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ヴァンパイア・パレヰド *12,22時頃更新  作者: 創作
第二章_刻々

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21.『今』の在処

《——千智》


 『七天の担い手(セブン・フォース)』各位

 昨日の聖戦にて聖槍『ロンギヌス』所持者『ミカエル』殉教。


 その際、聖槍『ロンギヌス』が何者かに奪取された模様。情報を得た際は教会本部まで。

 (『ミカエル』殉教の事実は『七天の担い手』のみの通達である)


 また本件を受け『ウリエル』は守り手としての任に復帰。


 『イェグディエル』に於かれましても襲撃に警戒されたし。

 

 その日はゴミ捨ての日だった。帰りの折に何気なくポストを覗くと一通の封書があった。

 送り主は聖教本部。中身は簡素。だが、内容は打って変わって衝撃的だった。


 「あのルシオさんが殉教…」


 彼との面識はさほど無いが、その実力はよく知っている。以前、手合わせをした事があるが、同じ『七天の担い手』とはいえ、その実力には天地といっていい程の差が存在した。


 彼は「年の割によく動きなさる」と私を評したが、私としては屈辱もいい所だった。


 ルシオさんの戦闘技術…間合いの取り方、動きの緩急、視線誘導。挙げればキリが無いが、熟達したその技量に私はなす術なかった。


 師匠筋に当たるエバンさんを相手取っても軽々…とは行かずも勝利を納めている事を考えるにその実力は折り紙つき。惜敗するエバンさんでさえ『七天の担い手』で次席の実力を持つ。


 それを考えるとルシオ・バーンスタイン。彼の実力が『七天の担い手』の中でも突出していた事は疑いようもなかった。


 …そんな祓魔師が死んだ


 相手は。数は。状況は。呆気に取られる私の脳裏を可能性が駆け抜けていく。それに『ロンギヌス』が奪われた事を考えると『同族殺し(エピュラトゥール)』の関与の疑いも出てくる。


 …仔細が知りたい


 だが、それは限りなく難しい。いくら『七天の担い手』だとしても、祓魔師は直接的に関係のない会議に出席できない。本部ともなれば、尚更だ。


 訳は身元特定の防止。祓魔師が不意を突かれ、襲撃されては元も子もない。故に参加者は最低限に納められ、こうして決定事項だけが伝えられる。


 …それにエバンさんが守り手の任に復帰


 それは由々しき事態だった。今回の事を聖教側が重く捉えている証拠だ。

 例の噂、『真祖復活』の件も関与しているのだろうか。


 歴史上、真祖は神器を持つ四人の勇者によって殺されたことになっているが、真実は違う。


 真祖は——今も生きている。


 私も『七天の担い手』になって知り得た事だが、真祖は倒されてはいない。厳密には倒し切れずに『封印』されたのだ。四肢を、臓器をバラバラに切り分けられて。


 やがて、臓器や、体は次々に限界を迎えたが、たった一つ朽ちないものがあった。


 それが『心臓』。——『真祖の心臓』だ。


 なぜ聖教の権威が強い西洋ではなく、極東に世界の趨勢を揺るがしかねない代物があるのかは不明。そもそもその話自体が俄かに信じがたい事だが、『マルティクス』に認められた祓魔師が代々この国に定住していると妙に真実味を帯びてくる。


 …はぁ…全く、次から次へと


 頭に来た私は封書をテーブルの上に放り、大きくため息をついた。なんでこう、吸血鬼と言うのはいつも面倒ごとを引き寄せてくるのだろうか。


 …人を食べなくても生きていけるのにどうして人を手にかけるのか


 ふとそんな事を思う。だが、その理屈が通じない事はよく知っている。彼ら、吸血鬼にとって人は自らの能力を高める『餌』であり、古来から『食料』なのだ。理性的には必要なくても本能的に血肉を求めるのだろう。


 それは人が家畜を屠殺する行為とまるで変わらない。

 見ている『視点』が違うのだ。だから、私たちと吸血鬼が相容れる事は決してない。


 その時、テーブルに開き放していた教科書が目に入った。単位は『吸血鬼研究』。言わずもがな、人と吸血鬼との歴史を掘り下げる学問だ。


 「…ニコ・ブラッドフォード」


 思わず呟く。目に止まったのは教科書の中に載せられた一枚の写真。『穏健派』を主導する人物のそれだった。


 …穏健派。そうは言ってもただの保守派じゃない


 私は眉を顰めて、ため息を零す。自然と机の上に置いていた手に力が入る。彼ら組織は正しい。ニコ・ブラッドフォード自身も研究者として『代替肉』を開発し、吸血鬼の摂食に革命を与えたのは事実だ。


 ただ依然として『嗜好派』は下火にならない。歴史的に見て、徐々に衰退に進んでいるのは明らかだが、時折、吸血鬼絶世の時代を取り戻すため蜂起する。

 それは幾度となく、戦いの火種となってきた。


 …けれど、『嗜好派』の連中が暴れるまでは動かない


 人の法と同じだ。犯罪者予備軍に手を下す事は許されない。それは聖教も同じ。


 …だから、私の体は冷たい


 私はその場で竦み、両手で肩を抱える。少しでも温まるように。私には両脇にあるはずの『熱』がない。確かに『嗜好派』はいずれ何処かの時代で滅びるだろう。


 …だけど、『今』はどうなるの


 私みたいに吸血鬼に大切な人を奪われた人はそう珍しくない。祓魔師をしているとそれを日々、痛感する。だから、『穏健』も『嗜好』関係なく、私は吸血鬼が嫌いだ。


 気持ちが深い深い所へと落ちていく。胸中には空虚が満ち、目尻には熱が宿る。


 …苦しい、辛い、誰か一緒にいて


 私は部屋の内で、一人嗚咽を漏らす。そうやって泣き腫らさないと私は生きていけないから。そうやって消化した振りをして、偽らないと『自分』を保てないから。


 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。

 激情が落ち着いた私は立ち上がる。それからスマホを探し、リビング近くのローテーブルに置いていたそれを手に取った。手持ち無沙汰だったのだ。電源を入れると一件通知が入っている事に気づく。


 綾人:『そういえば、今度いつにする?』


 それを見て思い出す。確か韓国料理店に私が誘って、その約束が保留になっていたはずだ。

 私は壁掛け時計を見て、時間に余裕があることを確認すると綾人にメッセージを打つ。


 …綾人にも予定あるかもしれないし…来週末とかにしようかな


 綾人は週五でバイト。シフトが被れば、その後ちょっと出かける事は出来るが、基本近場だ。私が西宮さんと行ったのは新大久保。ここからだとかなり遠い。別に行けない事も無いけど…。


 …それになんか長くいたい気分


 千智:『来週末とかどう?』


 それだけ返すと私は時間割を確認して、大学に行く支度を始めた。


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