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ヴァンパイア・パレヰド *12,22時頃更新  作者: 創作
第一章_欺瞞

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3.憎しみを得た日

 始まりは小学四年の秋だった。


 その日、ある『嗜好派』の吸血鬼によって人の友達が皆殺しにされた。


 生き残ったのは俺とミロだけだった。


 吸血鬼と人間、通う学校は別だが、放課されて仕舞えば関係ない。子供というのはいい意味で先入観を持たない生き物で、平気でその場にいる子たちで遊び始めたりする。


 吸血鬼が紛れているかもしれない。

 そんな憂慮はない。 

 無垢な彼らの前では吸血鬼も人も同列なのだ。


 その日もいつものように公園に集った二十人くらいの子供がその場で遊びを考えて日が暮れるまで遊ぶはず——だった。


 いよいよ日暮れという時。彼らは突如として肉塊と化した。


 元凶は一人の子供。

 最近、仲間に加わった子だった。

 その少年が『嗜好派』の吸血鬼だったのだ。


 そいつは幼いながらもさかしく狡猾こうかつで『人を喰らうために集団に属していた』。


 つまりは機会をずっと伺っていたのである。仲良くなり警戒心を解いた上で犯行だった。


 『分かるぜ。お前らも吸血鬼、だろ。ちょっと身が引けてたからな。ほら、食えよ』


 そう言いながら、当然のように俺の方に《《誰か》》だった片腕を放ってくる。それが奏でた重鈍で息吹なき音は今でも耳にこびりついている。


 その特異な状況に始めは狼狽うろたえた。身を覆ったのは恐怖だった。永遠に続くと思っていた日常が突如として崩壊した現実にただ立ち尽くしていた。


 だが、次の瞬間。胸には別の感情が込み上げていた。


  ——《怒》


 胸中で沸いた怒りの灯火は渦巻き、猛り…やがて激怒となって噴出した。


 『許さない…』


 不意に握り込まれた右手には途轍もない力が籠もる。そしてその力を放出するように怒りを指先の一点に集中させ、相手を凄んだ。


 『俺はお前を絶対に許さない。友達みんな殺したお前を。人を食べるお前を許さない‼︎そうだろ、ミロォ‼︎』


 それは俺の中でときだった。俺は友達を皆殺しにした彼奴あいつに激情という名の矛を向けた。


 人を食した『嗜好派』の吸血鬼と方や誰一人口にしていない『穏健派』の吸血鬼。


 鬼としての能力差は圧倒的だ。ただ俺はその少年相手に勝利を得た。俺には地の利があった。数年遊び続けた公園。遊具の配置から木の高さ、本数、地の起伏…当時の俺はその全てを記憶していた。


 それらと僅かな影の能力と友好的な小動物の助けを借りて、彼を殺したのだ。


 体は赫怒かくどに燃えていたが、頭は異様なまでに冷えていた。今思えばそれは戦闘者としての才覚の発露だったのかもしれない。


 兎も角、俺は彼を殺した。その後すぐに『嗜好派』を監視する『穏健派』の自警団に属し同じ悲劇を起こさないために活動するようになる。


 ただそれも長くは続かなかった。


 自警団の業務はあくまで監視。予備軍に手を下すことは出来ないのである。それに嫌気が差した俺は中学卒業を機に『穏健派』から脱退、無法の殺し屋として活動するようになった。


 『事が起こってからじゃ遅い。犯罪予防が全てだ』


 これが『あの事件』を越えた俺の考え方であり、無法者となってからは数多の嗜好派の吸血鬼を手にかけた。


 常に戦いは綱渡りだった。


 相手は常時、格上。やがて『同族殺し(エピュラトゥール)』の二つ名を得てからもそれは同様だった。膨大な戦闘経験を持ってしても埋まる事ない絶対的な能力差。


 そして五年前。ついに命運が尽きた。


 戦術をたがえ、《《ある吸血鬼》》との戦闘中に致命傷を負ったのである。

 そして、敗走の最中、偶然『穏健派』に保護され——。


 「どうしたよ、綾人。手止まってんぞ」


 「思い出してたんだ、ここに住むようになった時のこと」


 俺は眉をひそめながら手を動かし、野菜炒めを摘む。それを口の中に放り込むと代替肉特有のゼリーとゴムを足して二で割ったような食感が広がる。


 「…そっか。悪いな、思い出させて。変な事言っちまった」


 ミロは視線を床に逸らして居心地悪そうにする。この話題になるといつもこうだ。


 『あの事件』の時、ミロは動けなかった。それが普通だ。俺みたいに動けてしまう方がおかしい。急転した状況を飲み込んで即応する。子供にはドダイ無理な話だ。


 「いや。ミロ、毎度そう申し訳なさそうな顔をしないでくれ。あれは仕方がなかったんだ。何もお前が気にする事じゃ——」


 するとミロが食ってかかった。言葉は堰を切ったように流れ出す。


 「気にもするさ。あの時もそうだ、僕は君が『穏健派』から抜ける時、止められなかった。声の一つもかけられなかった。僕はあの事件から逃げ続けていた。あまつさえ『無かったこと』にしようと。綾人はずっと向き合っていたのにさ。今だって——」


 俺は強引に料理を掻き込み、食事を終わらせると立ち上がった。


 「やめよう、この話は。過去は変えられない。受け入れるか、逃げ続けるか二つに一つだ。逃げるのは悪いことじゃない。逃げた先にもせいはある。俺たちはどちらも正しかった」


 そう言って、皿を重ねて流しへと向かう。


 「…ミロ。食べ終わったら、食器は置いといてくれ。後で洗っとく。俺は寝る」


 自分の分の皿を洗うと寝室へ。ベッドの横に布団を敷くと逃げるようにしんについた。

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