31.開戦
間もなく、彼らの眼前には隊列を整えた祓魔師の群体が顔を出した。極度の緊張感が静寂となり、辺りを包んでいる。
響く音はたった二つ。望まれぬ来訪者の足音だけだ。
「うわっ。壮かーん」
「…鬱陶しい。天使に仕える虫けら共が」
大勢の祓魔師を前にエトワールは好奇の視線を、ダニエルは蔑んだ眼を向け、反吐を吐く。
瞬間、獰猛さと渇望に満ちた雰囲気が彼を中心に伝播した。歴戦を超えた歴戦。人の生では決して達する事のできぬ境地。あまりの殺気に祓魔師ほとんどが気圧される。
「あはっ♪こっわーい」
エトワールは、手のひらを広げてわざとらしく口に翳し、目を見開く。
ダニエルの変容を全く気にかけず、緊張感の欠片もない彼女の態度は祓魔師に不気味さを感じさせ、身震いさせた。
「怯むなぁ!」
その時、男の胴間声が空間を震わせた。その場にいる全員の視線が集団最後尾に鎮座する彼の方を向く。
そこには『冠位:ウリエル/エバン』の姿があった。
エバンは続ける。
「『真祖の心臓』が彼らの手に渡り、復活を遂げてみよ。それ即ち、世の終わりだ。我らが守るべき民草が悍ましい屍となるだろう。
家族、恋人、友人。御身らのかけがいのない者にもすべからず牙を向く。そんな明日を許すのか!」
辺りが静まり返る。ダニエルが放つ死の狂騒とエバンの激怒が激突する。
「答えよ!」
しじまの中、エバンの声がビリビリと伝播する。すると術士の一人が大きな声を上げた。
「否!」
拳を握り、若く猛き声を響かせた彼はただの一兵卒だった。実力も下から数えた方が早いだろう。
だが、彼の勇ましさは群を抜いていた。
エバンを除いてたった一人、凶悪なまろうどに敵意を向けたのだ。
「否っ!」「否っ!」「否っ!」「否っ!」
彼の声を発端に恐怖を奮起で捻じ伏せるように敢然たる声は広がっていく。術士団は士気を取り戻し、身体から神聖力を滲ませる。
「へぇ、ちょっとカッコいいじゃん」
「…茶番は終わりか」
感心するエトワールと 首を鳴らし嫌々しさを振りまくダニエル。彼の雰囲気は一層、険悪さを増し、『血の高まり』が黒い渦となって周囲に撒き散らされる。
「……エトワール。有象無象は貴様に任せる。俺は今代のウリエルを叩く」
「…りょーかい」
忍び声で言葉を交わした二人は残像を残して、その場から姿を消す。
「——戦闘開始!」
エバンの声が再び空間を木霊する。それは後に『吸血鬼の饗宴』と呼ばれる戦いの鬨だった。




