第85話『服を着たら呪われる!? 脱衣信仰の真相』
「……まさか、“服を着たら呪われる”なんて、そんなバカな……!」
流星の声が、山間に響いた。
ここは、東の果ての山奥──《リヴァル村》。人里離れたこの地では、信じがたい掟がまかり通っていた。
それはすなわち──
「衣服、着用禁止」。
老若男女問わず、村人は皆、素肌のまま生活しているのだ。
子どもも、老人も、そして祭祀を司る神官までも。
初めてこの村に足を踏み入れたとき、リリアが叫んだ言葉が今も耳に残っている。
「なんで全裸で麦踏んでるのよッ!?!?!?」
◆
「これは、健康文化ではなく……明らかに“何か”の影響を受けてる」
アリシアが険しい表情で、村の石碑に指を這わせた。
そこにはかつて使われていた古代語でこう刻まれていた。
『衣を捨てよ。己を偽るな。神はすべてを見ておられる』
「まるで……服という“虚飾”を否定することで、真実の姿を神に示せ、と言っているみたいね」
「でもさ、それって信仰っていうより、“洗脳”じゃ……?」
流星が呟いたその言葉に、誰も否定はしなかった。
◆
一行は村の中心にある“大湯殿”──神殿と風呂が一体化した巨大な施設へ向かった。
そこでは、毎朝“全裸祈祷”が行われるという。
「……っ……」
リリアが顔を真っ赤にしながら、身体に巻いていたタオルを握りしめる。
「信仰だろうがなんだろうが……人前で脱ぐのはやっぱり無理ッ!!」
「でもリリア、村人はそれが普通なんだ。恥じることじゃないんだよ」
ミレーユが意外にも穏やかな声で言った。彼女はすでに村の衣装──という名の“腰布一枚”姿だった。
「それに、私たちがこの風習に強く拒絶すると、調査の妨げになる可能性もあるわ。冷静にいきましょう」
「……冷静でいられるわけないだろおおおおおおお!!!」
と、叫びながらも結局リリアは仲間たちに説得され、顔を真っ赤にしながら祈祷の場へと出て行った。
◆
その頃、アリシアは村の資料庫で古文書を調べていた。
「……あった。この村が“衣服禁止”に至る前、わずかに残された記録」
そこにはこう書かれていた。
『我、泉にて声を聞く。衣を脱ぎし時、幻影に包まれ、心、穏やかとなれり。
されど、衣を着し者、たちまち苦しみて失わるる。』
「……声? これは、“何か”がこの村人に語りかけてるってこと?」
アリシアの背筋を、冷たい戦慄が走った。
それは“夢魔”──いや、“神を騙る存在”の影。
かつて、神の名を使って男たちを支配した夢魔たち。今回もその系譜が潜んでいるのか。
「みんなに知らせないと……!」
立ち上がった瞬間だった。
アリシアの後ろから、**「シャラ……シャラ……」**と乾いた鈴の音がした。
振り向くと、そこには──
「あなた、服を着ているのね。すごく、汚れてるわよ」
全裸の村の巫女が立っていた。うっすらと微笑みながら。
「ここでは、服を着ていると“呪い”が起こるの。あなたのような人を、神様はとても嫌うのよ──」
その目は、完全に正気を失っていた。
◆
「こいつは……完全に、魔術に“感応”されてる」
リリアたちと合流したアリシアは、事情を説明した。
ミレーユがうなずく。
「この村の風呂、そして空気中には“何か”が混じってるの。魔力成分の痕跡がある。
多分、“服”はこの魔術への耐性を高めてたんじゃないかしら」
「つまり──服を脱がせて、魔術に浸させるのが目的?」
「可能性は高いわ」
アリシアが手帳を開き、式符を取り出す。
「明日、村の祭祀がある。その時、村の“封印石”が開かれるらしい。
そこが正念場ね。呪いの根源……見つけて、絶対に断ち切りましょう」
◆
夜──。
流星は村の外れにある露天風呂にいた。
「……服を着てたら呪われる、ってのは正直意味がわからんが……」
月明かりの中、肩まで湯に浸かりながら、ふと空を見上げた。
「でも、こうして何もかも脱ぎ捨てると、案外……心が軽くなるもんだな」
「まったく……どこで悟り開いてんのよ」
声がした。
振り向けば──腰にタオルを巻いたリリアが、湯船の縁に座っていた。
「少しは自覚しなさいよ。あんたが“調査の名目で風俗に通ってる”って、みんな知ってるんだから」
「ち、ちがうって今回は!」
「はいはい。どうせ次もまた“癒しの文化だー”って言って脱がされるんでしょ。もう慣れたわ」
それでも、彼女の笑顔には、微かな優しさが宿っていた。
流星は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……リリア。いつも助けてくれて、ありがとう」
「……ま、あんたがあんたでいてくれないと、この旅も退屈だしね」
◆
翌朝。
祭祀の場で、“封印石”が開かれる──。
それが、“神”と名乗る者の正体を暴く舞台となるとは、まだ誰も知らなかった。
――続く。




