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ヴァンパイア・パレヰド *12時頃更新  作者: 創作
第三章_胎動

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30.常闇に響く二つの足音

 「ダニエルさま〜。こんなジメジメしたくら〜い所に何のようがあるんですかぁ〜」


 トンネルの中を少女の猫撫で声が伝播する。


 「…黙ってついて来い」


 前方を歩く男が鬱陶しそうに言葉を返す。しかし、少女の方はどこ吹く風。それは彼らの関係が昨日今日でない事を示していた。


 ドゥーン、ドゥーン。


 「…全く、忌々しい」


 彼らが暗闇の中に身を隠すと遅れて闇を遠ざける一対の光が現れる。大きくなる重低音とともにギリギリと鉄と鉄が擦れる金属音が一帯を支配する。


 やがてそれらが遠ざかると彼らは再び闇の中から姿を現した。


 「もうーーー!電車、うっるさーーーい‼︎バーーカ。バーーーカ」


 不満を露わにする少女の声が反響する。


 「…五月蝿いのは貴様だ、たわけ。ここにも聖教の目はある。次デカい声を出したら、声帯を引き抜くぞ、エトワール」


 「?別にいいけど。どーせすぐに元戻るし。私、吸血鬼だし♪」


 るんるんと音の舞いそうな声音と共に少女は彼の方へ振り返る。


 「…解らぬか。静かにしろと言っているのだ」


 押し問答の兆しを感じたダニエルは手を頭に首を振り、大きくため息をついた。


 「もう少しか」


 ダニエルの手には一冊の手記があった。開かれたページからは漢字とカタカナで添えられた言葉と共に幾つかの図面が見て取れる。


 「ダニエルさま、これじゃない?」


 「む?」


 いつの間にか先を進んでいた少女が腕を真っ直ぐ伸ばし壁面を指差している。ダニエルは彼女の元へ近づくと、口元を吊り上げた。


 「然り」


 目の前にあるのは錆びた鉄扉だ。あまりに劣化が酷く、酸化により扉が肥大している。鍵があっても開きそうにない。


 そんな扉にダニエルは徐に手を伸ばし、手のひらをつける。次の瞬間、指を扉に減り込ませ、力任せに破壊した。トンネルには甲高い音が反響する。


 「うっるさーーーい。やるなら、やる前に言ってよ。耳がキンキンする〜」


 音が緩やかに減退すると今度はエトワールの文句が構内に広がる。しかし、ダニエルはまたも意に返すこともなく、ただ金属扉を地面に下ろす。


 先ほど言ったように声帯を引き抜くような事はしない。彼も非を感じているのだろうか。


 「……行くぞ」


 「ん、もう〜」


 何事もなかったかのように扉の先に姿を消すダニエルを、頬を膨らませ不機嫌さを滲ませながら、エトワールは追いかけた。




 「ほう…此処が」


 右へ左へ上へ下へ。アリの巣のように張り巡らされた通路を抜けた先に広大な空間が現れる。


 白亜のレンガが幾重にも積み上げられたその場所は地下にも関わらず、青白い光に包まれ、摩訶不思議で神秘的な雰囲気を纏っている。


「この冷ややかさ…神聖力か」


 壁から発する燐光。徐にそれに触れたダニエルの皮膚が火傷のように爛れる。そこは吸血鬼にとって天敵のような場所だった。


 しかし、彼らはまるで何でもないように進見始めた。正確には破壊と再生を超速で繰り返しているのだ。それは彼らの吸血鬼としての膂力を表していた。


 暗闇から出た薄明かりが彼らを照らす。彼らの足元には『赤』が差し、それは光の届かない場所まで続いていた。


「——っだ…「えいっ!」」


 何度目かの曲がり角に差し掛かったその時、黒装束の男が現れる。巡回していた祓魔師だ。しかし、銃を構える彼は忽然と姿を消した。


 その視線の先には、エトワール。


 祓魔師の彼は腕のたった一振りで惨殺されてしまったのだ。彼だったものは放射状に飛び散り、地面に赤い三日月を描いている。


 「ふん、ふん、ふん♪」


 その手で人を殺めたにも関わらず、当の少女は特に気にすることもなく血溜まりの中をくるくると回るように進む。やがて血潮に塗れた一つのものを拾い上げた。


 『ザザッ——ザザッ——』

 『——術士。——術士。応答せよっ』


 「あ、まだ動くじゃん!」


 エトワールが無邪気な声を上げながら、無線機のボタンを押し込む。


 『今からそっち行くね、じゃ』


 お座なりな宣戦布告。

 言って満足したのか彼女は無線機を地面に放り投げる。


 刹那、彼女の半身が消し飛んだ。地面には新たに赤の軌道が描かれ、それを辿ると一人の男に行き着く。そこには腕を横一線に振り切ったダニエルの姿があった。


 「勝手をするな。…面倒を増やしてどうする」


 彼は眉間に皺を寄せる。瞳には嫌悪感が宿り、声色は一層冷ややかさを帯びる。


 「いーじゃん。これで一気に叩けるよ」


 エトワールは半身を欠いた、脊椎の露出する体でダニエルの方へ振り返る。瞬きの前に欠損した体は断面から生えるように再生し、彼女はぐぐっと腕を天に伸ばした。


 「じゃあ、行こっ!ダニエルさまっ!祓魔師エクソシストが待ってるよ」


 彼女は後ろに佇むダニエルに無垢な笑顔を向ける。我儘で衝動的、我慢知らずの唯我独尊を絵に描いたような少女。さらには超が付くマイペース。


 謀略も戦術もあったものではない。まるで絵に描いた子どもだ。


 「……」


 彼は少女の言葉にただ無言を返す。トタタと音の出そうな軽快な足取りでエトワールは駆け出す。ダニエルは一連の出来事に辟易しながら、地図を片手に動き出した。


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