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ヴァンパイア・パレヰド *12,22時頃更新  作者: 創作
第二章_刻々

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25.焦燥

 「すいません。この人お願いします」


 聖教支部の入り口に着いた俺は、ただそう告げて姿を消す。


 「…うぉっ!なんだ⁉︎」


 丁度近くの建物に身を隠した頃に、警備員の素っ頓狂な声が耳に届いた。


 …よし。これで助けに行ける


 応援要請も携帯からすでに行なっている。

 これで聖教が千智の所に駆けつけるのも時間の問題だ。


 俺は物陰から女性を保護する彼らを見届けるとスマホをつける。画面には幾つもの不在着信があった。折り返すと即座に通信が繋がる。


 『…おっ!やっと出やがった。今、ドローンと防犯カメラ使って、千智ちゃん追ってる。お前の事だからどうせ——』


 「…ああ、千智の所にいく。案内してくれ」


 俺は人気のない所まで来ると、身体能力を強化し現場までの最短距離を疾駆する。


 『…綾人、分かってるよな』


 移動の最中、ミロが俺に問いかける。内容はすぐに見当がついた。


 「…分かってる。これが終わったら全部終わりだ。約束は守る」


 千智が聖教の祓魔師だと分かるまで。


 掃討作戦の翌日、俺はミロとそう約束した。すでにあり得ない程の譲歩をすでにして貰っている。気持ちの割り切りはつかないが、今回ばかりは俺も引き下がるしかない。これまでは本来なら無い時間だったのだ。


 脳裏には自然と彼女の顔が浮かび、胸には暖かさが宿る。だが、それを感じることはもう叶わない。その事実が鋭く喉に支える。


 『…ならいい。あと残念なお知らせな。綾人が掃討作戦の時に鉢合わせたっていう祓魔師。多分、千智ちゃんだ。動きが丸っ切り一緒』


 「…そうか」


 ミロの言葉は珍しく歯切れが悪い。それに無機質で機械的だ。いつもの軽薄さは感じられない。彼自身も心のどこかで彼女が祓魔師でない可能性を願っていたのかもしれない。


 俺は淡々と指示に従い、現場へと赴いた。




 …俺はあくまで保険だ


 現着。俺はビルの外階段に潜み、千智と吸血鬼の様子を伺っていた。


 千智は物陰をうまく利用しながら吸血鬼の攻撃を避けつつ、銃撃を相手に見舞っている。やはり相当に腕が立つようで現状、戦闘を掌握しているのは彼女だ。


 …あとは聖教の祓魔師の助けが間に合うかどうか


 優勢と言っても決定打があるわけではない。立ち回りが上手いだけだ。非番であることを考えると武器は愚か、銃の残弾も心許ない。


 「ミロ!聖教は!」


 俺は通信越しに小さく怒鳴る。


 「まだだ!ああくそっ!間が悪い。こっちに来る途中に別の吸血鬼と鉢合わてる。何人かそっち向かってるけど、まだかかる!」


 俺は焦る気持ちを胸に戦況に目を向ける。

 その時、事態は動いた。千智から少し離れた前方の暗がりがゆらりと蠢いたのだ。何かは明白。あれは吸血鬼特有の影の潜行。


 …っ!


 俺は膝立ちを解き、階下に向かって飛び降りる。向かうはもう一方の吸血鬼。進行方向から千智を狙っているのは明らかだ。


 ——来い!


 俺は自身の影から長剣と拳銃を取り出し、臨戦状態に入る。そして月明かりもない暗闇に降り立つと俺は即座に引き金を引いた。


 その先は一見、ただの地面に見える。だが着弾したその瞬間、闇は揺らぎ、代わりに叫び声を発した。


「イッテェな!」


 その瞬間、相手は半身を晒し、勢いよく腕を振るう。進行方向から身を逸らし、転がると遅れてガッという音が響いた。俺は反転し、建物の壁面を見やる。

 そこには横一線の傷が走っていた。


 …これならあるいは


 鋭利な血の刃を形成し、飛ばすのは吸血鬼の常套手段。


 問題はその威力だ。


 正直、この吸血鬼はまだそれほどではない。建物が壊れない程度ならやりようはある。分析を終えた俺は、相手の方に視線を戻した。


しかし、そこに姿はない。


 『お前は邪魔だ。仲間が待ってんだよ』


 どこからともなく声が聞こえる。その声音はボソボソとしており、殺意が篭っている。


「安っぽい同族意識か?下らない」


「貴様‼︎」


 …安い挑発に乗ってくれる


 俺は虚空を睨み、冷たく嗤う。その刹那、荒げた声と共に再び血の刃が飛来した。


 それが戦闘の合図だったのか、休む間もなく凶刃は俺を狙い続ける。


 戦いの最中、目を凝らし、闇を覗くと影の中を泳ぐ『黒』が目に入った。


 …なるはど。そういう手合いか


 蜘蛛だ。


 影という名の巣に追い込み、優位の中で敵を制す。だが、卑怯とはいうまい。


 それも戦術だ。


 俺は時折、飛んで来る血の刃を避けながら、相手の影の有効範囲を吟味する。そして、戦闘の最中、銃撃を放っていく。


 「何だ、何だぁ?当たらねえなぁ!」


 その時、相手の動きが止まった。

 正確には動けなくなったのだ。


 相手が苦しそうに地面からぬるりと這い出てくる。


 「何しやがった、テメェ…」


 痩せこけた風貌の吸血鬼の体には所々、凍傷のような浅黒い痕がある。


 「魔法陣だ。銃弾は無闇に打ってたわけじゃない。ただでさえ効く『聖断』。それを使った魔法陣。もう話すのも限界。違うか?」


 相手に問いかけたその時、彼は白目を剥き、血を吐き出す。


 …よし


 半身を影から出し、呻き続ける相手の頭上から深々と長剣を突き刺す。すると遅れて真紅の炎が燃え上がった。


 …千智は!


 俺は消滅を尻目に彼女の元へと向かって、足早に駆ける。先の戦闘中もミロからの通信はあったが、聖教はまだこの辺りを根城にする『嗜好派』の集団と交戦中。


 こっちの向かったという祓魔師もどうなったかは分からない。


 …何もないでくれよ


 俺はただ祈りながら、もう一つの戦闘現場に向かった。


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