かさを宿す。思わず、口角が上がった。


 ——なぜ


 論理的な理由はない。けれど、強いて言うなら。


 一緒にいて楽しいと思った。


 彼女と一緒にいると本当に楽しい。仏頂面の彼女がふとした時に笑ったり、興味ある話を延々している時の生き生きとした表情をする彼女が愛しい。


 こないだのデートみたいに上手く行かない事もあるけれど、それは話し合えばいいだけだ。


 最近、彼女がもっと近くにいたらという想像が日常に中にふと現れる時がある。彼女がいる生活が長く続けばいいと思うし、幸せに暮らしてほしいと思う。そして、彼女が俺がいるを『幸せ』と捉えるならこれ以上嬉しい事はない。


 だから、これは俺の欲(エゴ)だ。大好きな人にただ生きていてほしいというそれだけの。


 人は誰しも欲の中に生きている。


 怠惰が好きという人がいれば、性愛が好きだという人もいるし、誰かの幸せを願う人や地位を高める事に酔いしれる人もいる。誰しも自分勝手で、けれど尊い欲。それが今、俺の中では『ただ彼女に幸せに生きていてほしい』という願いなんだ。


 その時、体がふと軽くなり階段で躓いた。軽くなった半身を追い、振り向くと階段にドス黒い軌跡が残っていた。


 …何が?


 階下の踊り場で止まったそれを注視し、気づく。…腕だ。俺の腕。腐り落ちたからだろうか。不思議と痛みはない。むしろ病巣が取れてやや体が快調に転じているように感じる。


 …無い物を惜しんでも仕方がない


 俺は半ばから無くなった前腕に包帯を巻き、先を急ぐ。


 『誰か、イェグディエル様が!』


 40Fに差し掛かったその時、物々しい悲鳴が無線越しに木霊した。


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