39.終焉の鬨
アドレスは——聖教
私は、ミロくんに画面を見せてから恐る恐る電話に出る。そして、彼も自身の携帯をとった。
「こちら、千智です」
『イェグディエル、今何処にいる!』
焦った余裕のない声で怒鳴りつけるのは、一人の幹部。ミロくんも誰かと話しながら、ローテーブルのリモコンをとり、テレビをつけてチャンネルを回す。
「と、友達の家ですが…」
尾行の可能性が脳裏を過ぎり、言葉に詰まる。しかし次の瞬間、耳元に響いたのはその何倍も凄まじい事だった。
『真祖が復活した!』
「え?」
『だから、《《真祖が復活した》》。恐らくウリエルは既にこの世にいないだろう。——これはテレビ放送か。では、イェグディエル、ニュースを回せ。それで分かる。状況を確認次第、本部に出頭願いたい』
「…りょ、了解しました」
電話はブツと切られ、後にはツーツーという無機質な音だけが残る。
私は携帯を置き、テレビ中継に目をやった。丁度、繰り返し放送の頭だったようで画面下部にテロップが映し出される。ミロくんは相変わらず電話中だが、その視線はテレビの方へと向いている。
『速報です。吸血鬼の『真祖』と名乗る人物が東京都庁を襲撃。都庁の一部を破壊し、赤黒い巨塔が出現しました。『血の城』とも呼べるその建造物は伝承に伝わる『一夜城』のようにも思えます』
中継する映像は大きなブレと共に静止する。考えたくはないが、恐らく吸血鬼側の攻撃によって撃墜されたのだろう。
『——一夜にして都市は滅び、暁と共に鮮血の巨城が築かれた』
そこに映っていたのは伝承を彷彿とさせる城だった。荊のような無数の棘を宿す巨槍に内側から貫かれ、氷のような透き通りを見せる赤い結晶で建物全体が覆われている。
第一庁舎の特徴的な窪みは隆起し、一対の巨塔を覆う。末広がりの形に変質した屋上にはここぞとばかりに巨大な玉座が建造されていた。
状況を理解し、ふと横を見ると既に通話を終えたミロくんが目に入る。
「ミロくん、ごめんなさい。ちょっと私行かなちゃ」
「僕も。ニコ爺の呼び出しだ。あ、そうだ…」
彼は廊下を足早に抜け、居間に戻ってくる。その手には『ロンギヌス』が握られていた。
「持って大丈夫なの?」
私がそう聞くと「再生を繰り返せば、大丈夫」との返答が返ってくる。ミロくんは私の方に槍を差し出したが、私は首を振った。
「今の状況で持って帰っても、却って混乱する、だから、まだここに置いといて」
続けて、私は「それに次代の継承者も決まってない」と付け加える。
緊迫した状況下で最小限のやり取りを終えるとアパートの一室を出る。
「千智ちゃん、バイク乗れる?」
「うん、乗れるけど」
するとミロくんに鍵を握らされた。
「二台あって、一台『穏健派』のマークが入ってない僕の私用のがあるから、それ使って。そっちの方が早い」
「ミロくんは?」
「僕は車で行くから。機材周りの準備もあるし。それじゃ」
彼は扉の方に視線をやり、ノブを捻ってあせあせと中へ消えて行った。
「…ありがと」
私は鍵を握り出すと身を翻し、駐車場へ向かって駆け出した。




