13.闇に潜む者
《——綾人》
——廃墟ビル群、北東部
…よし、ここらは片付いた
俺は消音器付きの突撃銃の構えを解き、柱に身を隠しながら通路側を覗く。
…後続はない
それを確認すると空いた左手で手招きをし、仲間に安全を伝える。服装は全員、宵闇に溶け込む黒。そして顔を隠すためガスマスクを着用していた。
聖教に顔が割れて何かの間違いで『王狼派』と見間違えられれば、世話がない。
…そろそろ弾倉変えとくか
残弾はある。ただ戦闘の決定的な場面で弾切れを起こすのは勘弁だ。それが致命的な隙になることもある。俺は腰の装具から予備弾倉を取り出すと現状のそれと付け替える。
…状況は
スマホを取り出し、電源をつけるとそこには一帯のマップが現れる。地図の中にはいくつかの光点。
それは俺の使役獣の位置だった。『使役獣』とはいえ、血の気のない俺に出来るのは小動物と契約することだけ。スズメ、カラス、鳩。あとは犬、ねこ、鼠。
括れば、街中にいるような子たちだ。
俺には上位の吸血鬼のように大掛かりなことや合成獣の生成などといった大それた事は出来ない。
それに『使役』とはいうが、命令の強制力は皆無。服従させる力すらない。仲良くなった小動物に契約を持ちかけ、『使役させてもらっている』というのが実際だ。
過去には地域のボス猫相手に餌を持ってくる条件で一族の力を借りるなんてギブアンドテイクな契約を結んだ事もある。
だから、戦闘に『同族殺し』に付き合ってくれるのは彼らの完全な良心だ。全く頭が上がらない。
…視界共有
瞳を閉じ、使役獣の視野を借りる。
…何処もかしこも戦闘中
それもそうだ。規模はビル一棟ではない。聖教も投入できる最大戦力を注ぎ込んでいる筈だ。数が多ければ戦いは激化する。
…分かりにくいな
やはり屋内という状況が悪い。流石に小動物を中に入れるわけにもいかないので確認できるのは大まかな状況くらいだ。
…若干、南側の発火炎が多いか
それを確認すると無線機を手に取り、ボタンを押す。
『こちら、綾人。ミロ、南側の状況分かるか』
すると陽気な声が返ってくる。
『はいはーい、ちょい待ち』
ミロの配置は屋上。数機のドローンの監視を行って適宜、潜行部隊に戦況を詳しく知らせるのが彼の役目だ。
小動物は自然と溶け込むことが出来るが、時折、本能的に撤退を選択することもある。そういった事もあり、使役獣とドローンの併用という今の監視体制になっている。
『そーねー。綾人のいう通り南側…地図で言うとG群ビルDが今の主戦場かなあ。むしろそこ以外は制圧が終わってる感じっぽい』
『東側も、か』
そこは『王狼派』の幹部連中他、上級吸血鬼の中でも選りすぐりの精鋭がいると目されていた場所だった。
『そうそう。なんかえっぐ強い修道女が一人で相手してたよ。いや、まじやばい。アレ多分『七天の担い手』なんじゃない?あんながポコポコいたら今頃、僕ら全滅してるよ』
ミロは無線越しに冗談混じえて渇いた笑いを上げる。すると手に持つスマホに通知が入った。
文面は『これこれ』。そのタイトルの雑さ加減に呆れながらも液晶をタップする。
…今の文脈じゃないと伝わらないだろ、これ
映像は遠くから撮っているのか荒い。だが、捉えられているのは狙撃している部分だけだ。白い燐光から見るに身体能力強化だろう。
それからはまるで閃光の如し。大鳥の雷を操る使役獣が現れる所で機械を守るためだろう。映像は彼女から遠ざかっていった。
…この速度はカメラのフレームレートじゃ無理だ
肉眼を持ってしてやっと認識できるかどうか。遠目だが、動きを見るに身体能力強化に頼らない歴とした『戦闘技術』がある。
「マジか。こんな化け物。間違っても蜂会いたくねえな」
横から映像を見ていた仲間の一人が恐れを溢す。それはそうだ。会おうものなら一溜りもない。逃げ一択だ。一対多でまともな戦闘が成立している事自体がおかしい。
正しく人外の強さと言える。
「それでは行きましょう。これが最後です」
俺はニコ爺が預けてくれた一隊に告げる。先程の彼が再び声を上げた。
「流石にあんな化け物がいたら問題ないんじゃないか、綾人」
俺はスマホをしまい、代わりに銃を両手で抱えながら応答する。
「念の為です。偶然か、必然か。兎も角、誰しも条件が整えば死ぬ可能性があります。それに『七天の担い手』…かは存じませんが、聖教が彼女のような戦力を欠く状況はブラッドフォード卿にとっても好ましくないでしょう」
そう言って身を翻すと俺たちは廃ビル群の南西部へと向かった。




