名もなき魔獣との邂逅
第2話です。進みます。
何とか週3日1以上投稿を目指します。
岩壁を砕きながら現れたのは、額に三本の骨角を持つ大型魔獣。
毛並みは黒灰、瞳は濁った赤――全長はおよそ3メートル。
> 「種別:魔獣種。推定ランク:D〜C相当。
現時点の戦闘能力では勝率:13%。逃走成功率:11%」
「……おい、提唱者。その13%ってのは、俺がどうあがいても死ぬってことだよな?」
> 「恐れながら、その通りです。ただし、現在保有スキル《縮退回避》《構造流動》《圧縮再生》を適切に運用すれば、無力化の可能性はあります」
「ふざけた確率論だな……だが、やるしかない」
魔獣が唸り声とともに飛びかかってくる。
アルは滑るように地を這い、肉体を液状化。飛びかかってきたバウルの下をすり抜けた。
そのまま背後へ回り込み、跳躍と同時に口器から蒸気を噴出。
だが、蒸気がバウルの背に当たる直前、強靭な皮膜で弾かれた。
(……皮膚が異常に硬い……こいつは、普通の魔獣じゃない)
> 「特殊能力:《骨化装甲》を保有している可能性あり。通常攻撃によるダメージは通りにくいかと」
(くそっ……だったら、弱点を探るしかない)
戦いながら、アルはバウルの目を見つめていた。
その瞳には――怒りがある。だが、同時に“哀しみ”もあった。
(なぜ、泣きそうな目をしている……?)
> 「敵性体の情動波動を検出。“恐怖”と“焦燥”が混在しています。
……この個体、戦う理由に“自己防衛”の割合が高い可能性があります」
(つまり、こいつは本能で襲ってきているわけじゃない……?)
蒸気攻撃を避けたバウルが、距離を取る。
「……なぜ、逃げない。なぜ、俺を殺しにこない」
「それは、こっちの台詞だ。……お前は、なぜ俺を狙う?」
沈黙。
その後、かすれた声が返る。
「……すでに、俺の縄張りに入った。出て行かれれば、俺の子たちが……」
「子どもが、いるのか?」
「……この洞窟は……我らの住処。食料が減って……俺は、外敵を排除せねばならんのだ」
その言葉に、アルは息を飲んだ。
――“排除”の論理だ。
国家を運営していた頃、幾度となく見てきた。
異分子、反政府、対立、テロ――“秩序”のために行われる正義の名のもとに。
(バウル、お前は……守ろうとしているんだな)
「……お前に訊く、バウル。“力”があっても、争いを望まない者がいることを、信じられるか?」
「……何?」
「俺は、この世界で争いを終わらせたい。力は使う。だが支配じゃない。
一緒に、歩んでくれる“家族”が欲しいんだ。……信じられなくても構わない。だが、俺は――」
> 「発動推奨:ユニークスキル《ファミリー》」
「……提唱者、《ファミリー》の詳細を」
> 「説明:ユニークスキル《ファミリー》
対象に“家族”の絆を結ぶ契約型精神リンクを発動。
このリンクにより、アルの成長に応じて配下も段階的に能力成長。
さらに、リンク対象との精神共有、戦闘支援スキルが使用可能になります。
契約には“強制”は含まれず、“信頼と意志の共鳴”によってのみ成立します」
(力を与える代わりに、共に歩む仲間を得る……これこそ、俺がやりたい組織の形だ)
「バウル……いや、お前に名をやる。
お前の行動、考え、俺は否定しない。
だが、それが孤独によるものならば、俺の下に来い。“バルク”――それがお前の名だ。俺の家族になれ」
静寂が洞窟を包む。
そして――
「……名をくれるのか? 異形よ……いや、“アル=タルディア”。
……お前に仕えたい。俺と、子たちに、道を与えてくれ」
《ユニークスキル《ファミリー》発動》
《契約成立:バルク》
《リンク効果:戦意共有・魔骨共振・行動連携》
《現在のファミリー数:1》
バルクが、かしずくように前脚を折った。
その背に、小さなクマムシ――アルが飛び乗る。
「行こう、バルク。……お前の子どもたちにも、会わせてくれ。
そして、ここを……最初の拠点にしよう」
提唱者が、穏やかな音声で告げる。
> 「“ファミリー”初登録完了。世界変革率、0.0001%上昇」
アルは呟いた。
「いいさ、ゼロからで……塵からでも……この世界を、変えてやる」
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バルク絶対に可愛いだろうなぁ