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ヴァンパイア・パレヰド *12,22時頃更新  作者: 創作
第二章_刻々

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23/28

22.二人の休日

 《——綾人》


 ——一週間後


 「千智、久しぶり」


 「…会うだけなら、会ってる……」


 「プライベートは久しぶりって事。それに半日デートなんて一ヶ月ぶりじゃない?」


 気恥ずかしそうな様子で言う千智に俺は会話のボールを投げ返す。バイト先が同じだと、会う時は駅周辺が必然的に多くなる。

 そうなると生活の延長で少し会うという感じになり、フットワークとしては軽く、自然な感覚で話せる。


 けど、今日は違う。お出かけだ。


 遊ぶために予定を立てて、わざわざ午前中に駅前で集合。硬くなるのも無理はない。かく言う俺も緊張している。なるべくいつもの調子で振る舞うよう尽くしているが、心音は穏やかではない。


 付き合い始めて半年。慣れも出てくる所もあるが、いつもと違う事をするとこうして、ぎこちなくなってしまう。


 …まぁ、大体、始めだけだけど


 話し始めると徐々にいつもの距離感に戻り、お互いに落ち着きを感じられる様になる。


 「今日。千智、いつもと雰囲気違うね。髪留めが違うからかな」


 緊張の糸を解くため、俺は口を開いた。

 いつもなら千智は髪を止めるのに山吹色のオーソドックスな形のピンを使う。 


 しかし、今日は違う。


 先端に六輪の花ビラがついたものだ。さらには後ろにはクリップをつけ、ハーフアップにしている。それに心なしか肌が普段以上に綺麗に見える。


 お洒落して来てくれているのは明らかだった。


 「…うん、ありがと。後、ちょっと髪切った」


 「そうなんだ、ちょっと違うなって思ったんだ」


 千智は前髪を手で摩りながら、視線をしどろもどろさせる。俺はそんな彼女を見ながら、少しずつ会話を進めていく。


 こうしていくと気まずさがだんだん払拭され、二人を包む空気感が柔らかくなっていく事を俺は知っている。


 やがて服の話や最近の身の上話など言葉を重ね、俺たちはいつもの調子に戻って行った。

 



 「…なんか、ごめんね。綾人。私出かける時いつも、なんか…硬くなる」 


 山手線の電車に乗り換え、席に座った折。千智がやや表情を曇らせた。


 …こういう時って少し困るよな


 『気にしてない』


 ただそう言えばいいだけなのだが、物には言い方と言うものがある。


 性別が違うのなら尚更だ。


 言葉を正しく相手に伝える言葉選び。本当に一語のニュアンスが言葉の意味をガラリと変えてしまう。俺は何を言ったものかと逡巡した後、一呼吸置いて口を開いた。


 「別に気にしてないよ。俺も変に緊張するし。それにこういうの俺は意外と好きだけどね。付き合い始めのたどたどしい感じ思い出せるし…」


 すると小脇をコツと小さな衝撃が貫いた。いつの間に顔を俯けていた彼女を見ると、表情を隠すように垂れた髪の隙間から、仄かな赤が頬に挿しているの見てとれた。


 「…綾人はいつもズルい言い方をする」


 「…ズルいって何が?」


 俺はわざとらしく彼女に疑問を投げる。その刹那、左腕が千智の方へ勢いよく引き込まれた。彼女は自分の右腕を脇から差し込み、グッと距離を詰めてくる。肩幅半個分の間隔が詰まり、肩と肩とか密着。自ずと心臓の拍動が激しくなる。


 「…ちょっと仕返し」


 こちらを仰ぎ見る彼女の顔には気恥ずかしさと弄らしさが同居している様に思えた。


 あまりに近い距離に面映おもはゆさを感じる。会話をしようにも鼓動が煩く、気の利いた言葉一つ浮かばない。大胆な彼女もやった後に照れを感じたのか、ぴたりと横につき、縮こまる。


 『新大久保〜。新大久保〜』


 幾らかして、充足した熱を解いたのは到着を告げる車両案内だった。




 「お店、何処だっけ?」


 俺は呟きながら、スマートフォンを取り出し、『G―MAP(位置情報検索アプリ)』をタップ。そしてリストの中から目的の韓国料理店を見つけた。するとGPSが指し示す方向から逆方面である事が分かる。


 「綾人、どっち?」


 「こっち」


 背伸びをしながら覗き込もうとする千智に人差し指で行き先を示す。


 「…確かにこっちの景色見た気がする」


 彼女は俺の答えにやや前屈みになりながら、顔を顰める。


 前に友達と来た時は新宿から行き、新大久保から帰ったらしい。逆を辿れば店に着きそうなものだが、彼女の場合そうはいかない。


 千智は地図を見るとき、スマートフォンを回転させたり、身を捩ったりするのだ。側から見るには可愛らしいが、本人はかなり気にしているらしい。


 前に一回茶化した事があったのだが、かなり機嫌が悪くなったので、以後は自分から案内を買って出る様にしている。


 「綾人…今ちょっと私の事、小馬鹿にしたでしょ?」


 「し、してない!してない!」


 まるで心を読むかのような指摘に慌てて手を横に振る。すると千智は肩を落とし、呆れたような視線を俺に向けた。


 「…はぁ。あのさ、綾人。結構分かりやすいんだから、変に嘘つかない方がいいよ」


 「…ごめん」


 視線を逸らし、申し訳なさそうにしているとスマホを持つ反対の手を引っ張られた。


 「いいよ、別に。案内してくれるんでしょ、行こ」


 彼女の隣につくと俺は携帯片手に彼女を手引きした。どうやら思ったより機嫌を損ねなかったらしく、道中は雑談に花を咲かせた。


 その中で彼女が教えてくれた事だが、『空間認識能力』は女性より男性の方が優れているらしい。


 何でも狩猟を主だって行なっていたのが、男性だったからだとか。


 …まぁ、そりゃそうか


 人によって色々違う訳だから、性別にも得手不得手があっても不思議ではない。


 …そもそも人の事茶化したり、馬鹿にしたりはあんまり良くないからな…


 次からは気を付けようと心に決めた俺だった。


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