第87話『村の長老、そして禁忌の扉』
──それは、布一枚すら許されぬ理想郷だった。
リヴァル村の最奥、“神域の回廊”と呼ばれる聖なる地。
その中央に佇むのは、一糸まとわぬ老人──“永遠の長”である。
白髪と長い髭が風に揺れ、その肌は歳月を物語るように刻まれていたが、その眼差しは鋭く澄んでいた。
「来たか……よそ者たちよ」
その声には、威圧ではなく、不思議な重みと静けさがあった。
アリシアは軽く頭を下げると、慎重に尋ねた。
「貴方が……この村を統べる“永遠の長”ですか?」
「“統べる”……いや、それもまた俗な言葉だ。
我はただ、この村の“在り方”を見届けているだけだよ」
「服も着ずにですか……」
流星が呟くと、長老の眼がピクリと動いた。
「その嘲笑、煩悩の芽吹き……。
お主の中にはまだ“恥”があるな?」
「いや、それは……見たくなくても見えちゃう位置にあるっていうか……!」
流星の反論に、リリアとアリシアは顔を逸らし、ヴァネッサだけが「ほほう」と興味津々。
◆
長老が語るには──
かつてこの村には「裸の神」と呼ばれる存在が降臨し、衣服を脱ぐことで魂の本質へ近づくという“脱衣信仰”を広めたという。
「しかし神は、愛と快楽を追い求め、ある存在と契りを結びすぎた。
そう……夢魔と、だ」
その結果、神は“癒し”を越えて“支配”に堕ち、精神と肉体の境界を溶かしてしまった。
「それが、今でもこの村に香として残っている……」
そして、村の最奥──“封印の間”には、その“怪物と化した神”の残骸が今なお眠っていると長老は言う。
「封印は完全ではない。
奴の“気”が水と空気に混ざり、村人たちはそれを“神の恵み”と誤認してきたのだ」
アリシアは息をのんだ。
「それじゃあ、村人の信仰そのものが……偽りに操られていた……」
「“信仰の仮面を被った洗脳”ってことか……」
流星の拳が、ぎゅっと握られる。
「俺たちで、その封印の間に突入しよう。現実を見せてやらなきゃ、意味がない」
「しかし、お前たちには試練がある」
長老はゆっくりと石造りの扉を指さす。
「封印の扉を越えるには、“心の衣”すら脱ぎ捨てねばならん」
「精神論かいッ!」
◆
その夜、神聖なる儀式“裸の舞”が始まった。
焚かれた香、焚火の火、松明の灯。
その中で、全裸の村人たちが円を描いて踊り始める。
流星たちも、半ば強制的にその中へ。
「うぅぅぅ……服がないって、こんなに無防備なのか……!」
「いや、逆に清々しいかも……? リリアさん、風、気持ちいいです!」
「ミレーユ、適応早いな!?」
ヴァネッサは満面の笑みで、「やっぱ野性よね♡」と踊り狂っていた。
アリシアは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、「……でも、身体が軽い。不思議……」と呟く。
全員の羞恥が、少しずつ浄化されていく。
だが──その奥には、いまだ眠る存在がいた。
“快楽に堕ちた神”。
“夢魔と融合した神性”。
“封印された狂気”。
流星たちは、あらゆる衣を脱ぎ捨てて──
いよいよ、決戦の地へと向かう。




