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蠢く影と、牙の宿り家

第3話です。楽しんでいってね。


世界の静寂が、わずかに揺らいだ。


遠く、樹海を超えた聖都エリュシオン。高き塔の上、神聖騎士アメリアは祈りを終えると、微かに目を開いた。


「……大地がさざめいている。何かが……目覚めた?」


彼女の視線の先には、南の荒野——アル=タルディアの眠る、あの洞窟の方角。


同じ頃。


魔王領の地下神殿。宰相カリュデスは漆黒の魔導陣を眺めながら、細く笑んでいた。


「ふむ……異質な魔力。血にも怨にも染まらぬ、だが確かに“影を引く者”だ……面白い。確かめてみる価値はある」


彼は数名の影魔シャドウを呼び出し、命令を下す。


そして東の牙王国。獣人王ガルドは、報告書を乱暴に放り投げた。


「クマ……ムシ? は? なんだそれは。意味が分からん」


「だが……“獣を従える力”を持ってるだと? 面白ぇ。様子を見てこい、先遣隊を三名。逃げたら捕まえろ。戦えるなら潰せ」


世界が、わずかに軋む音を立てて、彼の存在へと傾き始めていた——


──


静寂の洞窟。


その中心で、クマムシ型の小さな存在——アル=タルディアは、巨大な狼魔獣バルクと向き合っていた。


「……来い、ついてこい」


バルクはそう言い残し、洞窟の奥へと歩き出す。迷いも警戒もなかった。

アルはそれを追いながら、心の内に問いかけた。


(……俺は、どうしてこんな存在になった? なぜこの世界に?)


(そして……)


> 《提唱者より通知》

《新たな感情波動の集積を確認。推定:育成対象の気配》




「……育成対象?」


> 《詳細表示:目標地点において、未成熟個体の生息を感知。バルクの血縁個体である可能性、高》




「……子どもか」


バルクは黙って、岩の裂け目を押し広げるように歩を進めた。

そこには、小さな毛玉のような存在たちが五体、岩陰に寄り添って震えていた。


魔力を感じ取り、全身を縮こませてこちらを警戒している。アルの視線に、怯えが走る。


「……近づくな」


バルクが低く言った。


「……あいつらは俺の“牙”だ。だが、俺の力だけじゃ足りねえ……生き残るには、この牙に“導く者”が必要だ」


アルは立ち止まり、ゆっくりと視線を落とした。


(……政界で俺は多くの部下を抱え、多くの責任を負ってきた)

(だが、本当の意味で“導く”など……できていただろうか?)


提唱者の声が響く。


> 《提案:スキル《ファミリー》副機能《庇護者の誓い》、発動可能》

《効果:幼体との魔力同調度を高め、感情リンクを通じて育成支援が可能となります》




アル:「……ならば、やってみよう」


彼の体から、薄く温かな光が滲む。


子どもたちの鼻がぴくぴくと動き、徐々にアルへと視線を向ける。

その目に、怯えがあった。だが同時に——微かな希望も、あった。


アルは、できるだけ威圧感を抑えるようにゆっくりと前に出る。


「我が名は、アル=タルディア。汝らを傷つけるために来たのではない」


「汝らはまだ小さく、未熟で、外の世界を知らぬ。だが、この世界は無慈悲だ。力なき者は淘汰される」


「だからこそ、我は誓う——汝らの“導く者”たらんことを。汝らの成長を支え、牙となり、盾となる」


「……どうか、その存在を、我に預けてはくれぬか」


魔力が穏やかに脈打ち、子どもたちの身体から強張りが消えていく。

一匹、二匹と、岩陰から出てきて、アルの周囲を回るように近づいてきた。


「……すげぇな、お前。まるで、本物の群れのヘッドみてぇだ」


バルクが笑った。


「いや、違うな。あいつらはお前を“支配者”としてではなく、“導き手”として見てる」


「……ならば、その信を裏切らぬように生きるまでだ」


アルは静かに答えた。

彼の足元で、子どもたちが彼の体をぺたぺたと触っている。そこに、もう恐れはなかった。


──その時。


> 《スキル《ファミリー》効果発動中:対象5体に基礎能力値ボーナス+5%、知性進化確率上昇》




提唱者が告げる。


> 《初期ファミリー構築完了。洞窟エリアに対し《領域展開》の資格を獲得しました》




アル:「領域……展開?」


> 《拠点機能、解放可能。構築スキル《共生圏》《育成核》、展開準備完了》




アルは少しだけ笑みを見せた。


「ならば——ここを、“始まりの砦”としよう」


バルクが、黙ってうなずいた。


こうして、アル=タルディアの最初の“ファミリー”が生まれた。

そしてこの小さな牙の巣が、やがて数多の種族を導く、“理想の王国”への礎となることを、誰もまだ知らない。



---

アルを中心に世界がざわついていますね。

ざわざわ森のなんとやら。

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