41.エマニュエル
——十時間後
冬特有の木枯らしが私の頬を撫でる。ふと空を見上げると星々が目に入る。東京は大惨事だと言うのに、彼らにとってはどこ吹く風、現世の歴史の一片に過ぎないのだろう。全く嫌気が差す。
…よし
弾倉、装備の確認——問題ない。今、東京都庁のエントランスには祓魔師の一団がある。全国各地から集められた精鋭。
日本各地の吸血鬼の勢力には大小があり、本部が綿密な計算を行い、最大限の戦力を集めたのだ。その中には緊張と不安、そして意地と高慢とが入り乱れている。
作戦はこうだ。
まず、上空から玉座を強襲部隊と地上部隊とに分かれる。強襲部隊は日本の他、総本部から派遣された世界各地の部隊が到着次第、降下。そのまま真祖を叩く。
作戦名:『エマニュエル』
この作戦は非常に良く出来ている。まず地上部隊を派遣し、注意を引く。その最中に上空からの襲撃。吸血鬼側は地上と上空その両方への注意を強要される。
…それに勝ち目がないわけではない
東京都庁は歴代、真祖の要石としての役割も担ってきた。それ故に真祖の迎撃手段も存在するのだ。北棟、屋上に備え付けられた超弩級砲台『ユスティノス』。神聖力を最大限まで貯蔵したタンクを使用した砲撃は正しく必殺と云える。
床下に隠されていたからだろう。聖教のシステムにより、損傷がない事は確認済みだ。
——そしてこの作戦の肝は私
私が『七天の担い手』となれたのは、類稀なる神聖力の適正ともう一つ。ドラグノフによる超長距離狙撃が可能なことにある。その実績から今回、砲手として指名されたのだ。
故に上空からの強襲部隊は真祖の注意を弾き続ける必要がある。そこを私が突く手筈だ。
「…フゥ」
作戦の流れを確認し深く息を吸って吐く。すると丁度、耳元の無線が通信音を鳴らした。
『総隊長を務める草薙だ。作戦の概要は…まあ、みんな知ってるか。今回の戦い、よく本部の要請に応じてくれた。感謝する。
この戦いは人と吸血鬼の文字通り『生存競争』だ。四百年前の『最終戦争』と同じく、だ。全く、こんな外れくじ。嫌になるよな』
すると周りからくすくすと含み笑いする声が聞こえてくる。不思議と全体の緊張が和んだ気がした。確かに度を越えた緊迫は強迫観念足り得る。指揮官も半分狙っているのだろう。
それから暫く、辺りが静かになるのとほぼ同時に彼は語りを始めた。
『でもな、人には引くに引けない時がある。今がその時だ。こう言う時のために俺たちは国から安くない補助を受けている。
その補助も元を辿れば、一般人の懐からだ。義理人情ってのがあんなら、今が使い時だ。混沌の時代に逆行するか否かは、ここで決まる。気い引き締めていけよ、お前ら!』
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
威勢いい気合いの入った声がそこら中から上がる。指揮官の演説により、士気は最高潮だ。かくなる私自身も周囲の熱気に当てられ、気分が高揚する。
「そんじゃあ——突撃だ」
その声を合図に真祖討伐作戦『エマニュエル』は始まった。




