18.調達
…此間の掃討作戦。思ったより武器持ってかれたな
俺は裏路地を歩きながらボヤく。聖教の祓魔師でない俺が聖武器を有するのは難しい。
なら、『同族殺し』である俺が聖武器をどの様にして調達しているのか。答えは簡単。吸血鬼対祓魔師の事後現場を漁るのだ。
「あーお」
「はい、ありがとう」
薄暗闇の中で独白していたその時、足元からの可愛らしい鳴き声が聞こえた。視線を落とすと月明かりに照らされる一匹の三毛猫が目に止まった。
彼女は今回の探索の同行者だ。曰く、昨日この辺りで下級吸血鬼と祓魔師の戦闘があったらしい。
武器を得るには無数にある事後現場を聖教や『嗜好派』に先んじて把握するのは必定。しかし、それは一筋縄ではいかない。単身となると尚更だ。
そこで『彼ら』だ。猫や鼠、雀や烏…都心動物の情報網を借り受ける。町中の動物と『契約』する事で情報をいち早く入手できるのだ。
今宵はこの野良の三毛猫が戦闘を目撃し、俺に報告を上げてくれたという訳である。
三毛猫は俺を先導する様に歩調を早め、前へ。幾つか曲がり角を経ると特有の匂いと共に血潮に塗れた惨状が現れる。その中心には干涸び始めた一つの遺体。辺りには戦闘痕が色濃く残されていた。
…ナイフとマグナム、…あとは近接用の長剣か
遠目で装備を判別した俺は、こちらを見上げる三毛猫を抱き上げ、肩にのせると死体漁りを始めた。
ポーチの中には未使用の弾倉がいくつか。それに対吸血鬼用の閃光弾、身体能力活性の薬剤。
状況から察するに、この祓魔師は追跡したはいい物の、相手の思うままに袋小路に誘き出され、救援も呼ぶ事が出来ずに果てた…と言ったところか。
恐らく新人の祓魔師だろう。中堅以上の祓魔師になると無闇な追跡はしない。
…無念、だな
俺は深く息を吐き、片膝を地に付ける。すると名も知れぬ祓魔師の顔が目に入った。俺は、見開かれたままになっていた彼の両目を平手で瞑らせ、手を合わせる。
それはせめてもの礼儀だった。死者の尊厳を踏み荒らす自分に課した唯一の弔い。
暫くして立ち上がり、俺は周囲に散らばる薬莢を回収し始めた。聖教会の銃は、銃身に『魔法陣』という形で神聖力が込められている。
それに加えて、薬莢に刻み込まれた別の『魔法陣』が激発を受けて出力を強化。それらが銀弾に収束。吸血鬼の畏怖する弾丸『聖断』が完成する。
故に薬莢は貴重だ。聖教の銃で銀弾を打つだけでも足止め程度の効果はあるが、やはり再装填済みの弾丸となると威力が桁違いになる。
吸血鬼の臨界まで通常、急所に『十発』のところを『一発』に出来る。一対多戦闘、もしくは幹部クラス相手なら必須の品だ。
…暫くは鳴りを潜めて、地道に武器回収か。
武器の残数を考えると心許ない
十二分蓄えはある物の油断は禁物だ。俺の活動には後援がない。『穏健派』も『同族殺し』との関係を探られないため、接触を極力避けている。ニコ爺もミロを含めた俺たちは『別動隊』という認識としている。
具に辺りの探索を終え、いよいよ撤収というその時——。
キィンッ!
甲高い音が両耳を劈いた。空耳かと思ったその音は不規則に真夜中の街を響き渡り、苛烈さを増していく。長年、狩りを生業として来た勘が警鐘を鳴らす。これは戦闘だ、と。
「…今日はありがとう。今度お礼するから」
三毛猫を室外機の上に下ろすと頭は軽く摩る。相手から満足したように「みゃっ!」という元気の良い返事を聞き届けると俺は手近なビルの屋上へ。遮蔽物のない場所で音源を見極め始める。
…こっちか
南西方向に狙いを定める。
「…身体能力強化」
夜風吹き荒ぶ中、呟くと『影』が揺らぎ、黒い靄が立ち込め…全身に力が込み上げる。
…行くか
屋上を駆け、飛び上がると俺は剣戟の鳴り響く現場へと向かった。




